PSMA標的放射線療法は治療歴のある転移性去勢抵抗性前立腺がんに有効

米国臨床腫瘍学会(ASCO)の見解

「化学療法や標的抗アンドロゲン療法後に進行した転移性去勢抵抗性前立腺がんの患者にとって、この新規標的放射線療法は大きなニーズを満たす可能性があります。この治療法の成功で、従来のがん治療に代わる治療法の検討が重要であると示されました」とASCO会長Lori J. Pierce 医師(FASTRO:米国放射線種学会フェロー、FASCO:米国臨床腫瘍学会フェロー)は述べている。

最新の研究によれば、転移去勢抵抗性前立腺がん(mCRPC)の患者において、臨床試験中である177Lu-PSMA-617放射線療法を標準治療に併用した場合、標準治療単独の場合と比較して画像診断に基づく無増悪生存期間(rPFS)および全生存期間(OS)が有意に延長した。この研究結果は、米国臨床腫瘍学会(ASCO)の2021年年次総会で発表される予定である。

【研究の概要】

焦点:標的放射線療法 177 Lu-PSMA-617の有効性

対象:アンドロゲン受容体経路阻害薬と1~2回のタキサン系化学療法レジメンによる治療歴のある患者831人。患者は前立腺特異的膜抗原(PSMA)陽性であった。

結果:
画像診断の結果、無増悪生存期間の中央値は、標準治療に177Lu-PSMA-617を併用した場合、標準治療単独の場合と比較して有意に延長した。併用群では8.7カ月、標準治療単独群では3.4カ月であった。

全生存期間中央値においても、177Lu-PSMA-617併用群は15.3カ月、標準治療単独群は11.3カ月と、有意に延長した。

意義:
177Lu-PSMA-617は、化学療法やアンドロゲン受容体経路阻害薬投与後も進行した転移去勢抵抗性前立腺がん患者にとって、重要なニーズを満たす可能性がある。規制当局の審査・承認を経れば、この患者集団にとって新たな治療の選択肢となるとみられる。

【主な結果】

近年の治療法の進歩にもかかわらず、転移去勢抵抗性前立腺がんは依然として治癒が難しい。現在の治療法としては化学療法、アンドロゲン受容体拮抗薬、標的療法などがある。

前立腺特異的膜抗原(PSMA)は、転移性も含む前立腺がんの患者の約80%に高発現する、膜貫通型のタンパク質である。PSMAは、その発現度の高さから注目すべき治療標的であると研究者は説明している。

ルテチウム標識PSMA-617(177Lu PSMA-617)は、PSMAが発現している前立腺がんの細胞に結合する放射性化合物であり、腫瘍とその周辺の微小環境に標的を絞って放射線を照射できる。

VISION試験では、標準治療に177Lu-PSMA-617を併用した場合、画像診断による無増悪生存期間が標準治療単独と比較して有意に延長した。177Lu-PSMA-617併用群では無増悪生存期間の中央値が8.7カ月であったのに対し、標準治療単独では3.4カ月であった。また、全生存期間も有意に延長した。177Lu-PSMA-617併用群で中央値が15.3カ月であったのに対し、標準治療単独群では11.3カ月であった。

「今回の結果から、177Lu-PSMA-617は、規制当局の審査と承認後に、この患者集団における新たな標準治療として検討される価値があることが示唆されました」と、筆頭著者のMichael J. Morris医師(スローンケタリングがんセンター前立腺がん部門主任、ニューヨーク)は、述べている。

治療中に発生したグレードの高い有害事象の発生率は、標準治療単独群38.0%に対し、177Lu-PSMA-617併用群は52.7%と高かった。予想外または重要な安全性シグナルは認められなかった。

【試験について】

VISIONは、PSMAを発現している転移去勢抵抗性前立腺がんの治療を目的とした177Lu-PSMA-617の第3相国際共同非盲検試験である。すべての患者は、前治療としてアンドロゲン受容体経路阻害薬と1~2回のタキサン系化学療法レジメンを受けていた。

患者は合計831人で、177Lu-PSMA-617と標準治療の併用群および標準治療単独群に、2対1で無作為に割り付けた。主要評価項目は画像診断に基づく無増悪生存期間および全生存期間であった。

【次のステップ】
製薬会社のノバルティスは、これらのデータを規制当局に提出する予定である。

翻訳担当者 白濱紀子

監修 松本 恒(放射線診断/仙台星陵クリニック)

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原文掲載日 

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