既存薬の新たな組み合わせで前立腺がんの生存率が改善-ESMO21

欧州臨床腫瘍学会(ESMO)2021プレスリリース

よく知られた薬剤の新たな組み合わせで、ホルモン/去勢感受性前立腺がん患者の生存期間が延長されることが最新の研究から明らかになった。この結果は欧州臨床腫瘍学会(ESMO)年次総会2021[1, 2]にて発表された。PEACE-1試験およびSTAMPEDE試験では、アビラテロン+プレドニゾン(AAP)を標準治療に追加すると、標準治療のみを行うよりも生存期間が延長することが確認された。

Maria De Santis博士(シャリテ・ベルリン医科大学[独ベルリン]の腫瘍学部、学際的泌尿器腫瘍学科長)は、これらの試験結果について以下のようにコメントを寄せている。「どちらの試験結果もすぐに日常診療に取り入れられる可能性があります。なんといっても新薬の承認を待つ必要がないのですから。試験の結果がよいことに疑う余地はなく安心です。これで、転移または高リスクの局所進行を認めるホルモン/去勢感受性前立腺がんに対し、早期に強度の治療を行う必要があることを患者さんと医師に理解してもらえるでしょう。このような治療の強化が、標準治療として実施されるようになるものと期待しています」。

転移性前立腺がん患者にはアンドロゲン除去療法(ADT)が何十年もの間、標準治療として用いられてきた。2015年にドセタキセル(販売名:タキソテール)(化学療法薬)が、2017年にはアビラテロン(販売名:ザイティガ)(新規ホルモン薬)が、それぞれアンドロゲン除去療法に追加すると生存率を改善することが示された。しかし、最良の転帰を得るには、アンドロゲン除去療法にどちらか一方を追加すべきか、それとも両方の薬剤を追加すべきかはこれまでわかっていなかった。PEACE-1試験では、転移性前立腺がん患者に2剤よりも最初から3剤を併用することで、がんの進行までの期間を延長するだけでなく、生存期間も延長することが明らかになった。アンドロゲン除去療法+ドセタキセルにアビラテロン+プレドニゾンを追加したところ、アンドロゲン除去療法+ドセタキセルのみよりも患者の死亡リスクが25%低下している。

「PEACE-1試験は、転移性前立腺がん患者、とりわけ最も悪性度が高い(多発性転移を認める)がん患者さんに対して、3剤併用療法を行う必要があることを証明した最初の試験です。そればかりか、この3剤の併用投与により生じた新たな副作用の大半は軽度であり、重篤な副作用はごくわずかでした」と本試験の著者であるKarim Fizazi教授(Institute Gustave Roussy腫瘍内科医で、パリ・サクレー大学[仏ヴィルジュイフ]の腫瘍学教授)は説明する。

同氏はまた、PEACE-1試験で検討された3剤併用療法では、腫瘍量が多い転移性前立腺がん患者で、無増悪生存期間が2.5年、生存期間が約18カ月延長したことを指摘する。「腫瘍量が多い患者さんの生存期間は、2015年以前は中央値で3年に満たなかったのが、初めて5年を上回ることが期待できるようになりました。2022年までには3剤すべてに後発医薬品が登場し、世界中の患者さんが治療を受けやすくなるでしょう」。

同氏によると、腫瘍量が少ない転移性前立腺がん患者については、生存期間を正確に評価するのに追跡調査がさらに必要であるという。「腫瘍量が少ない患者さんの無増悪生存期間は、3剤併用による全身療法によって延長することが明らかである一方、生存期間が改善するかを判断するにはまだ時間がかかります。これは、前立腺の原発巣に対する局所放射線治療の役割についても当てはまることで、局所放射線治療を全身療法と併用すべきかどうかを判断し、その最も効果的な併用方法を確立するには、長期間の追跡調査が必要です」。

一方、STAMPEDE試験は、転移がない(従来の画像検査で転移が確認できない)が、(転移の)リスクが高い前立腺がんに注目している。限局性前立腺がんのうち、診断時に高リスクとされる患者は約20%だが、この患者群が再発または再発から死亡に至るものの多くを占めている。アンドロゲン除去療法を2~3年間行い、前立腺および骨盤への局所放射線治療と組み合わせることで余命を延長できる。ドセタキセルによる化学療法などを追加する治療法については試験で検討されており、それによると再発までの期間は延長するものの、余命の延長は示されていない。

本試験では、標準治療とアビラテロン+プレドニゾンを2年間投与すると、標準治療のみの場合と比べ、6年時の無転移生存率が69%から82%に、全生存率が77%から86%に、前立腺がん特異的生存率が85%から93%に改善した。

STAMPEDE試験の著者であるGerhardt Attard教授(University College London[英国]のUrological Cancer ResearchでのJohn Black Charitable Foundation寄付講座教授)は、「こうした結果を根拠に、高リスクの非転移性前立腺がん患者すべてに2年間のアビラテロン投与を検討すべきです。アビラテロンの投与期間中は、投薬管理のため来院回数が増えることになりますが、その後の再発を抑制することで、患者さんと医療にかかる負担をいずれも軽減することができるでしょう」と述べる。

同氏は「この試験では、投与期間の違いについて検討していないので、AAPの投与期間が短くても効果は変わらないかもしれないし、長ければもっと良い効果が得られるかもしれません」と、AAP療法の最適な実施期間に関して詳細な情報が必要なことにも言及した。

De Santis氏はこれらの試験結果と現在実施される治療法を比べてこう話す。「PEACE-1試験では明らかに生存率の向上が得られ、これにより、近年進歩している転移性ホルモン/去勢感受性前立腺がんの治療がますます前進するでしょう。また、STAMPEDE試験で対象とした非転移性患者はまったく新しい患者群で、現在発表されている他の試験では検討されたことがありません。こうした患者さんに、アビラテロン+プレドニゾンによる2年以上の全身療法を併用するという治療の選択肢が増えたことで、長年アンドロゲン除去療法と放射線治療併用の有無しかなかった前立腺がんの治療方針が一変することでしょう」。

【参考文献】
1. LBA4_PR ‘Abiraterone acetate plus prednisolone (AAP) with or without enzalutamide (ENZ) added to androgen deprivation therapy (ADT) compared to ADT alone for men with high-risk non-metastatic (M0) prostate cancer (PCa): Combined analysis from two comparisons in the STAMPEDE platform protocol‘ will be presented by Gerhardt Attard during Presidential Symposium 2 on Sunday, 19 September, 15:05 to 16:37 (CEST) on Channel 1. Annals of Oncology, Volume 32, 2021 Supplement 5
2. LBA5_PR ‘A phase 3 trial with a 2×2 factorial design in men with de novo metastatic castration-sensitive prostate cancer: overall survival with abiraterone acetate plus prednisone in PEACE-1‘ will be presented by Karim Fizazi during Presidential Symposium 2 on Sunday, 19 September, 15:05 to 16:37 (CEST) on Channel 1. Annals of Oncology, Volume 32, 2021 Supplement 5

翻訳担当者 伊藤美奈子

監修 榎本裕(泌尿器科/三井記念病院)

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