オラパリブとルカパリブの承認で、前立腺がん治療はPARP阻害薬の時代に突入
米国食品医薬品局(FDA)による最近の承認2件は、一部の前立腺がん男性患者用治療薬である分子標的薬の適応拡大という新たな道を開いた。
今回の承認は分子標的薬オラパリブ(リムパーザ)とルカパリブ(ルブラカ)に対するもので、いずれも前立腺がんが転移し、かつ、標準的なホルモン治療に反応しない(去勢抵抗性前立腺がんと言われることが多い)男性患者に使用されるものである。いずれの薬剤も服用にあたっては、細胞にDNA損傷を修復できない特定の遺伝子変異を持っている必要がある。
転移性前立腺がん治療薬の多くは、がんの増殖と転移を促すホルモンの作用を阻害する治療薬が中心である。しかし、錠剤として投与されるオラパリブとルカパリブはその作用が異なり、タンパク質の一種であるPARP(細胞が特定のDNA損傷を修復する)活性を阻害する。
研究から、転移性前立腺がん男性患者の20~30%には、細胞のDNA修復機構を損なう遺伝子変異が認められることが示されている。それゆえこうした患者向けに、矢継ぎ早に新薬が2種承認されることは「朗報です」とOliver Sartor医師(テュレーンがんセンター医長、前立腺がん専門医)は述べた。
Fatima Karzai医師(NCIがん研究センター泌尿性器悪性腫瘍部門臨床主任、同部門では前立腺がんに対する新規治療薬の開発に重点的に取り組んでいる)は同意した。「過去10年は前立腺がんに対する新規治療薬の開発ブームでした」とKarzai氏は述べた。しかし、特定の遺伝子変異を有する細胞に作用するよう意図された薬剤で、現在他のがんの治療薬として一般的に使用されているゲノム標的薬はごく僅かである。
「前立腺がんでは、現在こうした分子標的薬の有益性がみえ始めており、心躍ります」とKarzai氏は続けた。
PARP、前立腺がんに対する主要な治療標的
過去10年で、オラパリブとルカパリブが、DNA修復過程に影響を及ぼす遺伝子変異が高頻度で認められる卵巣がんや乳がん女性患者にとって重要な治療薬になっている。こうした遺伝子変異の中で最も頻度の高いものは、BRCA1およびBRCA2遺伝子変異である。
BRCA 遺伝子変異を有する人がPARP阻害薬による治療にとって理想的な治療候補として特定されることは、必然である。
BRCAタンパク質と一部のPARPタンパク質はいずれも、DNA損傷に対する細胞応答に不可欠な構成要素である。BRCA1やBRCA2変異により、こうした応答がすでに機能不全に陥っている場合、PARPタンパク質の活性を阻害することで、DNAが修復される確率がさらに低下する可能性がある、と研究者らは推論した。言い換えれば、既にわずかな漏れ口があるタイヤに穴を開けるようなものである。DNA損傷を修復できない場合、がん細胞は死滅する。
BRCA1およびBRCA2変異、ならびにDNA損傷に対する細胞応答能に関与する他の遺伝子変異が、前立腺がん男性患者の約4分の1に存在する可能性が示唆された研究の後、前立腺がんはPARP阻害薬にとっての別の有力候補として出現した。他の研究から、こうした遺伝子変異は前立腺がんリスクの増加だけでなく、より浸潤性の高いがんと関連付けられた。
「こうした知見から、転移性前立腺がん男性患者を対象にしたPARP阻害薬の一連の臨床試験が開始され、FDAによる新規承認の基礎が築かれました」とKarzai氏は解説した。
PROFOUND試験、BRCA2変異を有する男性患者における最大の利益
5月19日に発表されたオラパリブの承認は、大規模臨床試験であるPROFOUND試験結果に基づいたものである。
PROFOUND試験では、DNA修復遺伝子変異を有する男性患者が登録され、2つのコホートに割り付けられた。コホートAは、BRCA1、BRCA2、またはATM遺伝子(いずれもDNA修復に重要な役割を果たす)に変異を有する男性患者を対象とした。コホートBは、DNA修復に何らかの関連を有する他の12種類の遺伝子群に変異が認められる男性患者を対象とした。
PROFOUND試験参加男性患者は全員、アビラテロン(ザイティガ)またはエンザルタミド(イクスタンジ)(前立腺がん細胞内で、それぞれ異なる機序でホルモン阻害に作用する)のいずれかによる治療を受けたにもかかわらず、がんが増悪していた。
PROFOUND試験参加男性患者387人を、治療群(オラパリブを服用)と対照群(各患者の腫瘍専門医が選択したアビラテロンまたはエンザルタミドのいずれかを服用)にランダムに割り付けた。
コホートAでは、オラパリブ群は対照群と比較して、(標準的画像診断法の評価により)がんの増悪をきたすことなく生存期間が2倍以上も延長した。無増悪生存期間中央値は7.4カ月対3.6カ月であった。コホートAのオラパリブ群では全生存期間も延長し、オラパリブにより4カ月以上も生存期間が延長した(19.1カ月対14.7カ月)。
また、オラパリブ群は対照群と比較して、腫瘍の縮小効果が認められる可能性がはるかに高かった(33%対2%)。
「前立腺がんは骨に転移しやすいため、こうした特定の腫瘍の大きさの縮小は患者に有意義な影響を与える可能性があります」とPROFOUND試験の責任医師であるMaha Hussain医師(ノースウェスタン大学医学院)は述べた。 「骨の中で適切に抑制されていない転移は、相当な疼痛を伴う可能性があります」とHussain氏は2019年末に欧州臨床腫瘍学会(ESMO)学術集会でPROFOUND試験の結果を発表した際に、述べた。
