前立腺がんのcfDNA検査は不適切な治療につながる可能性

前立腺がん男性患者における血中循環遊離DNA(cfDNA)検査は、クローン性造血(CHIP)遺伝子変異体によって交絡が起きる可能性があり、一部の患者はPARP(poly ADP-ribose polymerase)阻害薬による不適切な治療を受けることになる。

ワシントン大学(シアトル)のColin C. Pritchard博士は、ロイター・ヘルスに対する電子メールで次のように述べた。「われわれの試験により、前立腺がんの男性患者に対する最新のリキッドバイオプシー検査であるcfDNA検査に関して、重大な弱点が明らかになりました。血漿中に血球変異がよく検出され、これらの変異が前立腺がん由来と誤解される可能性があることが判明しました。この結果は、PARP阻害薬と呼ばれる新しい薬剤による治療を導く上で重要な意味をもちます」。

「米国食品医薬品局(FDA)が承認しているPARP阻害薬の適応性に関連する変異がcfDNAで検出されたが、そのほぼ半数は血球のクローン性造血に由来するもので、前立腺がんとは関係のない変異でした。こうした干渉性のクローン性造血変異は、特に高齢者に多くみられました」と、同氏は語る。

Pritchard博士のチームは、cfDNA変異体検査を受けた進行前立腺がん男性患者69人を調べた。変異の発生源を特定するために、対の全血対照試料についても検査を行った。

患者20人において、関連するDNA修復遺伝子に病原性に関わる変異が認められたと研究者らはJAMA Oncology誌で報告している。cfDNAにおけるCHIPバリアント率が2%以上であった患者は13人であった。これらの男性患者のうち7人は、PARP阻害薬投与の適格性の判断に使用されるDNA修復遺伝子変異を有しており、誤診により不適切にPARP阻害薬治療の対象とみなされていた可能性がある。

実際、当時の研究者には知られていなかったが、この後者のグループのうちの1人は、血漿検査しかおこなっていない商業検査機関からすでにPARP阻害薬治療を勧められていた。

「幸いなことに、cfDNA検査の性能を向上させる簡単な解決策があります。対の全血対照試料を検査に組み込むことで、血漿中のcfDNAにおける前立腺がんの変異と血球のクローン性造血とを容易に区別できることがわかりました。われわれはcfDNA検査にこの対による検査を使用してきましたが、現在市販されているほとんどのcfDNAアッセイは血漿のみを検査するものであり、がん特異的変異と血球の干渉を容易に区別することはできません」と、Pritchard博士は続けた。

「このような理由から、われわれは、かなり進行した前立腺がんの男性患者が、cfDNA検査の偽陽性結果に基づいて不適切にPARP阻害薬治療を受けているのではないかと懸念しています 」と、同氏はまとめる。

付随論説の共著者であるミシガン大学(アナーバー)Joshi J. Alumkal博士はロイター・ヘルスに電子メールで次のように述べている。「(この結果は、)相同組換えDNA修復遺伝子(PARP阻害薬治療の選択で日常的に使用されている遺伝子変異)に変異がある患者を特定するために血中循環遊離DNAシーケンスを使用する際に注意すべき点を示しています。

これらの変異が腫瘍細胞によるものなのか、クローン性造血によるものなのかを理解することは、患者治療について十二分な情報に基づいた意思決定を行うために非常に重要です」。

引用: 2020年11月5日JAMA Oncologyオンライン版

翻訳担当者 有田香名美

監修 花岡秀樹(遺伝子解析/イルミナ株式会社)

原文掲載日 

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