前立腺がん骨転移巣では、免疫療法薬の効果はTGF-βにより阻害

多量のサイトカインが治療に不可欠なヘルパーT細胞を排除することをMDアンダーソンの研究者らが発見

骨に転移した前立腺がんは骨組織の破壊を引き起こし、治療の成功に不可欠なT細胞の出現を妨害することで免疫チェックポイント阻害薬の効果を妨げると、テキサス大学MDアンダーソンがんセンターの研究者がCell誌で報告している。

MDアンダーソンの泌尿生殖器腫瘍学・免疫学教授Padmanee Sharma医学博士らの発見から、免疫療法が前立腺がんの骨転移に対してほとんど成功しなかった理由が明らかになり、成功する可能性のある併用療法が示された。

研究チームのこの発見は、転移がんを異なる観点から検討する必要性があることも浮き彫りにしている。

「ステージ4のがんは一様であると考える傾向がありますが、必ずしも同じとは限りません」とSharma氏は言う。「治療法を開発する際に、さまざまな転移領域における免疫微小環境についてもっと注意深くなり、微小環境のさまざまな免疫応答を考慮に入れる必要があります」。

研究は抗TGF-βと抗CTLA-4併用の可能性を示す

研究チームは、腫瘍によって引き起こされる骨破壊が、形質転換増殖因子β(TGF-β)の大量産生につながることを発見した。TGF-βは、ヘルパーT細胞を、抗腫瘍免疫応答を引き起こすために必要なCD4陽性Th1エフェクター細胞ではなく、CD4陽性Th17細胞に分化させるタンパク質である。

抗TGF-β治療とT細胞上のCTLA-4チェックポイントの阻害薬の1つを併用すると、マウスモデルで骨転移の進行を抑制した。「われわれは、転移性前立腺がんに対する抗CTLA-4と抗TGF-βの併用療法に関する臨床試験の進展に取り組んでいます」とSharma氏は述べている。

前立腺がん男性の多くでは、がんがほぼ一律に致死的な転移性去勢抵抗性疾患に進行する。ステージ4の前立腺がん患者では約70〜80%に骨転移が生じる。Sharma氏らによる最近の研究では、抗CTLA-4(イピリムマブ、販売名:ヤーボイ)と抗PD-1(ニボルマブ)のチェックポイント阻害薬の併用により、ステージ4の前立腺がん患者の一部で効果が認められたが、骨転移に対してはほとんど効果が認められなかった。

この問題を明らかにするために、Sharma氏の研究チームはまず、治療耐性に関する手がかりを得ようと患者の治療前後の骨髄を調べた。さらに、転移性前立腺がんのマウスモデルを用いて、得られた結果を検討し、併用療法について試験を行った(人での発見の「リバーストランスレーション」)。

CD4陽性Th1型T細胞の消失

免疫チェックポイント阻害が正常に機能すると、CD8陽性キラーT細胞の活性化と長期メモリー細胞の産生を誘導するCD4陽性Th1エフェクター細胞が増加する。

研究チームは、イピリムマブ治療を受けた患者の軟部組織に多くのTh1エフェクター細胞を認めたが、骨にはこの重要な細胞はほとんど存在せず、代わりに多数のTh17細胞を発見した。

「ここで重要な点は、Th1細胞が存在しないことです」とSharma氏は述べている。サイトカインはヘルパーT細胞をさまざまなタイプに分化させ、骨微小環境では多数のTh17細胞を産生する。しかしそこでのTh17細胞の機能は分かっていない。

研究チームは、転移性がんの2つのマウスモデルを開発した。骨転移に相当するモデルと、原発性前立腺がんや軟部組織転移に相当する皮下モデルである。

ヒトの場合と同様に、イピリムマブとニボルマブによる併用治療は、軟部組織転移マウスの腫瘍を縮小し、生存期間を延長したが、骨転移マウスの腫瘍および生存への効果はわずかであった。

治療によって、軟部組織と骨の両方で腫瘍に浸潤するCD4陽性・CD8陽性T細胞は増加したが、骨腫瘍の増殖は阻害できなかった。T細胞のマスサイトメトリー分析によりその理由が示された。つまり骨腫瘍のCD4陽性T細胞は、Th17細胞および免疫応答を阻害する制御性T細胞(Treg)系列のみであった。Th1エフェクター細胞は認められなかった。

皮下モデルでは、治療前にTh1エフェクター細胞が検出され、治療後に大幅に増加したが、Th17細胞とTreg細胞は減少した。

TGF-βは骨腫瘍を保護する

骨髄におけるTh1細胞の欠如は、骨微小環境の独特なサイトカインプロファイルを示唆している。研究チームは、マウスにおいて腫瘍のある大腿骨と腫瘍のない大腿骨で、13のサイトカインの発現量を分析した。

その結果、Th1細胞系列を抑制し、Th17細胞とTreg細胞の両方の出現を誘導することが知られているTGF-βの大幅な増加が認められた。Th17細胞はインターロイキン6の存在も必要とし、予想どおり、インターロイキン6は骨髄で豊富に認められた。

骨転移は異常な骨リモデリングを引き起こし、骨の構成成分はTGF-βの主な貯蔵庫として知られている。研究チームは、骨基質のリモデリングが前立腺がんの骨転移巣における高いTGF-β値の原因となるという仮説を立てた。

実験から、腫瘍によって活性化された破骨細胞(骨を破壊する細胞)が骨表面を浸食しながら過剰量のTGF-βを放出することが確認された。

ヒトにおいて仮説を検証するために、健康なドナー、骨転移がある前立腺がん患者、および骨転移がない前立腺がん患者の骨髄中のTGF-βの発現量を比較した。健康なドナーと骨転移のない患者との間でTGF-βの値に差はなかったが、骨転移のある患者の骨では異常に高い値であった。

TGF-βを阻害するとTh1細胞が回復し、免疫療法の効果が上がる

骨転移のあるマウスをイピリムマブとニボルマブを併用して治療しても、腫瘍の増殖を止めることはできなかった。しかし、この併用免疫療法に抗TGF-βを追加すると、腫瘍の増殖が停止した。

抗TGF-βとイピリムマブ単独でも、骨転移の進行を抑制した。この組み合わせはまた、骨微小環境においてTh1細胞の出現頻度を増加させ、Treg細胞を減少させた。

Sharma氏の共著者は以下の通り。
Shiping Jiao (first author), a graduate student at The University of Texas MD Anderson/UTHealth Graduate School of Biomedical Sciences, Sumit Subudhi, M.D., Ph.D., Ana Aparicio, M.D., Baoxiang Guan, and Yuji Miura, M.D., of Genitourinary Medical Oncology; and Zhongqi Ge, Ph.D., of Immunology.

この研究は、MDアンダーソン免疫療法プラットフォーム(ムーンショット計画の一部であり、科学的発見を患者の命を救う有意義な臨床的進歩へと速やかに進展させるための共同の取り組み)、およびパーカーがん免疫療法研究所の支援を受けた。Sharma氏は、MDアンダーソンパーカーがん免疫療法研究所の共同ディレクターである。

翻訳担当者 坂下美保子

監修 遠藤誠(肉腫、骨軟部腫瘍/九州大学病院 整形外科)

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