循環腫瘍細胞(CTC)変異により、転移去勢抵抗性前立腺がん臨床転帰を予測
米国癌学会(AACR)のMolecular Cancer Research誌に発表された研究の結果、転移性去勢抵抗性前立腺がん(mCRPC)の患者において、循環腫瘍細胞(CTC)内のさまざまな遺伝子変化と、臨床転帰およびホルモン療法耐性との間に関連性が示された。
転移性去勢抵抗性前立腺がん患者のうち、アンドロゲン受容体阻害剤であるエンザルタミド(販売名:イクスタンジ、Xtandi)やアビラテロン酢酸エステル(販売名:ザイティガ、Yonsa、Zytiga)の一次耐性を示す患者はほんの少数であり、数年のうちに獲得耐性を生じる場合がほとんどである、と統括著者であるデューク大学前立腺・泌尿器がん科の腫瘍内科医、Andrew Armstrong医師・理学修士は説明する。
既報のPROPHECY試験において、Armstrong医師らは、転移性去勢抵抗性前立腺がん患者の循環腫瘍細胞におけるAR-V7スプライスバリアントの発現が、エンザルタミドやアビラテロン治療後の反応の低下および無増悪生存期間や全生存期間の短縮に関連することを明らかにした。この結果に基づいて、全米総合がんセンターネットワーク(NCCN)は、ホルモン療法後にがんが進行した転移性去勢抵抗性前立腺がん患者のための診療ガイドラインにAR-V7検査の推奨を記載した、とArmstrong医師は述べる。
「これらの研究結果は良好だったものの、AR-V7陽性の循環腫瘍細胞を持つ転移性去勢抵抗性前立腺がん患者は、疾患背景に応じて約5~40%に過ぎないので、他の遺伝子変化が薬剤耐性に関与しているかもしれません」とArmstrong医師は述べた。
今回の研究は、PROPHECY試験の後ろ向き二次解析である。この解析で、転移性去勢抵抗性前立腺がん患者のAR-V7陰性循環腫瘍細胞におけるゲノム変化を特定し、これらのゲノム変化と臨床転帰との関連性を調べた。
PROPHECY試験においてアンドロゲン受容体阻害剤による治療を受けた48人の転移性去勢抵抗性前立腺がん患者から経時的に採取した73の液体生検試料をもとに、個々の患者の循環腫瘍細胞DNAを生殖細胞DNAと対比して、全ゲノムでコピー数異常(遺伝物質の増幅または欠損を示す)を解析した。また、エンザルタミドまたはアビラテロン投与中の病態進行前後に採取した22試料を使って、個々の患者の循環腫瘍細胞につき、生殖細胞と対比しながら全エクソームシーケンシングを行って、経時的に得た獲得耐性に関連する新規のゲノム変化を調べた。
研究者らは、アンドロゲン受容体阻害剤による治療の転帰不良が、循環腫瘍細胞内のPTEN欠損、MYCN増幅、アンドロゲン受容体(AR)増幅、およびTP53変異と関連することを示唆した先行研究の結果を確認するとともに、アンドロゲン受容体阻害剤に対する反応性と関連する新規のゲノム変化をいくつか特定した。ATM、NCOR2、HSD17B4の増幅はアンドロゲン受容体阻害剤に対する感受性と関連する一方、BRCA2、APC、KDM5D、CYP11B1、SPARCの増幅や、CHD1、PHLPP1、ERG、ZFHX3、NCOR2の欠損は、アンドロゲン受容体阻害剤に対する一次耐性と関連していた。
「アンドロゲン受容体阻害剤に耐性を示す転移性去勢抵抗性前立腺がんにおいて、BRCA2の増幅が転帰不良と関連していたことは、これまで報告されていなかったので意外でした。一般的には、BRCA2の欠損が転帰不良と関連するとされています」とArmstrong医師はいう。「今回の研究結果によって、これまで十分に理解されていなかった、DNA損傷剤やアンドロゲン受容体治療に対する耐性に説明がつくかもしれず、今後そのメカニズムを解明する必要があります」。また、本研究によって初めて、循環腫瘍細胞内のCHD1欠損が臨床の場での転移性去勢抵抗性前立腺がん患者の転帰不良と関連することが確認された、とArmstrong医師は付け加えた。これまで、CHD1の欠損や変異は、前立腺がんの細胞系列の可塑性を促進することが示されていた。
アンドロゲン受容体阻害剤が奏効した患者(無増悪生存期間が6カ月以上と定義)の循環腫瘍細胞では、DNA修復、ステロイド代謝、系列可塑性、PI3Kシグナル伝達、およびWNTシグナル伝達に関わる遺伝子が変化している傾向があった。さらに、アンドロゲン受容体阻害剤が奏効した患者では、CHD1欠損およびKDM5D増幅に結びつくクロマチン増加およびエピジェネティック変異が観察された。これに対し、アンドロゲン受容体阻害剤で進行した患者では、ATM、FOXA1、UGT2B17、KDM6A、CYP11B1、MYC遺伝子が増幅し、NCOR1、ZFHX3、ERGが後天的に欠損した循環腫瘍細胞のクローン進化が確認された。
「本研究により、循環腫瘍細胞のゲノム解析を行えば、病気に対する耐性やアンドロゲン受容体阻害剤の有効性を経時的に確認し追跡できる可能性が高いことがわかりました」とArmstrong医師は言う。「われわれが特定した新規の遺伝子変化は、今後の研究で検証されなければなりませんが、新薬の標的候補として有望かもしれません」。
本研究の制限事項は、試料数が少ないため、個々の遺伝子変化と臨床転帰との統計的検定に制約があったことである。疾患の負担があること、また、治療への反応や病態の進行によって循環腫瘍細胞が変異するために異なる時点でのゲノムアッセイの感度に違いがあることから、検出結果に偏りが生じた可能性がある。最後に、本研究で特定した遺伝子変化のいくつかは、がんのドライバー遺伝子ではなく、疾患の負担やゲノムの不安定性に関連する、些末なパッセンジャー遺伝子の変異である可能性がある。今回特定したゲノム変化は、そのメカニズムを明らかにして、治療法との間にどのような生物学的・臨床的関連性があるのかを確定する必要がある、とArmstrong医師は指摘した。
本研究は、米国国立衛生研究所(NIH)、前立腺がん財団(Prostate Cancer Foundation)、モベンバー財団によるGlobal Treatment Sciences Challenge Awardの支援を受けた。本研究は、デューク大学、ジョンズホプキンス大学、コーネル大学 Weill Medical College、スローンケタリング記念がんセンター、シカゴ大学が参加する多施設共同前向き試験の一環として実施された。Armstrong医師は、ファイザー社、アステラス社、ヤンセン社、バイエル社、アストラゼネカ社、メルク社の有償顧問を務めている。Armstrong医師は、デューク大学を通じて、ファイザー社、アステラス社、ヤンセン社、バイエル社、Dendreon社、ノバルティス社、ジェネンテック/ロシュ社、メルク社、ブリストルマイヤーズスクイブ社、アストラゼネカ社、Constellation Pharmaceuticals社、BeiGene社から研究資金を受けている。
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