卵巣凍結移植は「安全で有効」

英国医療サービス(NHS)

2015年10月7日水曜日

この技術は、がん治療で不妊症となる女性に希望を与えることができるだろう。

英国では毎年7,100人の女性が卵巣がんに罹患している。

ガーディアン紙は、デンマークにおける小規模試験においてこの技術で約3分の1の妊娠成功率が認められたことから、「がん治療後に赤ちゃんを望む女性の卵巣組織移植は安全で成功率も非常に高いと考えられる」と報告した。

がん治療の改善により、多くの若い女性ががんから生き残り、普通の生活を長く続けている。しかし、多くのがん治療は卵巣を損傷し、これにより卵子がつくられず、妊娠できないことがある。

近年になりがん治療後に妊娠の機会が得られるよう、卵巣の一部もしくは全部を凍結保存できるようにがん治療前に摘出することを提案する医師もいる。後に、凍結保存された卵巣は、断片ごとに、通常は残存している卵巣の中に移植され戻される。

この試験で妊娠を希望した32人中、10人が妊娠できたことが判明した。移植を実施した女性のうち、移植が原因となりうるがんの再発がみられた者はいなかった。移植卵巣中のがん細胞が体内のほかの部位に広がる可能性が懸念されていた。

今回の研究は、この治療が英国でより一般的に利用されるための道筋をつけるかもしれない。しかし、NHSから資金援助があるかどうかは不明である。そのため、この治療は高額になる可能性がある。

研究の出典

この試験は、コペンハーゲン大学病院、オーデンセ大学病院、オーフス大学病院の研究者によって実施され、デンマークの小児がん基金および欧州での地域を超えたプロジェクトReproHighより資金援助を受けた。

本試験は、ピアレビューされるHuman Reproduction誌に誰もが閲覧可能な状態で掲載されており、PDFが無料でダウンロードできるPDF(原文) 248kb

この試験については、英国メディアで広くほぼ正確に報じられた。しかし、メディアの中には、凍結卵巣組織を使うことでがん治療を受けた女性が子どもを持つことができるという内容から、デイリー・メール紙のように「キャリアウーマンの閉経を遅らせ、人生後半に赤ちゃんを妊娠」という治療の使い道の可能性へ飛躍して報じているものもある。たしかに実現可能性はあるが、少なくとも研究者らは、現在のところそういった考えはないと述べている。

研究の種類

この後ろ向きコホート研究は、がん治療を受けた後10年以上が経過した後に卵巣組織の移植を受けた女性群の結果を調査したものである。

このようなコホート研究は、治療後に何が起きたかについては示すものの、その結果が治療によるものだったのか、ほかの利用可能な治療とどの程度比較できるかについては示すことができない。

研究内容

10年以上にわたり、妊よう性を損なう可能性のあるがん治療を受ける前に卵巣組織を凍結していたデンマーク人女性群である。

研究者らは、凍結した卵巣組織を解凍して体内に移植して戻すことを選択した41人を観察した。6人が更年期症状を回避するために治療を受け、1人の子どもが、初潮がうまく始まっていなかったため、この治療を受けた。

研究者らは、妊娠のために移植を受けた女性に焦点を当てた。何人の女性が出産し、また、卵巣組織を移植したことによるがんの再発がみられた女性がいたかどうかについて調べようとした。

移植を受けていない女性の正確なデータはなかったが、研究者らは、移植を受けた女性と移植を受けていない女性のがん再発率を比較した。報告された死亡数を手掛かりにしたものの、がんによるものではない可能性もある。

卵巣移植を受けた女性すべてが子どもを望んでいたわけではないため、研究者らは、移植時に妊娠を希望していた32人の妊娠成功率を報告のもとにした。

研究者らはまた、卵巣組織がどのくらい長く活動性を保っているか、つまり、どれほど長く排卵し続けるかも計測した。その方法については述べられていない。女性にいつまで月経があったか尋ねたかもしれないが、それについては明記されていない。

結果

卵巣移植を受けた妊娠希望の女性32人中、10人が1人以上の子どもを出産し、これは31%が子どもを授かったことになる。合計13人の子どもが生まれ、1人の女性は、調査期間終了段階でサードトライメスター(妊娠27~40週に相当)に入っていた。

10人が妊娠したものの流産もしくは中絶した。しかし、彼女らの中に再び妊娠した女性がいたかどうかは明らかではない。子どもを授かった8例は自然妊娠であり、6例は体外受精によるものであった。

3人でがんが再発したが、いずれも卵巣移植によるものではないと考えられた。がんを再発した女性の割合(7%)は、移植を受けた女性と、移植を受けなかった女性の推定割合と同じであった。

卵巣組織が活動性を保っていた期間はさまざまで、4人は1年未満であり、2人は10年以上であった。ほとんどの移植(41人中29人)で1~7年間持続した。数人の女性は2~3回の移植を必要とした。

結果の解釈

今回の結果から、卵巣組織の移植は「妊よう能の回復に有効な方法」であるとし、「安全性のレベルは高いとみられ、現在まで卵巣組織の移植による(がんの)再発はない」と研究者らは述べている。

結論

今回の試験結果は、女性ががん治療後に子どもを授かるため卵巣移植を受けることの安全性および有効性について、後押しするものであった。この試験は、10年以上にわたる治療の結果を調べる最大規模のもののひとつであった。

しかし、この種の観察研究では、治療後に何が起きたかを示すにとどまっている。移植なしで自然に妊娠できた可能性のある女性がどのくらいいたかどうかについてはわからない。5人の女性の卵巣は、移植時には十分ではないものの機能していた。

また、卵巣移植をほかの妊よう能回復治療(がん治療前の卵子の摘出・凍結など)とどのように比べるかもわからない。

この試験では、卵巣移植後の流産などの転帰が、ほかの妊よう能回復治療よりも発生しやすいかどうかについても、示していない。この試験での妊娠成功率31%については、慎重になる必要がある。

妊娠希望の32人の結果をみても、これらはほかの要因とも絡んでいる。この中には治療しなくても自然に妊娠した人がいるかもれない。妊娠希望について気が変わった人もいるかもしれない。

そして、妊娠したものの流産したり中絶を選択したりした人もいる。これらの要因から、研究者らは、正確な妊娠率を出すのは「不可能」であると述べている。

また、41人という集団は、安全性の数値を示すうえではあまりに小さい。本治療を受けた全女性をより長期にわたって追跡調査することで、がん再発に関するより多くのデータを得ることができるだろう。

卵巣移植を受けていない女性における相対的な信頼性のあるがん再発率を得ることが、移植を受けた女性の再発率が高くないことを示すのに役立つことだろう。

この試験は、英国ではあまり実施されていない妊よう能回復治療に関する有益な情報を提供している。しかし、上述の疑問には答えがないままである。

翻訳担当者 白石里香

監修 喜多川 亮(産婦人科/NTT東日本関東病院)

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原文掲載日 

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