Decipher遺伝子検査が前立腺がんに対するホルモン療法の判断材料に

再発した前立腺がんが他の部位に広がる(転移する)可能性を遺伝子検査によって正しく予測できることが、大規模な研究で確認された。この検査は、前立腺がん患者とその主治医が最も適切な治療法を選択するのに役立つ可能性があると研究者らは結論づけている。

前立腺を全摘出する手術(根治的前立腺全摘除術)後に患者のPSA値が上昇し始めると、一般的にはがんが再発したことを意味する。前立腺全摘除術後に再発した前立腺がんに対する標準治療は、単独またはホルモン療法併用で行われる放射線治療である。

ホルモン療法には、ほてりやエネルギーの低下、性欲減退などの苦痛を伴う副作用を生じることがあるため、この治療は通常、転移の可能性が高い悪性のがん患者にのみ行われていると、研究代表者であるカリフォルニア大学サンフランシスコ校のFelix Feng医師は説明している。

再発前立腺がんの患者の多くは「どうしてもホルモン療法を受けなければならない場合を除いて、ホルモン療法を望みません」とFeng医師は付け加えた。しかし、どの患者がホルモン療法を追加する必要のある悪性のがんであるかを判断するのは、現在のところ困難である。

今回の新たな研究では、「Decipher」と呼ばれる遺伝子バイオマーカー検査が、まさにそれを可能にするかもしれないことがわかった。研究者らは、米国国立がん研究所(NCI)が支援した臨床試験のデータを用いて、Decipherのスコアが高い患者ほど数年後にがん転移を経験し、そのがんが原因で死亡する可能性が高いことを明らかにした。JAMA Oncology誌に2月11日に掲載された結果から、ホルモン療法はスコアの高い患者の生存を延長させるが、スコアの低い患者にはあまり効果がないこともわかった。

Decipher検査が開発されたのは約10年前であるが、これまでは患者の治療に日常的に使用することを推奨する十分なエビデンスがなかったため、今回の新たな知見は重要であるとSean McGuire医学博士は付随論説で説明している。

より優れたバイオマーカーの必要性

現在、医師は再発した前立腺がん患者が放射線療法に加えてホルモン療法を受けるべきかどうかを判断する際に、腫瘍の悪性度やPSA値などの一定の基準を用いている。しかしこれらの基準は、本当に併用療法が必要な患者を見極めるには十分でないことが、研究により明らかになっている。

米国国立がん研究所(NCI)前立腺がん遺伝学部門の責任者であるAdam Sowalsky医学博士(本研究には参加していない)は、「PSA値が高い患者が、将来的に前立腺がん以外の原因で死亡する可能性があります」と説明する。

Decipher検査は、信頼性の高いバイオマーカーの必要性に応えるために開発され、後ろ向きに振り返る後方視研究では、実際にPSA値などの標準的なマーカーより優れていることが示されている。この検査では、前立腺腫瘍における22の遺伝子の活性度を調べ、0~1のスコアを算出する。

今回の研究で、Feng医師らは参加者を前向きに追跡した臨床試験の中でDecipher検査がどのように機能するかを調査することにした。同氏らは、以前行われた臨床試験に参加した352人の患者から手術中に摘出された腫瘍組織を用いてDecipher検査を実施した。これらの参加者のうち、89%が白人であった。

これらの参加者は全員、手術後にPSA値が上昇しており、放射線療法単独またはホルモン療法の一種であるビカルタミド(カソデックス)との併用療法にランダムに割り付けられていた。参加者の医学的転帰は、約13年間にわたって追跡された。

過去の試験におけるDecipher検査の評価を行うことで、この検査を用いて未治療患者の転帰および治療効果を予測できるかどうかを判断できたと、Sowalsky博士は説明している。

Decipher検査のスコア

参加者の年齢、人種、民族、がん治療などの要因の違いを考慮した結果、Decipher検査のスコアが高い患者はスコアが低い患者よりも前立腺がんが広がっている可能性が高いことがわかった。

