ASCO、がん臨床試験の卵巣毒性評価に関する推奨を発表

米国臨床腫瘍学会(ASCO)

米国臨床腫瘍学会(ASCO)は、がん臨床試験における卵巣毒性の適切な評価に関する新たな推奨事項をまとめた研究声明「Measuring Ovarian Toxicity in Clinical Trials」を発表した。10月2日、Lancet Oncology誌に発表されたこの声明は、がん治療が卵巣機能に及ぼす長期的な影響を理解することが喫緊に必要であることを強調している。

重要性

毎年、世界中で約140万人の45歳未満の女性ががんと診断されている。その多くは、卵巣にダメージを与え早発閉経を引き起こす可能性のある治療を受けている。早発閉経は不妊の原因となり、骨や心臓血管の健康に悪影響を及ぼす。がんの臨床試験では通常、試験中の抗がん剤治療が卵巣毒性を引き起こすかどうかについての情報は収集されないため、重要な治療決定を行う患者にとって重大な情報格差が生じている。例えば、2008年から2019年に行われた乳がんの第3相臨床試験のうち、治療が卵巣機能にどのような影響を及ぼすかを具体的に調べたのはわずか9%であった。

「がん治療が生殖能力に重大な影響を及ぼし、特定の疾患のリスクを高める可能性があることは長い間認識されてきましたが、この問題は臨床試験で十分に扱われてきませんでした。こういった知識の不足は、臨床医と患者が十分な情報を得た上で治療を選択する能力を損ないます」とASCO最高医学責任者兼副会長であるJulie R. Gralow医師(FACP、FASCO)は述べている。「私たちの新しい推奨は、この分野の研究に不可欠な卵巣毒性データの評価基準を確立するものです」

ASCO推奨の主なもの

卵巣毒性評価の組み入れ: 
閉経前、思春期以降の卵巣を有する患者を対象に、治癒または一次予防を目的とし、抗がん剤のすべての該当する臨床試験に卵巣毒性の評価を含める。卵巣毒性の評価は、進行がんおよび転移がんの患者を登録する臨床試験、特に未治療の患者を登録する臨床試験においても検討する。

データ収集の期間:
卵巣機能の評価は最低限、ベースライン時、抗がん剤中止後 12 ~ 24 カ月時、それ以降は試験スケジュールに沿った時点で実施する。 卵巣毒性(ある場合)の機序や程度、回復までの期間が不明な抗がん剤の試験では、治療中は6 ~ 12 カ月ごと、治療終了時、投与中止後に データを追加収集することが最適と考えられる。

臨床指標とバイオマーカーの使用: 
卵巣機能の臨床指標とバイオマーカーの両方を評価する。卵巣機能のバイオマーカーが評価できない場合は、臨床的指標(月経、妊娠、出産)と交絡因子の可能性(子宮摘出、両側卵巣摘出、妊娠の試み、およびホルモン性避妊薬、内分泌療法、GnRHアゴニスト、生殖補助技術の使用)に関するデータは最低限収集する必要がある。抗ミュラー管ホルモン、卵胞刺激ホルモン、およびエストラジオールの測定に使用される測定法の種類は、試験デザイン時に検討する必要がある。

この声明は包括的な枠組みとして機能し、最適なデータポイントに関する推奨を提示している。 特に、ASCOはこれらの評価に伴う追加費用の可能性を認めているが、これは患者の意思決定や治療計画に大きな影響を与える可能性のある重要な証拠に対して支払うべき小さな代償であると強調している。

「新しい抗がん剤治療が卵巣にダメージを与えるかどうか、またどの程度ダメージを与えるかについてのデータが著しく不足しています。このため、閉経前の患者さんは、同様の効果を持つ治療法を選択したり、がん治療前に卵子凍結などの高価な妊孕性温存の必要性を検討するのに役立つ重要な情報を得られないままになっています」と、ASCO声明の筆頭著者であるWanda Cui氏(MBBS、BMedSci、FRACP)は述べている。「新しい推奨は、研究者にこれらの重要なデータの収集を奨励し、そのための枠組みを提供することによってこの空白を埋めることを目的としています。最終的な目標は、早発閉経による不妊の懸念からその他の長期的な健康への影響に至るまで、個人が直面する可能性のあるリスクについて包括的な情報を得られるようにすることです。これは単に臨床試験の構造を改良するだけではなく、がん治療を受ける無数の人々の生活の質を豊かにすることなのです」

詳細はResearch Statement誌を参照のこと。

  • 監訳 勝俣範之(腫瘍内科/日本医科大学 武蔵小杉病院)
  • 翻訳担当者 青山真佐枝
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  • 原文掲載日 2023/10/02

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