一部の進行卵巣がんにミルベツキシマブ ソラブタンシン承認、治療選択肢が拡大
進行卵巣がんの場合、当初はプラチナ製剤ベースの化学療法薬でうまく治療できるが、がんが再発することが多い。プラチナ製剤抵抗性の卵巣がんは治療が困難であることが証明されているが、最近、米国食品医薬品局(FDA)がミルベツキシマブ ソラブタンシン-gynx(販売名:Elahere)を全面的に承認したことで、このような状況にある患者の一部に新たな治療の選択肢が加わった。
今回の承認により、腫瘍がFR-αと呼ばれるタンパク質を過剰に産生するプラチナ製剤抵抗性進行卵巣がん患者の治療にElahereを使用することができる。最も一般的な病型である高悪性度漿液性上皮性卵巣がん患者の約80%は、腫瘍がFR-αを過剰発現している。
FDAの承認は、MIRASOLと呼ばれる大規模ランダム化臨床試験の結果に基づいている。試験の結果、FR-α陽性でプラチナ製剤抵抗性の卵巣腫瘍を有する患者において、Elahereによる治療を受けた患者は、標準的な化学療法を受けた患者よりも全生存期間が長いことが示された。また、無増悪生存期間(がんが悪化することなく生存する期間)も改善した。Elahereを投与された患者は、重篤な副作用も少なかった。
MIRASOL試験を主導したオクラホマ大学健康科学センターのKathleen N. Moore医師は、Elahereの承認は進行卵巣がんの治療において待望の重要地点通過であると述べた。
プラチナ製剤ベースの化学療法に耐性を示すようになった患者にとって、Elahereは「全生存期間を改善する初めての新しい治療法です」とMoore医師は述べ、「この10年間で初めて無増悪生存期間を改善した薬剤でもあります」と付け加えた。
この新しい治療法が利用できるようになったことで、腫瘍のFR-α検査が必須となった、とMoore医師は続けた。「腫瘍がプラチナ製剤(化学療法)に耐性を示したら、できるだけ早期にこの薬剤を使用できるように、患者の腫瘍のFR-αの状態を知る必要があります」。
がん細胞だけに存在するタンパク質を標的
卵巣がんは、米国では女性のがん死亡原因の第5位である。2023年には19,710人が新たに発症し、13,270人が死亡すると推定されている。初期の徴候や症状が特異的でないため、ほとんどの人は進行期になって初めて診断される。
進行した卵巣がんの治療には、通常、手術の後にプラチナ製剤をベースとした化学療法が行われる。しかし、約80%の人に再発がみられ、その多くは化学療法に抵抗性を示すためである。
このような患者に対する標準治療法のひとつである標的治療薬ベバシズマブ(販売名:アバスチン)と化学療法(非プラチナ製剤)の併用療法は、プラチナ製剤抵抗性卵巣がん患者の無増悪生存期間をわずかに延長することが示されているが、全体としての生存期間は延長していない。
研究者たちは、FR-αを標的とする薬剤を開発することで、プラチナ製剤による化学療法に耐性があるがん患者を助けようとしてきた。FR-αは多くの卵巣がんで過剰発現しているだけでなく、高悪性度の漿液性卵巣がんの約30%から40%では特に高値を示す。
Elahereは、DM4と呼ばれる強力な化学療法剤にミルベツキシマブというモノクローナル抗体を結合させた抗体薬物複合体である。患者に注入されると、ミルベツキシマブは卵巣がん細胞の表面にあるFR-αを探し出して結合する。同薬剤はがん細胞内に引き込まれ、そこでDM4が放出され、細胞を死滅させる。FR-αは主にがん細胞に存在するため、健康な細胞にはほとんど影響を及ぼさない。
FR-α陽性のプラチナ製剤抵抗性卵巣がん患者を対象とした大規模臨床試験において、ElahereはFR-αタンパク質のレベルが最も高い腫瘍に対して特に有望とみられた。FR-α高レベルの患者に限定した、後の臨床試験SORAYAでは、Elahereによって40%近くの人の腫瘍が縮小した。
これらの結果に基づき、FDAは2022年11月にElahereを早期承認した。MIRASOL試験は、この薬剤が生存期間延長を含む臨床的利益をもたらす可能性があることを確認するために、FDAの要請により実施された。
患者の延命に貢献
MIRASOL試験はElahereの製薬企業であるImmunoGen社の資金提供により実施され、FR-α陽性のプラチナ製剤抵抗性卵巣がん患者453人を対象として、Elahereを3週間ごとに点滴静注する群と化学療法を行う群に無作為に割り付けた。
Elahereによる治療は全生存期間と無増悪生存期間を延長させただけでなく、Elahereを投与された人々は化学療法を受けた人々と比較して腫瘍が縮小する可能性が3倍近く高かった。Elahereを投与された人の中には、一時期がんが完全に消失した人もいた。
無増悪生存期間 | 全生存期間 | 腫瘍が縮小した患者 | |
Elahere | 5.6カ月 | 16.5カ月 | 42% |
化学療法 | 4.0カ月 | 12.8カ月 | 16% |
Elahereで治療された人々は、化学療法で治療された人々よりも血球数の減少などの重篤な副作用が少なかった。目のかすみや角膜症などの眼の問題は、Elahereで最も多くみられた副作用の一つであった。
Elahereの使用に際しては、眼に関連する副作用について患者に特別な注意が必要である。Moore医師によれば、これらの副作用は通常、ステロイドの点眼薬で管理するか、投与量を少なくして頻回投与するように治療法を変更することで対処できる。
「眼に永久的な障害が出た患者はいません。また、一旦症状が治まれば、再発することはないので、患者さんはずっと薬を使い続けることができます」とMoore医師は述べた。
婦人科系がんの治療を専門とするシンシナティ大学医学部のCaroline Billingsley医師は、腫瘍医がElahereを処方する際は、眼に関連する症状が生じた場合に対処できるよう、検眼医や眼科医と緊密に連携することが重要であると指摘した。
Billingsley医師は、今回の試験には関与していないが、Elahereで治療した患者は全体的にQOLが良好であると述べた。
「標準化学療法でよくみられるような副作用は出ていません。この薬剤のおかげで脱毛症にならずに済み、これはすばらしいことです。また、神経障害(神経痛)にも少し効果があります」と述べている。
卵巣がん治療の新時代
現在、プラチナ製剤感受性のFR-α陽性卵巣がんで、以前の治療後に再発した患者を対象として、臨床試験でElahereの評価が行われている。研究者たちはまた、Elahereが進行卵巣がんの初回治療として、あるいはベバシズマブとの併用療法として有効かどうかも研究している。
Moore医師によれば、卵巣がんの治療にElahereを使用する最良の方法を「見いだすまでには何年もかかるだろう」とのことである。
卵巣がんを治療する他の多くの抗体薬物複合体がはるかに遅れているということではなく、多くはFR-α以外を標的とするということである。
同医師は今回の承認について、「新しい時代の到来を告げるものです。数年後にはさらに優れた薬剤が使えるようになるでしょう」と言う。
- 監訳 高光恵美(生化学、遺伝子解析)
- 翻訳担当者 山田登志子
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- 原文掲載日 2024/04/24
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