β(ベータ)遮断薬により卵巣がん患者の生存期間が延長する可能性
MDアンダーソン OncoLog 2015年10月号(Volume 60 / Number10)
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In Brief「β(ベータ)遮断薬により卵巣がん患者の生存期間が延長する可能性」
「高血圧症や心疾患の治療薬であるβ遮断薬の投与により上皮性卵巣がん患者の生存期間が延長される可能性がある」とテキサス州立大学MDアンダーソンがんセンターの研究者らにより報告された。
今回の試験から得られた知見は、ストレスホルモンが卵巣がんなどのがんの増殖・進行に拍車をかけることを示唆した研究結果に基づいており、ストレスホルモンによるこの作用をβ遮断薬が抑制するというものである。この知見は2015年8月Cancer誌電子版で発表された。
「ストレスホルモンにより活性化されることで心拍を増強・促進する心筋受容体タンパク質がβ遮断薬の標的ですが、今回のわれわれの研究では、同じストレス機構が卵巣がんの増殖・進行に影響を及ぼすことが示されました。このことから、遮断薬ががんの治療において新たな役割を担う可能性がみえてきたのです」と今回の試験責任医師である婦人科腫瘍学・生殖医学部門の教授Anil Sood医師は述べた。
今回の多施設、後ろ向き解析研究は、2000年~2010年にβ遮断薬を用いた化学療法あるいは何らかの理由でβ遮断薬を用いない化学療法を受けた1,425人の卵巣がん患者を対象に行われた。その結果、β遮断薬の投与を48カ月間受けた患者の全生存期間中央値は、遮断薬なしで42カ月間化学療法を受けた患者よりも統計的有意に長かった(p = 0.04)。また、β遮断薬群の患者269人中193人(71.1%)に選択的アドレナリン1受容体β遮断薬(SBB)、76人(28.3%)に非選択的β遮断薬(NSBB)が投与されていた。
NSBBを投与された患者の全生存期間中央値(95カ月)は、SBBを投与された患者の全生存期間中央値(38カ月)よりも統計学的有意に長かった(p < 0.001)。NSBB投与により全生存期間が大幅に延長されたことで、アドレナリン2受容体シグナル伝達経路、つまりNSBBの標的が、卵巣がん発生の重要な要因であることが強調された。
「これらのデータが励みになるとはいえ、今回の試験が後ろ向き研究であったことを考えると、NSBBをがんの治療に適用する前にさらなる試験が必要です。現在進行中の妥当性試験がそれらの追加試験の道標となるでしょう」。
新たに診断された上皮性卵巣がん患者を対象とした2つの臨床試験(その1つをMDアンダーソンがんセンターが率いている(試験番号2011-0800))において、化学療法とNSBBのプロプラノロールとの併用療法の評価が行われている。
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