ビタミンCによる化学療法の効果促進は証明されず

英国医療サービス(NHS)      

2014年2月10日月曜日                                                                                                      

BBCニュースのウェブサイトに、「ビタミンCが癌を食い止めることを米国の研究が示唆」という不正確な見出しが掲載された。この試験では高用量ビタミンCが癌患者の生存期間を延長することは認められなかったが、化学療法に関連する副作用の一部を軽減することは明らかとなった。

この試験は、ビタミンCが化学療法の有効性を向上させるかどうか、特に末期の卵巣癌の女性での有効性を実際に調べた。

ビタミンCは、マウスとヒトの両群に(錠剤投与や食物からの摂取ではなく)経静脈投与された。ヒトに対して実施した試験は、ビタミンCが癌細胞を消滅させる、または癌と診断されてからの5年生存率を向上させることを証明するにはあまりに小規模であった。結果は統計学的に有意でなく、つまり何かしらの有益な効果は偶然による可能性がある。

しかし、今回の研究は、ビタミンCが女性に対する化学療法による副作用を軽減する可能性を確かに示唆している。それでも、ビタミンCの有効性を証明したと信じるにはあまりに小規模であった。さらに、ビタミンCを投与されたかどうかを女性らが知っていた事にも注目すべきである。そのため、プラセボ効果が患者による副作用報告に影響したかもしれない。

不快な化学療法の副作用を軽減させる(または化学療法の有効性を向上させる)可能性のある治療は研究に値する。しかし、ビタミンCが癌患者の生存期間に与える影響や、副作用の軽減に影響するかどうかは、いまだ証明されていない。

さまざまな癌に対し標準化学療法と併用した際のビタミンC経静脈投与の効果を調べる大規模な人での試験が、この予備試験で持ち上がった多くの未解決の課題に回答を出し、小規模試験の限界に対処できるであろう。

記事の発信源

本研究は、米国のカンザス大学の研究チームによって実施され、ゲートウェイがん研究基金、カンザス大学基金、カンザス大学医療センター研究所と、米国国立衛生研究所による資金提供を受けた。

また、論文審査のある専門誌(ピアレビュー)であるScience Translational Medicine誌に掲載された。

この試験に関するのBBCの報道の質は玉石混淆であった。プラス面では、BBCはある癌専門医が次のように述べた正確でバランスのとれた言葉を引用した。「たった22人の患者というあまりに小規模な試験から、高用量ビタミンC注射投与が生存期間に何かしら影響するかどうかを判断するのは、難しいが、化学療法の副作用を軽減するとみられ、興味深い」。

その専門医は続けて、「癌に対して何らかの見込みのある治療は、その安全性と有効性を確認するための大規模な臨床試験による徹底的な評価が必要で、患者に対し高用量のビタミンCにどういった有効性があるか確実に理解するためにさらなる試験が必要であるとも述べた。

マイナス面では、(今はもう変更しされているが)最初の見出しの「ビタミンCが癌を食い止める」は、試験結果の誤解を招く要約であった。ビタミンCが癌を予防するという信頼できる証拠はなかった。

しかし、この報道は、「研究者らは卵巣癌患者に対するし高用量ビタミンCの有効性を確立」と謳った、カンザス大学メディカルセンターの非常に過熱した報道発表にも責任の一端があるかもしれない。

研究者らの、「製薬会社は、ビタミンは特許権申請ができないため臨床試験を実施しないだろう」という主張も、批判されることなく受け止められた。こういった無分別な発言は確実に議論を呼ぶ。ビタミンに関与する試験はすでに製薬会社によって資金提供されている。現行する研究に資金提供する方法は、政府や学術・募金による資金提供などさまざまである。

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研究の種類

本研究は、実験室を基盤とした細胞の研究と、マウスを対象にした研究、ヒトを対象にした研究を組み合わせて、ビタミンCが卵巣の癌(卵巣癌)に対する抗癌物質としての可能性を検証した。

本試験の著者らは、ビタミンCは何十年もの間、癌医療の一つとして推奨されている、中でもノーベル賞受賞化学者のライナス・ポーリング氏が推奨者としてもっとも有名であると述べた。しかし、ビタミンCを経口的に投与した初期の研究では有益な効果が全くみられず、この研究の道はおおむね閉ざされた。

