前立腺がん、心血管疾患の併発でアビラテロン投与後の死亡率が上昇

進行前立腺がん患者において、既に心血管疾患に罹患している患者の死亡リスクは、未罹患の患者の死亡リスクよりもアビラテロン酢酸塩(ザイティガ)投与開始後6カ月の時点で高くなった。この結果は、アトランタで3月29日~4月3日に開催された2019年度米国がん学会(AACR)年次総会のメディアプレビューで発表された。

「重篤な心血管疾患、あるいはコントロール不良の高血圧に罹患している患者は、アビラテロン酢酸塩に関する臨床試験ではたいてい除外対象となっています」、と、フィラデルフィア、ジェファーソンにあるシドニーキンメルがんセンターの集団科学副部長であるGrace Lu-Yao博士(公衆衛生学修士)は述べた。「しかしながら、実際の医療現場では、前立腺がん男性患者でこういった事態は非常に多く見受けられます」。

「私たちのデータによると、心血管疾患に既に罹患している患者は未罹患の患者と比較してアビラテロン酢酸塩投与開始後の死亡率が高く、投与開始後6カ月以内の生存率が大幅に異なることが示されています」、とLu-Yao博士は続けた。Lu-Yao博士は、シドニーキンメル医科大学腫瘍内科学部で副主任および教授職も務めている。「また、これらのデータは、臨床試験の結果を実際の医療現場に対してより一般化するために除外基準を緩めるという理論的根拠を示しています」。

「臨床試験で確認されたアビラテロン酢酸塩を用いた治療の転帰が、実際の医療現場での患者、特に臨床試験の適格基準に合致しない患者には当てはまらないかもしれないということを理解しておくことは進行前立腺がん患者にとって非常に大切です」、とLu-Yao博士は述べた。

進行前立腺がん治療のためにアビラテロン酢酸塩を用いた治療を受けた患者における実際の医療現場での転帰を調査することを目的として、Lu-Yao博士の研究チームはSurveillance, Epidemiology and End Resultsプログラム(SEER)とメディケアとの間を関連付けたデータから住民ベースのデータを取得し、1991年1月1日~2013年12月31日に前立腺がんの診断を受け、2011~2014年にアビラテロン酢酸塩による治療を受けた患者2,845人を特定した。

既存の臨床試験の除外基準は限定的なものであることから生じる不明部分について解明することを目的として、研究チームは、既に重篤な心血管疾患に罹患している患者の転帰について調査を行った。研究チームは、1,924人(67.6%)の患者がアビラテロン酢酸塩を用いた治療を開始する前に重篤な心血管系疾患(たとえば、急性心筋梗塞、心房細動、うっ血性心不全、脳卒中、および虚血性心疾患)のうち1つ以上に罹患していたことが確認された。これらの患者は、心血管疾患に罹患していなかった患者に比べてアビラテロン酢酸塩投与開始後6カ月後の全死因死亡率が有意に高かった。また、アビラテロン酢酸塩投与開始後6カ月の時点での全死因死亡の調整前リスクは、心血管疾患に罹患していない患者では15.8%であったのに対し、既に心血管疾患に罹患していた患者では、心血管疾患の種類にもよるが21.4%~25.6%の範囲であった。

アビラテロン酢酸塩を用いた治療法の、ヘルスケアの利用に対する影響について評価するため、研究チームはアビラテロン酢酸塩を用いた治療法を受ける前後6カ月の入院率を分析し、治療後に入院率が有意に上昇したことを確認した。心血管疾患に罹患していない患者の場合、化学療法を受けていない患者の入院率は53%上昇した。既に心血管疾患に罹患している患者では、その割合は心房細動患者の34%上昇から急性心筋梗塞患者の55%上昇までの範囲にわたっていた。

「治療後に入院率が上昇したことから、アビラテロン酢酸塩投与に伴うリスクは全患者に当てはまることが示されています」、とLu-Yao博士は述べた。

ドセタキセルを含む化学療法の治療歴がある転移性去勢抵抗性前立腺がん患者の治療に対し、アビラテロン酢酸塩はプレドニゾンとの併用において初めて米国食品医薬品局から2011年4月に承認を受けた。2018年2月には、高リスク去勢感受性前立腺がんに対しプレドニゾンとの併用において承認を受けている。

「疾患のより早期の段階で、期待余命がより長い患者にアビラテロン酢酸塩を用いた治療を行うようになり、患者の健康状態に基づいたリスクに勝る利益が得られるかどうか評価し、起こりうる可能性のある副作用に関して注意深く確実に患者をモニターすることが大切となります」、とLu-Yao博士は述べた。

Lu-Yao博士によると、本試験が後ろ向き試験であったこと、様々な疾患の病態などの交絡因子があること、および対照群がないため期待生存率を求めることが不可能であることを考慮に入れた場合、これらのリスクの高い患者における治療効果についてきちんとした評価が行えていない可能性があることがこの試験の主な限界として挙げられる。「また、SEERデータベースから得られる臨床データが不十分であるため、アビラテロン酢酸塩に関して主となる試験の登録基準・除外基準に対し、本試験の試験対象集団の直接比較が行えませんでした」、とLu-Yao博士は述べた。「さらに、本研究で対象とした心血管疾患はメディケアの請求情報に基づくものであり、分類の誤りがあるかもしれません」。

本研究はPennsylvania CURE Programアワードおよび米国国立がん研究所の資金提供を受けた。Lu-Yao博士の配偶者(本試験には不参加)がSun Pharmaceutical Industries Incで幹部職に就いていることを除き、Lu-Yao博士には申告すべき直接的な利益相反はない。

翻訳担当者 三浦恵子

監修 榎本裕(泌尿器科/三井記念病院)

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