放射能標識PSMA標的療法が転移性前立腺がんに高い奏効率を示す

専門家の見解
「身体の遠隔部位に転移している前立腺がん患者の生存率は低く、この種のがんに効果的な治療法を提供することは医師にとって進行中の課題です。新たな治療選択肢を緊急に必要としているこの患者集団について、全く新しい方法により、本臨床試験は患者の転帰を変え始めることができる望みを示しています」と、米国臨床腫瘍学会(ASCO)専門委員で本日の報道発表の議長であるRobert Dreicer医師(および理学修士、米国内科学会マスター会員(MACP)、ASCO上級会員(FASCO))は述べた。

標準治療を受けたにもかかわらず進行した前立腺特異的膜抗原(PSMA)陽性の転移性去勢抵抗性前立腺がん(mCRPC)の男性患者を対象とする単一群の第2相試験で、ルテチウム-177 PSMA-617(LuPSMA)と呼ばれる新規標的放射線療法が大多数の男性患者のがんに奏効することが見出された。本試験は、転移性前立腺がん男性患者に対する有望で新しい治療法の一つである、LuPSMAの最初の前向き試験である。研究者によると、この薬物治療を受けた男性患者の生存期間の中央値は治療後13.3カ月であり、同じ病期の男性患者の生存期間の平均9カ月より長かった。これらの結果は、カリフォルニア州サンフランシスコで近日開催される2019年泌尿生殖器がんシンポジウムで発表される。

「限局性前立腺がん男性患者については、外照射療法はもちろん密封小線源療法、すなわち放射性核種を密封した針の腫瘍内への直接挿入も有効な治療法です」と試験の筆頭著者であり、オーストラリアのメルボルンにあるピーター・マッカラムがんセンター(Peter MacCallum Cancer Center)の核医学教授で医学士のMichael Hofman氏は述べ、「しかし、私たちの試験の対象である、がん細胞が全身に転移している男性患者については、LuPSMAがこれまで治療困難であった疾患に新しい治療法を提供します」と続けた。

LuPSMAは、前立腺がん細胞に多く発現している受容体である前立腺特異的膜抗原(PSMA)を選択的に標的とする低分子リガンドにルテチウム−177という放射性薬剤(payload)を結合した構造である。この手法により、LuPSMAは、正常細胞に有害な高線量の放射線を、がんの転移部位のみに正確に照射させる。

結合した放射性薬剤の半減期(放射能が元の値の半分になるまでの時間)は7日である。さらに、LuPSMAは低レベルのガンマ線を放出しており、このことで核医学画像診断による視覚化が可能になっている。そしてこの画像診断によって、医師はがんが退縮しているかどうかを確認することができる。

試験について
ポジトロン断層撮影(PET)でスキャンした際、本試験に登録した患者全員が、がん細胞上にPSMAが発現しているmCRPCと診断された。

登録前、50〜87歳の男性患者らは前立腺特異抗原(PSA)値が中央値2.6カ月後に2倍に急増していた。がんの進行が速いために、ほとんどの患者にドセタキセル化学療法または抗アンドロゲン療法(アビラテロンおよびエンザルタミドの両方、またはいずれか一方)の治療歴があった。患者の48%が二次治療としてカバジタキセル化学療法を受けていた。

この試験では、医師は外来診療としてLuPSMAを6週間ごとに4サイクルまで静脈内投与し、PSA値ならびにCT、骨シンチまたはPETスキャンを用いた画像診断で追跡した。奏効が認められたものの、その後進行した一部の患者では、LuPSMAが追加で投与された。

主な知見
試験では、PSAの50%以上の減少が男性患者50人中32人でみられた。そのうち22人で、PSAが80%以上減少した。LuPSMA療法が奏効した男性患者では、PSA値が中央値で6.9カ月間増加せず、がんが進行しなかったことを示した。がんが進行した男性患者のうち14人は、中央値で2サイクルのLuPSMAが追加投与された。その後、これらの男性患者9人でPSAは50%以上減少し、この患者集団の生存期間は33カ月であった。

PSMAは唾液腺や涙腺の細胞にも発現していることから、最も多い副作用は悪心、疲労感、口渇であった。より重篤な副作用の一部が男性患者の約10%に発現し、貧血と血小板減少、つまり血液中の血小板の低下であった。

「この試験では、普通なら緩和ケアを受けていたはずの男性患者を治療しました」とHofman医師は述べ、「LuPSMAが、この極めて悪性度の高いがんを患う多くの男性患者に有用である可能性があり、副作用がほとんどなく、生活の質の大幅な改善がみられていることに高揚しています。重要なことは、がんが進行した一部の男性患者でLuPSMA再治療により有用性が継続していることです」と続けた。

次のステップ
初期段階の良好な結果に基づいてLuPSMAをさらに評価するために、2件のランダム化試験が開始された。試験の著者によれば、一つの試験はLuPSMAを化学療法と比較し、もう一つは標準治療と比較するということである。

本試験は、オーストラリアのメルボルンにあるピーター・マッカラムがんセンター(Peter MacCallum Cancer Center)から資金提供を受けた。PSMA-617はEndocyte社(米国、インディアナ州)により、ルテチウム-177はANSTO社(オーストラリア、シドニー)により提供された。

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翻訳担当者 金井健一

監修 榎本裕(泌尿器科/三井記念病院)

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