今までにない治療法でマウスの卵巣腫瘍が縮小
米国国立がん研究所(NCI)/ブログ~がん研究の動向~
原文掲載日 :2016年1月25日
変異型p53タンパク質を発現している腫瘍に対する、これまでにない治療法が開発された。この変異タンパク質はすべてのがんの半分以上に見つかる。研究チームによれば、この治療法は、高異型漿液性と呼ばれる、進行が速く発症頻度が高いサブタイプの卵巣がんの女性患者に、特に恩恵をもたらすと考えられる。
卵巣がんのほぼ80%は高異型漿液性であり、さらにこのほとんどすべてでp53は変異型である。このサブタイプの患者は通常、がんが進行するまで診断されないため、長期生存率は低く、診断後5年の時点で生存している患者は半数以下である。
がんの病態がヒトの病態と酷似しているものをはじめとする、数種類の高異型漿液性卵巣がんモデルマウスにおいて、今回開発された治療法によって腫瘍は90%以上も縮小し、しかも副作用の所見は見られなかった。
今回の研究成果は、2015年12月31日にCancer Cell誌で発表された。
タンパク質の集まりをバラバラにする
腫瘍抑制タンパク質p53は腫瘍形成が起こらないよう、重要な役割を果たしている。しかしながら、TP53遺伝子に生じた一部の変異がp53タンパク質を不活性化することがあり、現在までのところ、不活化p53をうまく再活性化する薬剤の開発には至っていない。
カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)の学際的研究チームは、少なくとも場合によっては、変異型p53の腫瘍抑制機能を回復させる方法が見つかると考えた。生み出された方法は、変異型p53が一塊になりアミロイド凝集体と呼ばれる凝集体を形成する事象に注目したものである。
アルツハイマー病やパーキンソン病といった、p53とは異なるタンパク質凝集体が高頻度で形成される疾患では、この凝集体が細胞死を促し、疾患発症に直接的に関係すると考えられている。
今回の研究チームは、これまでの成果をもとに研究を進め、変異型p53のいくつかはタンパク質凝集体を形成することを明らかにした、と論文筆頭著者であるUCLA-DOE InstituteのAlice Soragni博士は語る。
つまり研究チームは、共著者であるDavid Eisenberg氏が開発した、アルツハイマー病のような疾患に対する新規治療法を採用し、変異型p53の凝集体形成を抑え、そうすることで機能回復させる治療法の開発が可能かどうか検討した。
平衡を移動させる
研究チームはまず、変異型p53表面の特定領域に、粘着性部分が存在することを示した。Soragni博士曰く、この粘着部分はファスナーのような役目を果たすため、このような部分をもったp53タンパク質が同様の部分を持つp53タンパク質と遭遇すると、合わさって一体となる。
粘着性のあるタンパク質断片の特定に用いた方法と同じ方法を活用して、研究チームは治療法を開発した。すなわち、細胞内に取り込まれてこの凝集を妨げる、ReACp53と呼ばれる、タンパク質の小片、つまりペプチドを用いる方法である。
患者から直接取り出した細胞から作製したオルガノイドという三次元モデルを含めた、いくつかの細胞レベルの変異型p53卵巣がん発がんモデルでは、ReACp53の添加によって広範囲に及ぶがん細胞の細胞死を誘発した。(ReACp53)ペプチドは、正常なp53卵巣がんモデルや、このタンパク質を発現していないモデルに対しては、何も効果を示さなかった。
ここで、高異型漿液性卵巣がんのモデル動物にReACp53を投与したところ、原発性および転移性腫瘍の両方で大幅な縮小が見られた。ReACp53を与えない対照マウスでは、腫瘍のサイズは元のサイズの2倍以上となった。
タンパク質は変異型のままであっても、凝集が遮られることで、腫瘍抑制機能を発揮できる状態へタンパク質の「平衡が移動」したと思われると、共著者であり、UCLA ジョンソン総合がんセンターに所属するSanaz Memarzadeh医学博士は言う。
「どれぐらいの数、どの程度の割合のp53変異がこの事象に関与しているのかについては、まだ精査中です。これは、きわめて重要な問題ですから」と。
研究のさらなる展開
NCIのがん生物学部門所属のJoanna Watson博士は、研究成果を「素晴らしい」と評価した。各種の実験モデルでの生体応答は、p53が正常に機能している場合に予想される反応と矛盾しないと語った。しかしながら、この結果は他の因子が関与する可能性を除外するわけではないと注意喚起した。
このような研究努力を行っているのは、UCLAの研究チームだけではない。他の研究者も変異型p53を安定化する方法を探究していると、Watson博士は付け加えた。
さらに、「数多くの腫瘍でp53に変異が生じていることを考えると、変異型p53に作用してその腫瘍抑制機能を回復する治療法の確立はきわめて大きな意義があります」と続けた。
「研究チームの具体的な目標の1つは、ReACp53に対する生体応答を反映するバイオマーカーの絞り込みである」と、Memarzadeh博士は言う。「数千ものp53における変異から、薬剤が作用するのはどの変異体であるかを突き止めたいと考えています。というのは、このような典型的な凝集体形成変異には、明らかにサブセットが存在しますから」と。
ReACp53は、Eisenberg博士が共同設立したバイオテク企業ADRx, Inc.に対して認可されている。研究チームは、p53が高頻度で変異している卵巣がん以外のがんにも本治療法が有効であるか、さらに本治療法と別の治療法との併用でより効果的になるか、検討を重ねている。
【画像説明】
p53変異型腫瘍抑制タンパク質は一塊になり凝集体を形成し、機能しなくなる。ReACp53を用いた治療はこの凝集を回避し、P53の機能を回復させる。
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