前立腺がん予防とフィナステリド

2019年5月13日 米国国立がん研究所(NCI)

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2003年、前立腺がん予防試験(PCPT:約19,000人の参加者を対象とした、NCIが資金提供するランダム化臨床試験)結果の示すところによれば、薬剤フィナステリドを7年間毎日服用した55歳以上の男性の前立腺がん発症リスクが大幅に低減していた。

しかしながら、この試験結果ではフィナステリドが高悪性度(より侵襲性が強い可能性がある)前立腺がんリスクを高める可能性も提起された。この結果は、米国食品医薬品局(FDA)が、本薬剤の添付文書に潜在的な高悪性度前立腺がんリスクについてブラックボックス警告を記載することにつながった。

前立腺がん予防試験のその後の解析により、フィナステリド投与男性で観察された高悪性度前立腺がん増加の少なくとも一部は、薬剤自体がこれらのがんの検出率を高めていることによって説明できることが示唆された。2019年1月に発表された試験結果によると、フィナステリドを服用した前立腺がん予防試験参加者の前立腺がん死亡リスクは、プラセボを服用した参加者と比較して高くはないとみられる。

今回のインタビューでは、米国国立がん研究所のがん予防部門に属し前立腺がん予防試験の研究者であるHoward Parnes医学博士が、事後解析の結果が今日のフィナステリド使用について持つ意味について語った。

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前立腺がんの予防法として、フィナステリドを対象として試験を行う根拠は何でしたか?

フィナステリドは、5α-還元酵素と呼ばれる酵素の活性を阻害します。この酵素は、テストステロンを前立腺で最も強力なアンドロゲンであるジヒドロテストステロンに変換します。

興味深いことに、希少な遺伝子疾患である5α-還元酵素欠損症の男性のPSA値は検出されないレベルで、前立腺がんになりません。したがって、男性型脱毛症および良性前立腺肥大症(BPH)の治療にすでに承認されているフィナステリドが、前立腺がん発症リスクも低減する可能性があることは理にかなっています。

前立腺がん予防試験では前立腺がんリスクが相対的に25%低下しました。この大幅な低下は予想外でしたか?

フィナステリドが7年間で前立腺がん罹患率を25%低下させたという結果は、実際にわれわれの予想とかなり一致していました。

さらに驚くべき結果は予想外に高い前立腺がんの全罹患率であり、これはプラセボ群の男性で約25%、フィナステリド投与男性で約18%でした。これは2つの要因によるものでした。

まず、試験に参加している男性すべてが年1回PSA検査を受けました。そして第二に、試験参加者の約3分の1が、毎年の検査でPSA値が一貫して4 ng/dl未満であるにもかかわらず、7年後の試験終了時に研究のための生検を受けることに同意しました。なお、4 ng/dlは、通常、前立腺生検を推奨するPSA閾値です。

実際、試験終了時の生検は、前立腺がん予防試験で診断された前立腺がん全体の約半数を占めていました。この観察結果は、特に、過剰診断問題を理解する上で重要な手掛かりとなります。過剰診断というのは、男性の一生の間に臨床的に明らかになる運命にない前立腺がんの診断のことを指しています。

高悪性度がん発見のリスク上昇はどうですか?2019年1月の前立腺がん特異的生存率の試験結果により、その知見についての議論は終わるのでしょうか?

20年近く追跡調査を行ってもフィナステリド服用男性で前立腺がん死亡率の上昇が見られなかったという事実に言及されていますね。

両群とも、前立腺がんで死亡した男性は比較的少数であったため、この試験結果ではおそらく議論は終わらないでしょう。しかし、私はこの試験結果が致死的な前立腺がんリスクを高める可能性についての懸念を軽減することには大いに役立つと感じています。

では、2003年に報告された高悪性度前立腺がんのリスク上昇をどのように説明されますか?

フィナステリドが前立腺生検で高悪性度がんの検出率を高めると考えているメカニズムが、2つあります。

第一に、フィナステリドは前立腺の大きさを約25%減らすことが知られています。大きい腺で生検を行う場合と比べて、小さい腺を同じように生検する場合には、生検針でがん(または高悪性度がん)領域を採取する可能性が高くなります。

第二に、前立腺がん予防試験の別の解析で示したように、フィナステリドはPSA検査による前立腺がん全体および高悪性度前立腺がんの検出感度を高めます。試験中に前立腺生検を実施かどうかの決定はPSA値に基づいているので、このことがフィナステリド投与男性において一般的に前立腺がん、特に高悪性度前立腺がんの検出率が高くなった一因となっている可能性があります。

薬剤が腺の大きさとPSA測定の有用性に影響しているせいで、観察された高悪性度がん増加の観点からすると、前立腺がん予防試験では本当にフィナステリドの害を過大評価しただけでなく、前立腺がんリスク低下量の観点からすれば、フィナステリドの利点を過小評価したかもしれません。

今後、前立腺がん予防の観点からフィナステリドの役割はありますか?

フィナステリドは、FDAから前立腺がん予防には承認されていませんが、良性前立腺肥大症(BPH)による尿路症状の治療に承認されています。また、BPHは前立腺がんのリスク因子ではないようですが、フィナステリドは男性の良性前立腺肥大症による尿路症状を改善しながら前立腺がん発症リスクを減らすことができるという点で、良性前立腺肥大症の治療には合理的な選択肢です。

性機能に対するものを含め、フィナステリドに発現する副作用に注意するのは大事なことです。前立腺がん予防試験ではわずかでしたが、統計的には有意な副作用の増加が認められました。フィナステリドに関連した、うつの発現率が高かったという報告もあります。したがって、フィナステリドの使用に関して、その潜在的なリスクと利点を話題に上げるようにすべきです。

翻訳担当者 金井健一

監修 榎本裕(泌尿器科/三井記念病院)

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