健康なライフスタイルが遺伝的リスクの高い男性の前立腺がん死亡を抑える可能性

4月10日~15日に開催された2021年AACR バーチャル年次総会第1週で発表された結果によると、前立腺がんを発症する遺伝的リスクが高い男性では、健康的なライフスタイルを維持していれば致命的な前立腺がんを発症しにくかった。

前立腺がんは、皮膚がんを除いて男性に最も多いがんであり、肺がんに次いで男性のがんによる死亡原因の第2位である。遺伝的因子はさまざまな前立腺がんリスクのうちおよそ58%を占めていると、本研究の筆頭著者の1人で、ブリガムアンドウイメンズ病院 およびハーバード大学T.H.Chan公衆衛生学部の博士研究員であるAnna Plym博士は説明した。

本研究でPlym博士らは、健康的なライフスタイルを守ることにより、前立腺がんの遺伝的リスクの増加を相殺する可能性を評価しようとした。前立腺がん全体の検証済み多遺伝子リスクスコアを使用し、男性医療従事者の疫学研究(Health Professionals Follow-up Study)遺伝子型データが使用可能な10,443人の前立腺がん遺伝子リスクを定量化した。研究者らは致命的な前立腺がんに対し、健康的な体重、活溌な身体活動、禁煙、トマトや脂肪の多い魚などの積極的な摂取、加工肉摂取の減量などを含んだ検証済みのライフスタイルスコアを適用した。

フォローアップ期間の中央値は前立腺がん全体で18年および致命的な前立腺がんで22年であり、それぞれ2111件、238件を検討した。多遺伝子リスクスコアによるリスクが最も高い四分位の男性は、リスクが最も低い四分位の男性よりも、前立腺がんを発症する可能性が5.4倍、致命的な前立腺がんを発症する可能性が3.5倍高いことが示された。

健康的なライフスタイルを守ることによる効果を測定したところ、最もリスクが高い四分位の男性のうち、健康的なライフスタイルのスコアが高い男性は低い男性と比べて致命的な前立腺がんを発症するリスクがおよそ半分だったことがわかった。この高リスク群では、研究への参加時に健康的な生活を送っていた男性の致死性前立腺がんの累積生涯罹患率が3%であるのに対し、健康的な生活を送っていなかった男性では6%、参加者全体では3%だった。

「好ましいライフスタイルを送る患者で進行性の疾患のリスクが減少していることから、致命的な前立腺がんの過剰な遺伝的リスクが、健康的なライフスタイルを守ることによって相殺される可能性があることを示唆しているのかもしれません」Plym 博士は述べた。

健康的なライフスタイルを守ることは、前立腺がん全体のリスクを低下させることはなく、遺伝的リスクが低い四分位の男性に影響を及ぼすこともなかった。遺伝子リスクが最も高い男性に対する、致命的な前立腺がんリスクの減少にのみ利益が限定されている理由を究明するためには、さらに研究が必要であるとPlym 博士は述べた。理由の1つとして、高い多遺伝子リスクスコアの一因となる遺伝子変異は、ライフスタイル因子と最も強い相互作用を持つ変異でもあることが考えられる。

この研究は、禁煙、健康的な体重の維持、定期的な運動、健康的な食事など、健康的なライフスタイルの有用性を示す幅広いがん予防研究につけ加えられるものである。

Plym博士は本研究の結果は前立腺がんを発症する遺伝的素因を持つ男性に対するサーベイランスの重要性を強調していると付け加えた。

「私たちの知見は、遺伝的リスクの高い男性には、治癒が可能である間に致命的な前立腺がんを検出するために、前立腺がんを標的としたスクリーニングプログラムが有益である可能性を示唆する、という新たなエビデンスを加えることになります」Plym博士は述べた。

Plym博士 は、この研究が観察的であることから、健康的なライフスタイルと前立腺がんとの関連性が因果関係ではない可能性があることを指摘した。

本研究はDiNovi Family Foundation, アメリカ国立がん研究所(アメリカ国立衛生研究所), the William Casey Foundation, the Swedish Society for Medical Research, 前立腺がん財団より資金提供を受けた。Plym氏 は利益相反がないことを宣言している。

翻訳担当者 白鳥理枝

監修 榎本裕(泌尿器科/三井記念病院)

原文を見る

原文掲載日 

【免責事項】
当サイトの記事は情報提供を目的として掲載しています。
翻訳内容や治療を特定の人に推奨または保証するものではありません。
ボランティア翻訳ならびに自動翻訳による誤訳により発生した結果について一切責任はとれません。
ご自身の疾患に適用されるかどうかは必ず主治医にご相談ください。

前立腺がんに関連する記事

前立腺がんにおけるテストステロンの逆説的効果を解明の画像

前立腺がんにおけるテストステロンの逆説的効果を解明

デューク大学医学部デューク大学医療センター最近、前立腺がんの治療において矛盾した事実が明らかになった: テストステロンの産生を阻害することで、病気の初期段階では腫瘍の成長が止ま...
一部の生化学的再発前立腺がんに、精密医薬品オラパリブがホルモン療法なしで有効な可能性の画像

一部の生化学的再発前立腺がんに、精密医薬品オラパリブがホルモン療法なしで有効な可能性

ジョンズホプキンス大学抗がん剤オラパリブ(販売名:リムパーザ)は、BRCA2などの遺伝子に変異を有する患者に対し、男性ホルモン療法を併用せずに、生化学的再発をきたした前立腺がんの治療に...
転移性前立腺がん試験、アンドロゲン受容体経路阻害薬の変更よりも放射性リガンド療法を支持の画像

転移性前立腺がん試験、アンドロゲン受容体経路阻害薬の変更よりも放射性リガンド療法を支持

第3相PSMAforeの追跡研究研究概要表題タキサン未投与の転移性去勢抵抗性前立腺がん患者における[177Lu]Lu-PSMA-617の有効性とARPI変更との比較:ラ...
転移性前立腺がんに生物学的製剤SV-102とデバイスの併用免疫療法SYNC-Tは有望の画像

転移性前立腺がんに生物学的製剤SV-102とデバイスの併用免疫療法SYNC-Tは有望

低温プローブを用いる治験的治療では、前立腺がん細胞の一部を死滅させ、腫瘍特異的ネオアンチゲン(※がん細胞特有の遺伝子変異などによって新たに生じた抗原)を放出させ免疫反応を促進する。...