【ASCO2024年次総会】ホルモン補充療法、エストロゲン単剤でがんリスク増加、エストロゲン+プロゲスチン併用でリスク低下

ASCOの見解(引用)

「Women's Health Initiative研究の長期追跡調査から、閉経後の女性が結合型エストロゲン(CEE)を単独で服用した場合、プラセボを服用した女性に比べて卵巣がんの発生率および死亡率が高かったものの、卵巣がんの絶対リスクは両群とも極めて低かった。この最新情報は、患者のカウンセリングと教育の中で重要であるが、リスクが低いことを考えれば、更年期障害の症状緩和のために更年期ホルモン補充療法を受ける女性の決断に必ずしも影響を与えるべきではない。現在、CEEはあまり一般的に使用されていないエストロゲン製剤であるため、歴史的背景として参考になるものの、この研究結果を現代のエストロゲン製剤に当てはめるのは難しい。」
--Eleonora Teplinsky医師(ヴァリー・マウントサイナイ総合がんケア、パラマス、ニュージャージー州)

研究要旨

目的更年期を経験し、更年期ホルモン補充療法を受けた人のがんリスク
対象者50~79歳の女性27,347人
主な結果結合型エストロゲン(CEE)を単剤で服用した人は卵巣がんの発症リスクおよび死亡リスクが高い可能性があるが、CEEとメドロキシプロゲステロン酢酸エステル(MPA)を併せて服用した人はそうではない。さらに、CEEとMPAを併用した人は、子宮がんの発症リスクが低い可能性がある。
意義Women's Health Initiative(WHI:女性健康に対する取り組み)は、閉経した女性の健康を評価するために1991年に米国で開始された一連の臨床試験である。

研究者らは、更年期ホルモン補充療法が経時的に卵巣がんや子宮がんの発症や死亡のリスクにどのように影響するかを知りたかった。卵巣がんと子宮がんは、閉経後女性で多く診断される。

閉経を経験し更年期ホルモン補充療法を受けた人において、結合型エストロゲン(CEE)単剤投与は卵巣がんの発症および死亡リスクを高める可能性がある一方、CEEとメドロキシプロゲステロン酢酸エステル(MPA)の併用はこのリスクを上げることなく、子宮がんの発症リスクを下げる可能性がある。本研究は、5月31日から6月4日までイリノイ州シカゴで開催される2024年米国臨床腫瘍学会(ASCO)年次総会で発表された。

研究について

「これらのランダム化プラセボ対照臨床試験以前には、卵巣がんと子宮内膜がんに対するエストロゲンとプロゲスチンの影響を調べた観察研究の結果は、まちまちであった。また、エストロゲン単剤投与が卵巣がん死亡率に及ぼす影響については、ランダム化での知見はなかった。われわれの研究は、閉経後女性によくみられる2つのがんについて、最もよく使用される2つの薬剤のランダム化臨床試験から得られた唯一の長期的情報を提供するものである。」
--  Rowan Chlebowski医学博士(ランドキスト研究所、トーランス、カリフォルニア州)

研究者らは、Women's Health Initiative(WHI)の一環として1993年から1998年にかけて実施された2つのランダム化臨床試験の長期追跡解析を行った。米国内40の研究センターから得られたデータを評価した。研究には、過去10年以内に乳がんをはじめ、いかなるがんにも罹患していない50歳から79歳の閉経後女性27,347人が登録された。研究対象となった参加女性の約5人に1人が人種的・民族的マイノリティグループの出身者であり、これは研究当時の米国人口に比例していた。参加者のうち、16,608人はまだ子宮があり、10,739人は子宮を摘出する子宮摘出術を受けていた。

ランダム化の際、当時の標準治療に基づいて、子宮摘出を受けた参加者はCEE(エストロゲンのみを含む更年期ホルモン補充療法の一種)投与を受け(CEE群)、子宮が残っている参加者はCEEとMPA(エストロゲンとプロゲスチンの両方を含む)投与を受けた(CEE+MPA群)。子宮摘出を受けた参加者のうち、5,310人がCEE単剤を投与され、5,429人がプラセボを投与された。子宮が残っている参加者のうち、8,506人がCEE+MPAを投与され、8,102人がプラセボを投与された。

研究者らの計画では、参加者がそれぞれの治療を8.5年間受ける予定であったが、CEE+MPA群では乳がんリスク上昇のため5.6年後に、CEE群では脳卒中リスク上昇のため7.2年後に治療を中止した。

主な知見

20年間の追跡調査において、CEE単剤投与群ではプラセボ投与群に比べ、卵巣がん発症の可能性が2倍、卵巣がんで死亡する可能性が3倍近く高いことが示された。卵巣がんの発症リスクの増加は、追跡調査12年目に始まり、時間が経過しても 減少しなかった。

CEE+MPA群のうち、CEE+MPA投与群では、プラセボ投与群に比べ、卵巣がんの発症や死亡のリスクは増加しなかった。さらに、CEE+MPA投与群では、プラセボ投与群に比べて子宮がんの発症リスクが28%低かった。しかし、子宮がんで死亡するリスクについては同じ影響はみられなかった。

次のステップ

WHIのこれらのデータに基づき、研究者らはWHIで明らかにされた更年期治療の有害性と有益性を統合し、卵巣がんを含めることを計画している。このリスクは、更年期ホルモン補充療法の現行処方ガイドラインには組み込まれていない。

Women's Health Initiative試験は、1993年から継続する、米国国立衛生研究所からの連続契約によって資金提供された。

  • 監訳 勝俣範之(腫瘍内科/日本医科大学武蔵小杉病院)
  • 記事担当者 山田登志子
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  • 原文掲載日 2024/05/23

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