OncoLog2013年5月号◆In Brief「β遮断薬の使用により放射線治療中の肺癌患者の生存率が上昇」、「Selumetinib(セルメチニブ)が再発した低悪性度卵巣癌患者の治療に有望」、「バレニクリンの使用で喫煙者の禁煙成功率が改善」
MDアンダーソン OncoLog 2013年5月号(Volume 58 / Number 5)
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◇In Brief◇
・β遮断薬の使用により放射線治療中の肺癌患者の生存率が上昇
・Selumetinib(セルメチニブ)が再発した低悪性度卵巣癌患者の治療に有望
・バレニクリンの使用で喫煙者の禁煙成功率が改善
β遮断薬の使用により放射線治療中の肺癌患者の生存率が上昇
テキサス大学MDアンダーソンがんセンターの研究結果によると、βアドレナリン受容体遮断薬(β遮断薬)の使用により、根治的放射線治療を受けている非小細胞肺癌(NSCLC)患者の生存期間が延長するという。
放射線腫瘍科の助教、Daniel Gomez医師が主導した解析で、根治的放射線治療中のNSCLC患者集団においてβ遮断薬を付随的に使用することにより、無遠隔転移生存期間、無病生存期間および全生存期間が延長することが判明した。
この後向き研究の対象となった722人の患者のうち、155人が放射線治療中にβ遮断薬の投与を受けていた。そのうち約2/3は高血圧治療、残りの1/3の患者のほとんどが冠動脈心疾患治療のためにβ遮断薬を服用していた。
β遮断薬を服用していた患者と服用していなかった患者の転帰を比較する単変量解析で、β遮断薬の使用が無遠隔転移生存期間、無病生存期間および全生存期間の延長に関連することが示された。また、年齢、カルノフスキー・パフォーマンス・スコア、病期、腫瘍の組織学的性質、化学療法の併用、放射線照射量、肉眼的腫瘍体積、高血圧、慢性閉塞性肺疾患およびアスピリンの使用の有無による補正後に多変量解析を行った場合にも、β遮断薬の使用と無遠隔転移生存期間、無病生存期間および全生存期間の延長との関連が示された。
β遮断薬のほかにもいくつかの因子が生存期間との有意な関連を示した。化学療法の併用は全生存期間の延長、年齢65歳未満は無病生存期間の延長、80点を上回るカルノフスキー・スコアは無遠隔転移生存期間、無病生存期間及び全生存期間の延長、ステージIIIの疾患は無遠隔転移生存期間、無病生存期間及び全生存期間の短縮と関連していた。
本研究はAnnals of Oncology誌1月号で報告された。Gomez医師らは、β遮断薬の使用期間及び使用時期が癌患者の生存期間に影響を及ぼすかどうかを確認する前向き試験の実施を提案している。
Selumetinib(セルメチニブ)が再発した低悪性度卵巣癌患者の治療に有望
最近実施された第2相臨床試験の結果によると、MEK1/2阻害剤のセルメチニブは、再発低悪性度漿液性卵巣癌の一部の患者に治療利益をもたらすという。
このオープンラベル単一群試験は、低悪性度漿液性卵巣癌の標的療法を評価した最初の試験であり、少なくとも1回の前治療歴がある再発患者52人を組み入れた。セルメチニブ 50 mg 1日2回の経口投与を、4週間を1サイクルとして中央値で4.5サイクル実施した。各患者の投与量は血液、皮膚または消化器関連有害事象の発現状況に応じて調節した。
セルメチニブ投与により、患者8人(15%)に完全奏効または部分奏効、34人(65%)に6カ月以上の病勢安定がみられた。無増悪生存期間の中央値は11カ月、2年全生存率は55%であった。治療に関連した死亡は発生しなかった。
「最終的には深刻な結果をもたらし得る卵巣癌に対し、非常に有望な試験結果が得られています」と、テキサス大学MDアンダーソンがんセンターの婦人科腫瘍・生殖医療科の教授で本論文の統括筆者であるDavid Gershenson医師は言う。