FDAの承認では、PROFOUND試験で解析されたDNA修復遺伝子のいずれかに変異を有する男性患者へのオラパリブの使用が含まれる。しかし、Sartor氏(PROFOUND試験の責任医師の1人)は、BRCA2変異を有する男性患者がオラパリブに最もよく反応し、無増悪生存期間が最大限に延長する可能性が高いと指摘した。そして、BRCA2変異を有する男性患者はPROFOUND試験参加者の約3分の1を占めた。一方、ATM変異を有する男性患者は対照群と比較して、何ら良好な結果は得られなかった。
「コホートBでは、オラパリブはRAD54LやPALB2などのDNA修復に関与する『珍しい遺伝子』に変異のある腫瘍を有する男性患者に、多少の利益をもたらす可能性を示しました」とSartor氏は続けた。
FDAは同時に、2種類の検査法、つまりBRACAnalysis CDxとFoundationOne CDxを、オラパリブ服用に適した遺伝子変異を有する転移性去勢抵抗性前立腺がん患者の特定用に承認した。
TRITON2試験により、ルカパリブが迅速承認
5月15日に発表されたFDAによるルカパリブの承認は、オラパリブに対して承認されたものとは若干異なる。
そもそも、これは迅速承認であった。つまりこの迅速承認は、ルカパリブが無増悪生存期間の延長など、患者に対する利益をもたらす可能性を強く示唆する臨床試験の結果に基づいたものであることを意味している。ただ、その証明水準はまだ有効ではない。
また、使用が承認されたのは、BRCA1またはBRCA2変異を有する男性のみに対して、かつ、ホルモン阻害薬と化学療法の両者による前治療にもかかわらず増悪したがんのみに対して適用される。
今回の承認は、患者115人が参加した臨床試験であるTRITON2試験の結果に基づいている。PROFOUND試験と同様、TRITON2試験は多種類のDNA修復遺伝子に変異が認められる男性患者が参加したが、その中の最大群はBRCA2変異を有する男性であった。TRITON2試験参加男性患者は全員、ルカパリブによる治療を受けた。
2019年末にESMO学術集会で発表されたデータによると、PROFOUND試験で認められたデータと同様に、BRCA2変異を有する男性患者はPARP阻害薬に反応する可能性が最も高かった。BRCA2変異を有する男性患者62人中、45%近くは腫瘍縮小効果が認められた。また、こうした男性患者の半数以上では、腫瘍縮小効果は6カ月以上持続した。
「概して、BRCA2変異は、転移性前立腺がん男性患者の間でPARP阻害薬の利益を促しているようです。実際、この2件の臨床試験で我々はそれをみているのです」とKarzai氏は述べた。
治療選択肢を設ける、オラパリブか、ルカパリブか
多くの場合、複数の薬剤が同じ用途(今回の場合は、非常に類似した用途)で承認される場合、各薬剤に関連する副作用により、医師は各患者に最適な治療薬を決定することができる。
「概して、オラパリブとルカパリブによる副作用の種類や重症度には大差はありません」とSartor氏は解説した。
また、「大多数の患者は両剤による副作用を比較的適切に対処しているようですが、貧血、急激な白血球数の減少、悪心、および嘔吐などの大きな問題を引き起こす可能性があります」とSartor氏は続けた。
Karzai氏は骨髄異形成症候群(骨髄内の血球の形成に影響を及ぼす疾患で、PARP阻害薬による治療を受けた患者のごく一部に認められる)のリスクも指摘した。
「こうした薬剤は無条件に、綿密な(患者の)モニタリングが必要です」とSartor氏は述べた。
オラパリブに対するルカパリブの利点の可能性の1つは、血液検査であるリキッドバイオプシーが最後に使用できることである。このリキッドバイオプシーにより、BRCA1またはBRCA2変異(および他の遺伝子変異)を有し、かつ、ルカパリブの治療候補である男性患者を特定できる。このリキッドバイオプシーであるFoundationOne Liquid CDxは現在FDA による評価を受けているところで、その承認決定は間もなくであろうと、製造元であるFoundation Medicine社の広報担当者は述べた。
「前立腺がんが骨に転移することが多いという事実も、重要な理由の1つです」とKarzai氏は解説した。「骨転移部は硬くて高密度なことが多いため、こうした部位の生検は標準的なDNA塩基配列決定の実施に十分な組織が得られないことが知られています」と述べた。
組織量だけでなく、生検に由来する組織の種類や質にも問題がある。「生検を困難にする不確定要素が多数存在します」とKarzai氏は言い添えた。
PROFOUND試験は以下の問題点を明らかにする。PROFOUND試験参加者候補として検査した男性患者4,000人以上から採取した組織検体の3分の1近くで、使用された遺伝子検査では、特定の遺伝子変異が存在するか判定できなかった。これは参加患者の31%に相当することが2019年ESMO学術集会で発表されたデータから示された。
「腫瘍専門医が日常の患者ケアにおいてこうした薬剤を採用する上で、リキッドバイオプシーをもってしても、患者のDNA修復遺伝子変異の有無を確実に定期検査で調べることが、最大の障壁になる可能性ががあります」とSartor氏は確信する。
「そこが現場の医師の間で本当の意味で習熟を要すると思います」とSartor氏は述べた。
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