「注目すべき点は、これらのサンプルを検査することで、転移が発生する10年以上前に、転移の発生を予測できたことです」と、Sowalsky博士は述べている。

またDecipher検査のスコアは、調査期間中の前立腺がんによる死亡リスクおよび全死亡リスクとも強く関連していることがわかった。

研究チームは、スコアを0~1の連続した尺度で見るだけでなく、スコアをあらかじめ定義された3つのグループ、すなわち低(スコアが0.45未満)、中(スコアが0.45~0.6)、高(スコアが0.6超)に分類した。その結果「低」が42%、「中」が38%、「高」が20%となった。

これらのスコアグループは、転移リスク、前立腺がんによる死亡リスク、および全生存リスクとも強く関連していることがわかった。例えば、転移はスコアが高い人の15%に見られたが、スコアが低い人ではわずか6%であった。また、前立腺がんで死亡した患者は、スコアが低い患者では1%未満だったが、スコアが高い患者では10%であった。

低スコアと高スコアを区切るカットオフ値があれば、医師が最も適切な治療法を容易に判断するのに役立つ、とFeng医師は説明した。

今回の研究は、Decipherスコアとホルモン療法の効果との関係を見つけることを目的としたものではないが、今回の結果から、ホルモン療法によって高スコア患者と中間スコア患者の生存期間が延長することが示唆されたと、McGuire博士は指摘している。ホルモン療法は低スコア患者の生存も延長したが、スコアの高い患者に比べて改善はわずかであった。

Decipher検査は、「放射線療法にホルモン療法を追加する必要がないほど良好な疾患(予後)を持つ患者の一部を特定することができるかもしれません」と、Feng医師は説明している。本研究の研究者のうち数名は、Decipher検査を製造しているDecipher Biosciences社から報酬を受け取っているか、同社に勤務していた。

日常的な医療での使用

米国臨床腫瘍学会(American Society for Clinical Oncology)などの主要な医学組織による現在のガイドラインでは、Decipher検査の日常的な使用は推奨されていない。しかし、今回の研究結果を受けて、これらの組織は「エビデンスの強さに基づいて」そのようなガイドラインを再検討する必要があると、McGuire博士は書いている。また、日常的な診療におけるDecipher検査の使用は「一般的なものになるべきです」と付け加えている。

手術後にPSA値が上昇した患者に対して放射線療法に加えてホルモン療法を行うべきかどうかという課題は、「私の診療でも常に見られる課題」であるとFeng医師は述べている。「私の患者は、ホルモン療法が自分のためになる可能性が高いかどうかを知りたがっています。より多くの情報を患者と医師に提供できれば、共により良い選択をすることができるので、このような検査は重要です」

Decipher検査はすでに患者に提供されており、その費用をメディケアを含む多くの保険会社が保険対象としていると、Feng医師は述べている。さらに、患者の前立腺手術で腫瘍組織をすぐに入手することができる場合は、追加の処置は必要ない。

前立腺がん患者のさまざまなグループにおけるDecipher検査の使用方法については、まだ多くの課題があると、McGuire博士は書いている。現在進行中の約20の臨床研究で、いくつかの解決策が得られることが期待されている。

さらなる研究が必要な分野の1つは、有色人種におけるDecipher検査の効果であると、Feng医師は指摘している。最近の研究では、遺伝子検査の開発と検証のために行われた研究の参加者が多様性に欠けていた場合、その検査は有色人種にとって有用性が低くなる可能性があることが明らかになっている。

新たに前立腺がんと診断された患者のための遺伝子バイオマーカー検査

別の遺伝子バイオマーカー検査の研究結果では、その検査が新たに限局性前立腺がんと診断された男性の治療方針を決定するうえで、いずれ役立つであろうことが示唆されている。

JCO Precision Oncology誌に2月24日に掲載された研究結果によると、Oncotype DX Genomic Prostate Scoreと呼ばれるバイオマーカー検査は、限局性前立腺がんの男性患者において、前立腺がんによる長期的な転移リスクと死亡を正確に予測した。しかし、この検査が治療の指針となるためには、より大規模な前向きの研究で検証される必要があると、研究者らは指摘している。

翻訳担当者 会津麻美

監修 榎本 裕(泌尿器科/三井記念病院)

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