PSMA PET-CT検査が前立腺がんの転移を正確に検出

一部の前立腺がん男性患者において、身体の他の部位に転移したがんの検出には、最もよく使用されている方法よりも効果的な画像診断方法があることが、大規模臨床試験の結果から示唆されている。

オーストラリアで実施された本試験では、前立腺を超えて転移するリスクが高いとされている限局性前立腺がんと診断された男性患者を登録した。この試験では、前立腺特異的膜抗原(PSMA) PET-CTとして知られる画像診断方法は、多くの国で使用されているCTスキャンおよび骨スキャンを含む標準的な画像診断方法よりも、これらの男性患者の転移腫瘍を顕著に多く検出した

また、PSMA PET-CTを使用した場合、標準的な診断方法よりも、医師ががん治療戦略を変更する傾向が強かったと、メルボルンのピーターマッカラムがんセンターの核医学教授で、本試験の臨床試験責任医師のMichael Hofman氏らが3月22日付のLancet誌で報告した。

本試験はPSMA PET-CTを用いることにより患者の生存期間などの臨床転帰が改善されるかどうかを明らかにすることを目的としたものではなかった。しかし、この結果は、PSMA PET-CTが従来の診断方法よりも転移を検出する可能性が高いことを示唆する他の試験およびオーストラリアやドイツなど各国における現在の臨床から得られたエビデンスを強化するものであると、Hofman医師は述べた。

「こうした診断検査では、精度が最も重要です。正確な検査が必要です」と、Hofman医師は述べた。「なぜなら、この患者集団では、転移の有無が治療法に影響するからです」。

診断時にがんが前立腺を超えて転移していた場合、前立腺の原発腫瘍を単独で外科手術や放射線で治療しても「無駄な治療である」と、Hofman医師は述べた。診断後の早期にがんがすでに転移しているかどうかを知ることが「これらの男性患者の治療をより最適化するための鍵なのです」。

米国食品医薬品局(FDA)がPSMAを標的とする画像診断薬を承認していないため、米国ではPSMA PET-CTを臨床試験以外では使用することができないと、NCIのがん治療・診断部門のがん画像診断技術プログラムのLalitha Shankar医学博士は説明した。

PSMAを標的とするいくつかの画像診断薬の試験が行われていると、Shankar博士は述べた。「どれも非常に有望です」。しかし、さらなる試験が必要であると続けた。特に、これらの画像診断方法が患者管理にどのような影響を与えるかを慎重に検討する臨床試験をさらに行うことが有益であると述べた。「転帰に影響があるかどうかも確認する必要があります」。

転移を検出する別の方法

前立腺がんと診断された男性患者のほとんどが、がんが前立腺に限局しているようにみえる限局性前立腺がんである。しかし、特定の要因のため、がんが最終的に転移する(またはすでに転移している)リスクが高くなっている。

現在、米国をはじめとする多くの国では、リスクの高い限局性前立腺がんと診断された男性患者のほとんどが、転移がんの徴候がないか確認するために追加の検査を受けている。追加検査では、従来のCTスキャン(X線を用いた検査)および骨スキャン(核画像検査の一種)が長年にわたり行われてきた。骨スキャンは、前立腺がんが骨に転移することが多いため、行われていた。

しかし、どちらの画像技術にも限界がある。どちらも個別の前立腺がん細胞をみつけるのに適していないため、非常に小さな腫瘍を見逃す可能性がある。また、骨スキャンでは、(例えば関節炎などの)がん以外の原因による骨の損傷または異常を検出することがあり、その結果として「偽陽性」の所見が得られ、不要な追加検査が必要になることがある。

そこで、研究者らは、体内で前立腺がん細胞を特異的に検出することができる他の画像診断薬の開発および試験を行ってきた、とShankar博士は説明した。

PET-CTスキャンは、その名の通り、CTスキャンとPETスキャンを組み合わせたもので、PETスキャンとはスキャンで検出することができる放射性「トレーサー」を患者に静脈注射する必要がある別種の核画像検査である

PSMA PET-CTでは、PETスキャンに使用するトレーサーに、前立腺がん細胞にしばしば多量に存在するPSMAタンパク質に特異的に結合する分子が含まれている。この分子は放射性化合物(放射性同位体)と結合している。オーストラリアの試験で使用された放射性同位体は、ガリウム-68(Ga-68)と呼ばれている。

他の放射性同位体を用いたPSMA標的トレーサーも広く研究されていると、ジョンズホプキンス大学医学部核医学・分子イメージング学部長のMartin Pomper医学博士は説明した。小規模研究では、PSMA PET-CTの方が限局性前立腺がん男性患者の転移の検出に優れていることが強く示唆されていると、Pomper博士は述べた。そのため、大規模研究からのさらに明確な回答が待ち望まれている。

