マイクロRNAのmiR-506による卵巣がんの化学療法耐性克服の可能性

MDアンダーソン OncoLog 2015年9月号(Volume 60 / Number9)

 Oncologとは、米国MDアンダーソンがんセンターが発行する最新の癌研究とケアについてのオンラインおよび紙媒体の月刊情報誌です。最新号URL

In Brief「マイクロRNAのmiR-506による卵巣がんの化学療法耐性克服の可能性」

卵巣がんで最も多い組織型である卵巣上皮がん患者において、遺伝子発現を調節する非翻訳RNA分子(タンパク質をコードしないRNA分子)が化学療法耐性の克服に重要な役割を担っている可能性がある。この知見は、テキサス大学MDアンダーソンがんセンターの研究で示された。

卵巣上皮がんは卵巣がん全体の約90%を占める。大半の卵巣上皮がん、特に高悪性度の漿液性卵巣上皮がんでは、白金製剤をベースとする化学療法に耐性化する傾向がみられる。

マイクロRNAのmiR-506は、卵巣上皮がん患者における生存期間および化学療法の効果を予測する有望な臨床マーカー候補として、また化学療法に対するがん細胞の感受性を亢進させる作用から治療薬の候補として同定された。

「われわれは、miR-506が化学療法耐性に関与する上皮間葉移行のプロセスの強力な阻害剤であることをすでに明らかにしています」、とMDアンダーソンがんセンターの病理学教授で、本研究の原著論文の統括著者であるWei Zhang博士は述べた。

Zhang博士らは、がんゲノムアトラス(The Cancer Genome Atlas、TCGA)と3つの独立データセットのデータを解析し、miR-506の高発現はより長い無増悪生存期間および全生存期間と関連することを明らかにした。

次にin vitro試験とin vivo試験を実施し、化学療法の効果にmiR-506がどのような役割を担っているかを明らかにした。ヒトの高悪性度漿液性卵巣上皮がん細胞において、miR-506は二本鎖DNA損傷修復遺伝子RAD51に直接作用し、白金製剤ベース化学療法の細胞傷害作用に対するがん細胞の感受性を亢進させた。また、高悪性度漿液性卵巣上皮がんモデルマウスにおいて、白金製剤ベース化学療法にmiR-506封入ナノリポソームを追加投与することで治療効果が有意に改善した。

「この研究により、miR-506の役割、すなわち、がん細胞はDNA修復機構を利用して化学療法によるDNA損傷に対抗しているが、miR-506はこのDNA修復機構に直接作用して化学療法の効果を増強させる、というmiR-506の役割について新たな知見が得られました」とZhang博士は述べた。

本研究の結果は、Journal of the National Cancer Institute(JNCI)誌の2015年7月号に発表された。

The information from OncoLog is provided for educational purposes only. While great care has been taken to ensure the accuracy of the information provided in OncoLog, The University of Texas MD Anderson Cancer Center and its employees cannot be held responsible for errors or any consequences arising from the use of this information. All medical information should be reviewed with a health-care provider. In addition, translation of this article into Japanese has been independently performed by the Japan Association of Medical Translation for Cancer and MD Anderson and its employees cannot be held responsible for any errors in translation.
OncoLogに掲載される情報は、教育的目的に限って提供されています。 OncoLogが提供する情報は正確を期すよう細心の注意を払っていますが、テキサス大学MDアンダーソンがんセンターおよびその関係者は、誤りがあっても、また本情報を使用することによっていかなる結果が生じても、一切責任を負うことができません。 医療情報は、必ず医療者に確認し見直して下さい。 加えて、当記事の日本語訳は(社)日本癌医療翻訳アソシエイツが独自に作成したものであり、MDアンダーソンおよびその関係者はいかなる誤訳についても一切責任を負うことができません。

翻訳担当者 永瀬 祐子

監修 原野 謙一 (乳腺科・婦人科癌・腫瘍内科/日本医科大学武蔵小杉病院)

原文を見る

原文掲載日 

【免責事項】
当サイトの記事は情報提供を目的として掲載しています。
翻訳内容や治療を特定の人に推奨または保証するものではありません。
ボランティア翻訳ならびに自動翻訳による誤訳により発生した結果について一切責任はとれません。
ご自身の疾患に適用されるかどうかは必ず主治医にご相談ください。

卵巣がんに関連する記事

欧州臨床腫瘍学会(ESMOアジア2024)ハイライトの画像

欧州臨床腫瘍学会(ESMOアジア2024)ハイライト

ESMOアジア会議2024は、アジア地域における集学的腫瘍学に特化した年次イベントである。新しい治療法、特定のがん種の管理に関する詳細な議論、アジア全域を対象とした臨床試験、アジア地域...
一般的な卵巣がんに対する特殊なナチュラルキラー細胞の有効性が非臨床で示されるの画像

一般的な卵巣がんに対する特殊なナチュラルキラー細胞の有効性が非臨床で示される

研究タイトルメソセリンの膜近位領域を標的とするCARメモリー様NK細胞が卵巣がんに有望な活性を示す掲載誌Science Advances誌著者(ダナファ...
一部の早期婦人科がんにペムブロリズマブ+化学放射線や抗Claudin6抗体薬物複合体が有益の画像

一部の早期婦人科がんにペムブロリズマブ+化学放射線や抗Claudin6抗体薬物複合体が有益

ESMO 2024で報告された研究により、現在の標準治療に免疫療法を追加することで臨床的に意味のある利益が得られる早期の子宮体がん(子宮内膜がん)(1)および子宮頸がん(2)の新たな患...
【ASCO2024年次総会】進行卵巣がんにリンパ節郭清が不要である可能性の画像

【ASCO2024年次総会】進行卵巣がんにリンパ節郭清が不要である可能性

ASCOの見解(引用)「このランダム化第3相臨床試験は、進行卵巣がんの手術を受ける患者が、原発巣からの転移がないと思われるリンパ節の追加切除を安全に回避できる可能性を示していま...