抗体-小管阻害剤複合体ミルベツキシマブが再発卵巣がんの生存率を改善

米国臨床腫瘍学会(ASCO2023)

ASCOの見解

「ミルベツキシマブ ソラブタンシンは、プラチナ抵抗性卵巣がん患者に対する標準化学療法と比較して、重篤な副作用、特に治療中止につながるような副作用が少ない。このことは、全生存期間の優位性と相まって、これらの患者に進歩を示し、希望を与えるものである」。
-Merry Jennifer Markham医師(ASCO専門医)-

葉酸受容体αの高発現を伴うプラチナ抵抗性の進行高悪性度上皮性卵巣がん、原発性腹膜がん、卵管がんの患者において、抗体-微小管阻害剤複合体であるミルベツキシマブ ソラブタンシン(販売名:Elahere)は無増悪および全生存期間を著しく改善したことが国際共同第3相ランダム化臨床試験であるMIRASOL試験から明らかになった。 この研究は、米国臨床腫瘍学会年次総会(ASCO2023)で発表される。

試験要旨

目的
卵巣がん、腹膜がん、卵管がんに対するミルベツキシマブ ソラブタンシンを評価する
対象者プラチナ抵抗性の進行高悪性度上皮性卵巣がん、原発性腹膜がん、卵管がんの患者で、葉酸受容体αの高発現が認められた453人
結果追跡調査期間中央値13.1カ月において:
・ベバシズマブの投与歴がある患者281人のグループでは、医師が選択した標準化学療法群に対して、ミルベツキシマブ ソラブタンシン投与群で、無増悪生存率(PFS)が36%、全生存率(OS)が26%改善した。

・ベバシズマブの投与歴がない患者172人のグループでは、医師が選択した標準化学療法群に対して、ミルベツキシマブ ソラブタンシン投与群で、PFSが34%、OSが49%改善した。

・ミルベツキシマブ ソラブタンシン投与群で認められた有害事象は、主に低グレードの眼および胃腸の事象であり、過去の報告と一致していた。

・ミルベツキシマブ ソラブタンシン投与群の患者では、14%が薬剤を投与継続しているのに対し、医師が選択した標準化学療法群を継続した患者では3%であった。
重要性プラチナ抵抗性上皮性卵巣がん患者において、単剤化学療法は限られた有効性しか示さず、かなりの毒性を有する。治療の段階が進むごとに奏効率は徐々に低下し、さらなる治療に耐えられる患者は少なくなっている。2014年にベバシズマブが化学療法との併用で承認されて以来、本疾患に特化した新薬は登場していない。ミルベツキシマブ ソラブタンシンは、以前の試験で臨床的に意義のある抗腫瘍活性を示した。MIRASOL試験は、従来の化学療法に対する本剤の優位性を確認し、葉酸受容体αの発現量が多い患者に対する新たな標準治療として位置づけるものである。

主な知見

ミルベツキシマブ ソラブタンシンを投与された患者は、本試験での標準化学療法薬全体を対象とした場合だけでなく、各薬剤単体に対しても長期生存を示した。また、ミルベツキシマブ ソラブタンシンの投与前にベバシズマブを投与したかどうかにかかわらず、医師が選択した化学療法を使用した場合と比較して、ミルベツキシマブ ソラブタンシンによる生存成績は良好であった。

追跡期間中央値13.1カ月で、ベバシズマブの投与歴のある患者281人のグループでは、医師が選択した標準化学療法群と比較して、ミルベツキシマブ ソラブタンシン投与群でPFSが36%、OSが26%改善した。ベバシズマブの投与歴がない患者172人のグループでは、医師が選択した標準化学療法群と比較して、ミルベツキシマブ ソラブタンシン投与群でPFSは34%、OSは49%改善した。

ミルベツキシマブ ソラブタンシン群で認められた有害事象は、主に低グレードの眼および胃腸の事象であり、過去の報告と一致していた。ミルベツキシマブ ソラブタンシンを投与された患者のうち、14%が試験薬の投与を継続していたのに対し、医師が選択した標準化学療法を継続していた患者は3%であった。

「ミルベツキシマブ ソラブタンシンはFDAの迅速承認を受けているため、この試験結果が早急な正式承認につながることが期待される。 しかし、より重要なことは、迅速承認が行われない米国以外でも本薬剤が使用できるよう、世界的に門戸を開くことである。また、現在進行中の研究では、本薬剤をより治療の早期段階で使用できるよう検討していることも注目に値する」と、オクラホマ大学スティーブンソンがんセンターの臨床研究副部長兼がん治療プログラム共同ディレクターのKathleen N. Moore医師は述べている。

試験について

プラチナ抵抗性の上皮性卵巣がん患者において、単剤化学療法は限られた有効性しか示さず、かなりの毒性を示している。治療の段階が進むごとに奏効率は徐々に低下し、多くの患者は追加の治療に耐えることが困難である。2014年にベバシズマブが化学療法との併用で承認されて以来、本疾患に特化した新しい薬剤は登場していない。

本試験で使用する治験薬であるミルベツキシマブ ソラブタンシンは、2023年1月に報告された単群の臨床試験であるSORAYA試験において、臨床的に意義のある抗腫瘍活性を示した。 本試験は、このような背景における本剤の有効性を検証するための第3相試験である。

ミルベツキシマブ ソラブタンシンは、さまざまな上皮由来のがん細胞で過剰発現している葉酸受容体ファミリーのひとつである葉酸受容体αを標的とする。この受容体に薬剤が結合すると、薬剤が細胞内に取り込まれ、細胞死に至る。

2023年、米国において卵巣がんの新規患者数は19,710人、死亡者数は13,270人と推定されている。本試験の患者のように、がんが遠隔部位に転移した場合、5年生存率は30%である。年間70%以上の患者が、この進行期であると診断される。

次のステップ

今回、ミルベツキシマブ ソラブタンシンは、葉酸受容体αの発現量が多い場合に最も有効であることが示された。しかし、中等度または低レベルの葉酸受容体αの発現でも一定の効果が認められたため、今後の試験でより明確な検討を行いたいとしている。 また、プラチナ感受性再発を含む、より早い段階での治療法として、本薬剤を取り入れることも考えられている。

  • 監訳 原野謙一(乳腺・婦人科腫瘍内科/国立がん研究センター東病院)
  • 翻訳担当者 河合加奈
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  • 原文掲載日 2023/06/04

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