それから、ビタミンCを高用量かつ経口投与ではなく直接静脈投与した場合、抗癌剤としていまだ有効であるかもしれないという事例証拠が増加している。

この論点を解明するために、本研究は、卵巣癌に対する経静脈投与された高用量ビタミンCの効果を調べるという目的で実施されている。

研究内容

研究者らは当初、実験室での細胞学的かつ分子学的なレベルで、ビタミンCのヒトの卵巣癌細胞への効果を研究していた。彼らは、ビタミンC単独の効果だけでなく、主な化学療法薬剤として卵巣癌治療に用いるカルボプラチンとビタミンCの併用投与に複合(相乗)効果があるかどうかについても研究した。

その結果に自信を得て、研究者らはヒトの卵巣癌細胞をマウスに移植して、生物内で化学療法とビタミンCの併用療法が、その移植した癌細胞に効果があるかどうかを研究した。

この結果は、新たに末期卵巣癌(第III期と第IV期)、すなわち骨盤外に広がっている卵巣癌と診断された27人の患者が参加した小規模臨床試験によって集積された。

ヒト臨床試験の参加者は、612カ月間、以下の静脈投与のうち一つの投与群に無作為に割り付けられ、その後どれくらい生存したか5年間にわたり経過観察が行われた。

・パクリタキセルとカルボプラチン療法(卵巣癌患者に対する標準化学療法)

・パクリタキセルとカルボプラチン療法に高用量ビタミンCを併用(標準化学療法とビタミンCの併用)

標準化学療法は6カ月実施した。標準化学療法に併用されたビタミンC療法は12カ月間実施した。

試験の間、研究者らは、化学療法によって起こる多くの異なる毒性面と化学療法による副作用を観察した。

27人の参加者のうち2人が、化学療法とビタミンCの併用投与を希望したがその群に割り付けされなかったため脱落し、主な分析は25人を対象に行われた。

結果

もっとも関連のある最新の結果は、小規模ヒト臨床試験で得られた。主な結果は以下の通り。5年以上の癌生存期間は、標準化学療法とビタミンCの併用投与群の方がやや良好だったが、生存期間の差は統計学的に有意ではなかった。これは、生存期間には効果がない、もしくは効果をみるのには試験があまりに小規模だったことを示している。

軽度から中等度(グレード1もしくは2の毒性)に分類された化学療法に関連する副作用は、化学療法の単独投与群よりも、化学療法とビタミンCの併用投与群の方が有意に少なかった。重度もしくは生命を脅かす副作用(グレード3まはた4)の発現は少数で、2つの治療群間で有意な差はみられなかった。

結果の解釈

研究者らの主な解釈は、「ビタミンCの利益の可能性と最小限の毒性に基づき、標準化学療法を併用したアスコルビン酸塩(ビタミンC)静脈投与の試験を、より大規模な臨床試験で立証すべきである」というものであった。

結論

新たに卵巣癌と診断された25人の患者のうち、標準化学療法とビタミンCを併用投与された患者は、標準治療のみの患者よりも、軽度から中等度の治療関連副作用が有意に少ないことが分かった。

しかし、研究者らは治療後5年まで観察した結果から、癌の生存期間について有意な差を見つけることはできなかった。(「この結果の解釈の一つとして」)、この試験が何らかの効果を見つけるのにはあまりに小規模であったというものがある。しかし、生存期間への効果が全くなかったとも言える。

この試験では、女性がビタミンCを投与されたかどうか知っていた事に注目すべきである。プラセボ効果が副作用の報告に影響していたとも言える。これは、2人の参加者が実際に試験から脱落したのは、標準化学療法群に割り付けらたがビタミンCの併用投与も希望したことと特に関連あると思われる。この事は、少なくとも一部の参加者が、ビタミンCの投与を通してより高い効果を期待していたことを示している。

結果的には、経静脈投与された高用量のビタミンCが、卵巣癌の治療で現行の化学療法の補完療法となるという仮説的な証拠はあるが、納得できるような証明には至らなかった。

少ない標本数(25人のみ)と、さまざまな種類の癌を対象としないで卵巣癌に完全に焦点を絞っていることから、この研究から導くことができる結論は限られている。

これらの論点から、現段階では、あらゆる種類の癌に対する今回の研究結果の信頼性と一般化の可能性は限られている。

さまざまな種類の癌に対し、標準化学療法と併用した、ビタミンCの経静脈投与を研究する大規模なヒト臨床試験によって、現行の研究に欠けている信頼性を提供できるであろう。

翻訳担当者 松川みれい

監修 大野 智(帝京大学/東京女子医科大学)

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原文掲載日 

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