本試験で発現したグレード4の有害事象は、疼痛、心事象および肺事象(各1人)であった。グレード3の有害事象は、心毒性、消化器関連事象、疼痛、疲労および貧血であった。これらの有害事象により、22人の患者でセルメチニブの投与量が減量され、13人が最終的に試験を中止した。
低悪性度漿液性卵巣癌は高悪性度癌よりも進行は遅いが、初回治療に失敗した場合、治療はきわめて困難となり、80%を超える患者で疾患が残存または再発する。再発または再燃した低悪性度漿液性卵巣癌は高悪性度癌に比べて標準治療に対する感受性が低く、その奏効率は通常10%未満である。
「術前化学療法の実施の有無にかかわらず、手術後に低悪性度漿液性卵巣癌が残存または再発した場合、化学療法およびホルモン療法はあまり効果がありません」とGershenson医師は言う。
セルメチニブはMARKシグナル伝達経路の重要な分子であるMEK1/2を阻害する。MARKシグナル伝達経路にはBRAFおよびKRAS遺伝子も関与している。BRAFおよびKRAS遺伝子変異は、低悪性度漿液性卵巣癌によくみられる。本試験では、14人にKRAS変異、2人にBRAF変異がみられたが、患者がいずれかの変異を有することと、セルメチニブによる治療効果との間に関連はなかった。
本試験は米国国立癌研究所の婦人科腫瘍学グループによって実施され、その報告はThe Lancet Oncology誌の2月号に発表された。
バレニクリンの使用で喫煙者の禁煙成功率が改善
テキサス大学MDアンダーソンがんセンターの研究者らの報告によると、禁煙試験でバレニクリンを服用した喫煙者は、bupropion(ブプロピオン)またはプラセボを服用した喫煙者と比べて禁煙に成功する確率が高く、全体的な禁煙経験もすぐれていた。
MDアンダーソンがんセンター行動科学科の教授で禁煙治療プログラム(Tobacco Treatment Program)の責任者、Paul Cinciripini博士が主導する研究チームは、禁煙を希望する約300人の喫煙者を対象に、2つの一般的な禁煙薬、バレニクリンとブプロピオンの相対的有効性を調べた。参加者をバレニクリン、ブプロピオンまたはプラセボを服用する群に無作為に割り付けるとともに、詳細な禁煙カウンセリングを実施した。治療期間中毎週、参加者のニコチン離脱症状および情緒的機能を評価した。
その結果、バレニクリンを服用した場合のみ、プラセボと比較してすべての時点のあらゆる評価で禁煙率が有意に高かった。この結果はバレニクリンの第3相臨床試験の結果と一致する。バレニクリンとブプロピオンのどちらを服用した場合も、プラセボと比較して参加者のニコチン渇望感は低減したが、バレニクリンを服用した参加者の方が、たとえ喫煙をやめなかった場合でもニコチン渇望感が少なかった。
「喫煙者が禁煙しようとすると、その多くが否定的気分、集中困難、易刺激性、さらには抑うつ状態といったさまざまなニコチン離脱症状を経験します。この離脱症状が禁煙を困難にし、再喫煙のきっかけを増やしているのです」とCinciripini博士は言う。「私たちが得た知見は、喫煙者が自分自身の意思やブプロピオンの服用によって禁煙を試みるよりも、バレニクリンを使用した方がすぐれた禁煙経験が得られることを示唆しています」。
また、Cinciripini博士らは、服用したのがバレニクリンまたはブプロピオンのいずれであっても、禁煙に成功した参加者では、成功しなかった参加者に比べて否定的感情、不安および悲哀感が少なく、肯定的感情が強いことをつきとめた。
「この結果は、喫煙自体があまりすぐれた抗うつ剤にはならないことを示唆している点で非常に興味深いものです」とCinciripini博士は言う。「それはまた、喫煙をやめることができる人の方が喫煙を続ける人に比べて最終的には気分が良いと感じることを示唆しています」。
本研究の論文はJAMA Psychiatry誌の電子版3月号に発表された。
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