2007/02/06号◆癌研究ハイライト「マンモグラフィ受診率低下」「悪性リンパ腫の局所放射線治療利益なし」「卵巣癌腹腔内投与はQOL不良」他

同号原文

米国国立がん研究所(NCI) キャンサーブレティン2007年02月06日号(Volume 4 / Number 6)
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癌研究ハイライト

40歳以上の女性のマンモグラフィ受診率が低下

アメリカ疾病管理予防センターの1月26日付けのMorbidity and Mortality Weekly Reportに掲載された最近の報告によると、40歳以上の女性のマンモグラフィ受診率が2000年から2005年にかけてかなり低下した。

この報告は、州ごとに成人に対して無作為に電話して調査するBehavioral Risk Factor Surveillance Systemの結果をまとめたものであった。2000年から2005年にかけて行われたこの調査は、成人女性に対しこれまでマンモグラフィ検査を受けた事があるかどうかを尋ねるものであった。更に検査を受けた事があると答えた女性に対して、最後にマンモグラフィ検査を受けてからの期間を尋ねた。

40歳以上の女性のマンモグラフィ受診率は、2000年には76.4%であったのが、2005年には74.6%とかなり低下した。しかしながら、編集委員らは下記の5つの制約がある事を指摘している。1)結果は実際の乳癌検査率を過大評価しているかもしれない、2)電話による調査のため、この結果は全ての女性を評価していないかもしれない、3)回答は自己申告であって、医療記録で確認されたものではない、4)調査の回答率は低い、5)Women’s Health Moduleに含まれる州のみの調査であるため、この結果は全米の対象成人を表すものではないかもしれない。

編集委員らは、さらに、1-2年毎のマンモグラフィ検査は乳癌による死亡率を有意に減少させるため、2000年から2005年の検診の低下に関してはより慎重なモニターが必要であると付け加えている。

ウイルスがどのように生体防御から逃れるかの研究結果

最新の研究は、成人T細胞白血病やリンパ腫を引き起こすウイルスは、人体の自然な防御機序の1つをどのように回避するのかを説明している。この研究により、通常はウイルスの複製を抑制する酵素が、ヒトT細胞白血病ウイルスI型(HTLV-1)によってウイルス粒子から除かれている事が判明した。APOBEC3GあるいはhA3Gと呼ばれる酵素に対する抵抗力は、ウイルスの持続、伝播、及び潜在的な自然死の原因であるかもしれない。

メリーランド州フレディリックにある癌研究センターにあるNCIのHIV Drug Resistance Program (NCI薬剤耐性プログラム)のDavid Derse医師と彼のグループは、2月5日週刊号Proceedings of the National Academy of Science誌オンライン版に研究結果を発表した。HTLV-1に感染している人は世界中に200万人と推定され、日本の南部、カリブ諸島とアフリカの風土病である。アメリカにおける多くのケースは南東部で見つかる。1500人の感染者中、年間およそ1人はHTLV-1に関連した白血病を、通常、最初の感染から数十年後に発症する。

癌やエイズの原因となるいくつかのヒトウイルスあるいは非ヒトウイルスは、hA3Gを媒介とした破壊の影響を受けやすい。あるウイルスは、しかしながら、この防御機序を回避する方法に順応している。HTLV-1とエイズウイルス(HIV-1)は、Tリンパ球白血球に感染することが知られており、そして、それぞれはhA3Gの抗ウイルス作用を妨害する異なった方法を作り出している。hA3Gがウイルスの小片に組み込まれた時、hA3Gはウイルスそのものを低下させて非活性化するプロセスを開始する事が出来る。

「私たちの究極の目標は、HTLV-1ウイルスが人体で活性化することを阻止する方法を見つけようとする事である」と、Derse医師は語った。「しかし、それを見つける前に、私たちはウイルスがどのようにして感染を退ける細胞の自然防衛を回避するかをもっと理解する必要がある。」

さらなる研究は、hA3Gがどのようにしてウイルスの小片に取り込まれるかについて調査することである。「次の段階は、HTLV-1に関係する他のウイルス見つけ出し、人体の自然防御の回避機序を研究する事である」とDerse医師は語った。

タバコ中毒に関与する脳の領域が判明

脳の多くの部位が常習性行動に関与しているため、昨今行われてきた介入にもかかわらず、喫煙者にとって禁煙は難しく、禁煙後に喫煙を再開してしまう事もよくある。1月26日付けのScience誌に掲載されたアイオア大学の新しい研究によると、意識的に喫煙衝動をおこす重要な役割を果たし、新しい禁煙療法の潜在的目標となる島と呼ばれる脳の部分を特定した。

研究者らは、島を含む脳に障害がある19人の喫煙者と脳の他の部分に障害がある50人の喫煙者を比較した。彼らは喫煙習慣の中止、例えば、脳障害による1日以内の喫煙の中止、喫煙衝動の喪失、禁煙する容易さ、及び、喫煙再開がないこと、等を評価した。