より高い精度と治療変更

オーストラリアで行われた試験では、約300人の男性患者が登録され、全員が新規に限局性前立腺がん(前立腺生検に基づく)と診断され、高リスクとみなされた。本試験に登録された全男性患者に対して予定されていた治療は、外科手術(前立腺切除)または前立腺のみへの放射線療法のいずれかであった。

男性患者の半数が最初にCTスキャンおよび骨スキャンを受け、残りの半数はPSMA PET-CTを受けるように無作為に割り付けられた。

画像診断の結果、PSMA PET-CTは標準的な診断方法に比べて転移の検出精度が27%高かった(92%対65%)。精度は、疾患の有無を正確に同定する検査能力を示す尺度であるスキャンの感度と特異度を組み合わせることで決定された。

PSMA PET-CTは、骨盤内のリンパ節でみつかった転移、および骨を含む身体のより遠隔な部位でみつかった転移の両方に対して、より正確であった。また、PSMA PET-CTでは、従来の方法に比べて放射線曝露量が大幅に少なかった。

本試験では、画像診断の結果が臨床医の治療選択にどのような影響を与えたかについても追跡調査を行った。画像所見に基づいて、従来の画像診断方法を受けた男性患者の15%に対し、PSMA PET-CTを受けた男性患者の28%が初期治療計画を変更していた。

もう一つの重要な知見は、PSMA PET-CTでは、結論が出ない可能性、または曖昧な結果になる可能性が非常に低いことである(7%対23%)と、Hofman医師は指摘した。

これは重要なことである、とHofman医師は続けた。「スキャンの所見が不明確だと、多くの場合、さらにスキャンや生検など他の検査を受けることになるからです」。

PSMA PET-CTの未来

「この試験は信頼できるものであり、他国でのPSMA PET-CTの実臨床を反映したものです」と、Pomper博士は述べた。PSMA標的トレーサーがいくつか存在するため、次のステップは米国での臨床試験以外での使用が承認されることだろう、とPomper博士は付け加えた。

Pomper博士は、最終的にはさまざまなPSMAトレーサーを直接比較する研究が行われることになるだろうと予測した。

今回のオーストラリアでの試験は、前立腺がん男性患者における転移腫瘍の検出を改善する一連の研究に加わるものである。画像診断薬の1つであるフルシクロビンF18(アクスミン)は、PSMA標的トレーサーとは別の方法で前立腺がん細胞を標的としているが、米国ではすでに、治療歴があり、かつ(PSA値の上昇から)進行していると思われる前立腺がん男性患者に使用することが承認されている。

Shankar博士によると、PSMA PET-CTでもこの男性患者集団を対象とする試験が進められているという。PSMA PET-CTとフルシクロビンF18 PET-CTを直接比較した小規模臨床試験では、部位に関係なく、PSMAを標的とするスキャンの方がより多くの転移腫瘍を検出したことが示された。NCIは、同様のより大規模臨床試験に資金を提供している。

Pomper博士は、PSMAが腎臓、甲状腺、乳房を含む多くの他のがんの血管系でも比較的高いレベルで検出されていることを指摘した。そのため、Pomper博士は、PSMA PET-CTが前立腺がんを超えて有用な可能性があると期待している。

カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)のジョンソン総合がんセンターの Jeremie Calais医師によれば、UCLA およびカリフォルニア大学サンフランシスコ 校(UCSF) の研究者らは、Ga-68 PSMA 放射性トレーサーの承認申請をFDA に個別に提出している。両申請は2020年末までに承認される可能性がある、とCalais医師は述べた。

しかし、それぞれの申請は、これらのトレーサーの排他的な権利を放棄している、と同医師は説明した。FDA がこれらの申請を承認すると、製造能力がある他の機関が、UCLAおよびUCSF の薬剤と同じ仕様で独自のトレーサーを生産し、それらの使用を開始するためにFDAの簡略化された承認プロセスを得られる可能性があると、同医師は述べた。

その一方、PSMA PET-CTが米国の臨床診療にどのような影響を与えるかまだ明らかではない。しかし、オーストラリアやヨーロッパの数カ国ではすでに影響がみられていると、Hofman医師は述べた。オーストラリアでは、病院が患者治療に使用するPSMAベースのトレーサーを独自に製造するために規制当局の承認が必要ないため、オーストラリアの少なくとも60の病院で日常的にPSMA PET-CTが使用されている。

「(オーストラリアの)多くの施設の泌尿器科医および放射線腫瘍医はすでに、標準治療としてこのスキャンを指示しています」と、同医師は述べた。

PET-CTの普及に伴うコストについても懸念が高まっている。コストはさまざまであるが、多くの国では現在、PET-CTはCTスキャンおよび骨スキャンよりも高価である。しかし、PSMAを標的とするPET-CTがより広く使用されるようになれば、がんに使用されているPET-CTの中で最もよく使用されているFDG PET-CTのように、規模の経済によってコストが下がる可能性があると、Pomper博士は述べた。

翻訳担当者 会津麻美

監修 榎本 裕(泌尿器科/三井記念病院)

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