左もしくは右の島に障害を持つ患者は、他の部分に障害を持つ患者より喫煙習慣を中止する可能性が有意に高い。島に障害を受けた後に禁煙した13人中12人は喫煙習慣を中止したが、それに比べて、脳の他の部分に障害を受け禁煙を試みた19人は僅かに4人のみであった。島以外の脳の障害は喫煙習慣の中止に関係していなかった。

これら患者の体験より、「島は、体に喫煙が必要だと感じる役割を果たしている」と著者は説明した。「私たちの発見により、島の機能を調整する治療は、喫煙者から脱却する有用な手助けとなるであることを示している」。

悪性リンパ腫の局所への放射線治療は利益に結びつかない

多くの臨床医は、限局期の中~高悪性度リンパ腫に対して化学療法の後に、よりよい局所のコントロールは良好な結果をもたらすという原則のもとに、腫瘤付近を標的として放射線治療を行なっていた。しかしながら、今週のJournal of Clinical Oncology誌オンライン速報に掲載されたヨーロッパでの試験で、放射線治療の追加は、無事象生存率あるいは全生存率を改善させないことが示された。

研究者らは、576人の患者を無作為にCHOP療法(シクロホスファミド、ドキソルビシン、ビンクリスチン、プレドニゾロン)単独群、または、CHOP療法に局所放射線治療を追加した群に割り付けた。無事象生存率と全生存率は二つの群の患者に差は無かった。Groupe d’Etude des Lymphomes de l’Adulte (GELA)に寄稿している主任執筆者である、ベルギーのリエージェにあるCentre Hospitalier UniversitaireのChristophe Bonnet医師は、GELAは「限局期の中~高悪性度リンパ腫の第一選択治療としての放射線治療を中止する」決定を行ったと語った。

GELA LNH 93-4として知られるGELA試験は、ステージI-IIの中~高悪性度リンパ腫の患者に対して、化学療法単独と化学療法の後に放射線治療を追加した場合を比較した4番目のランダム化試験である。全体として、これらの試験は、限局期の中~高悪性度リンパ腫患者に対する放射線治療の役割を支持することに失敗した。

しかしながら、付随する論説でダナファーバー癌研究所のAndrea Ng医師とPeter Mauch医師は、CHOP療法にモノクローナル抗体であるリツキシマブを併用する治療が、この病気に対する現在の標準治療であると指摘している。彼らはさらに、限局期の中~高悪性度リンパ腫に対する放射線治療の役割を明らかにさせる最も有意義な試験は、CHOP療法にリツキシマブを併用した後に放射線療法を行う場合と、放射線療法を行わない場合を比較するものであると述べている。

腹腔内化学療法は卵巣癌患者の良好な生活状態を低下させる

ステージIIIの上皮性卵巣癌患者に対して、化学療法を静脈内投与(IV)に腹腔内投与(IP)を加えた場合と静脈内投与のみの場合を比較した、最近の第3相ランダム化試験によると、IP療法は無増悪生存期間と全生存期間を有意に延長させることが判明した。婦人科悪性腫瘍研究機構(GOG)の研究者らは、この試験の間、参加者の健康に関する生活の質(HRQOL)についての評価も行った。

Journal of Clinical Oncology誌2月1日号に掲載された研究結果は、IP群の患者はIV群の患者より、より長い期間多くの有害な副作用を経験したことを示している。

GOGの研究者らは、1998年3月~2001年1月に、429人の患者を無作為にIV群とIP群に割り付けた。この試験に参加した患者のうち415人が、患者による報告であるHRQOL評価の適格例であった。研究者らは、身体および機能状態の安定、卵巣癌の症状、神経毒性(Ntx)、腹部不快感(AD)に関して、無作為割り付けの前、化学療法4サイクルの前、治療後3~6週間、および治療後12ヵ月の4度の評価を行った。

この試験に参加した全ての患者から、治療によるネガティブな副作用が報告されているが、IP群の患者からは化学療法4サイクル以前と治療後3-6週間時点の評価において、身体および機能状態が有意に悪いことが報告された。この群の患者は、さらに、4サイクル以前に腹部不快感(AD)が有意に悪く、治療後3-6週と12カ月の時点の神経毒性(Ntx)も有意に悪かったことを報告した。しかしながら、神経毒性症状だけはIP群の患者では、治療後12カ月の時点でも有意に悪いことが維持されていた。

この研究の著者は、「患者報告による神経毒性(Ntx)と腹部不快感(AD)の結果と同様に、このHRQOLの項目は、将来の試験において、治療群の違いによる評価のみならず、患者の腹腔内投与(IP)療法をより良いものとするために、新しい支持的ケアの方法や外科的技術に対する患者の反応を測定することも目標とされるべきである」と記した。

翻訳担当者 Nogawa 、、

監修 瀬戸山 修(薬学) 

原文掲載日 

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