免疫チェックポイント阻害薬2剤併用が転移性去勢抵抗性前立腺がんに奏効

2つのチェックポイント阻害薬(イピ+ニボ療法)により、免疫学的に不活性な「冷たいがん」に対する早期の有望な結果が得られる
(*サイト注:cold tumor、既存療法に強い抵抗性を示す腫瘍)」

転移性前立腺がんを有する一部の患者が、ホルモン療法および化学療法が効かなかった後に免疫チェックポイント阻害薬の併用療法により奏効を示したことが、サンフランシスコで行われた米国臨床腫瘍学会(ASCO)泌尿生殖器がんシンポジウムで2月14日に発表された、テキサス大学MDアンダーソンがんセンターの研究者らが主導した臨床試験における早期の結果で示された。

CTLA-4阻害剤であるイピリムマブとPD-1阻害剤であるニボルマブを併用した結果、免疫チェックポイント療法に高い耐性を有するがんに対する有望な一歩が得られたと、MDアンダーソン泌尿生殖器腫瘍学・免疫学教授で臨床試験責任医師のPadmanee Sharma医学博士は語った。

Sharma医学博士と、2018年のノーベル賞受賞者である免疫学教授のJim Allison博士は、MDアンダーソン免疫療法プラットフォームの責任者であるが、両名の研究は2つの薬剤を併用する理論的根拠を示した。このプラットフォームは、科学的発見を患者の生命を救う臨床的進歩へと速やかに進展させるための共同的な取り組みであるMDアンダーソンのムーンショットプログラムの一部である。

第2世代ホルモン療法後に疾患が進行した去勢抵抗性の患者(コホート1)のうち、25%(32人中8人)はフォローアップ中央値11.9カ月の時点で併用免疫療法により腫瘍が縮小した。化学療法とホルモン療法の後に疾患が進行した患者(コホート2)のうち、10%(30人中3人)はフォローアップ中央値13.5カ月の時点で奏効を示した。

「この試験は、前立腺がんに対し初めて2つの免疫チェックポイント療法を併用した試験でした」とSharma医学博士は語った。「これらの結果は、免疫チェックポイント阻害薬がこれらの前立腺がん患者の治療で重要な役割を果たすことができるという考えを裏づけ、この戦略をより大規模な臨床試験で検証するための根拠をもたらすものです」。

腫瘍の増殖について評価可能であった患者62人のうち、完全奏効を示した患者は4人であり、各コホートで2人ずつ認められた。

併用による副作用は、他のがんに関する先行の併用試験で発生したものと一致しており、コホート1の患者のうち42%、コホート2の患者の53%にグレード3~5の有害事象が発生した。コホート1の33%は有害事象により試験を中止する必要があり、コホート2では35.6%が試験を中止する必要があった。もっとも高頻度に発生した有害事象は、下痢、疲労、皮膚発疹、吐き気、および甲状腺機能低下症であった。各コホートで2人ずつ、計4人の患者が、治療に関連した有害事象により死亡した。

試験中止の理由としては病勢進行が最も多く、コホート1の51.1%、コホート2の44.4%が上記の理由で試験を中止した。

研究者らは、いくつかのバイオマーカーの解析も行い、腫瘍遺伝子変異率が高いほど奏効が認められることを発見した。

併用療法によって「冷たいがん」に対する免疫を活性化させる

先行臨床試験において、いわゆる「冷たいがん(cold tumor)」と呼ばれる前立腺がんに対して、どの薬剤も単剤療法として有効ではなかった。これは、前立腺がんが免疫系の注意をひきつけないためである。適応免疫系において標的を攻撃する役割を担うT細胞のうち、前立腺腫瘍に浸潤するものはほとんど存在しない。

第1相試験では、ニボルマブ単剤に奏効を示した患者は存在しなかった。PD-1阻害剤が奏効するためには、腫瘍を攻撃する免疫反応が起こっていなければならないからである。

Sharma医学博士とAllison博士がNature Medicine誌にて発表した研究によって前立腺がんにおける併用療法の科学的根拠が得られた後、両剤の製造者であるBristol-Myers Squibb社により多施設共同併用療法臨床試験が計画された。

Sharma医学博士とAllison博士らはイピリムマブと抗ホルモン剤リュープロレリンの臨床試験で治療前後に腫瘍サンプルを解析し、イピリムマブががんに対する免疫反応を引き起こし、多数のT細胞が腫瘍へ浸潤していることを発見した。

彼らは、T細胞上のPD-1チェックポイントのスイッチをオンにするリガンドであるPD-L1が腫瘍と、それに反応して周辺組織に多量に発現し、T細胞の攻撃を停止させていたことも発見した。Sharma医学博士とAllison博士は、併用療法によりイピリムマブが免疫反応を誘導し、その後ニボルマブがPD-1による非活性化から免疫反応を保護したのであろうと仮説を立てた。

研究者らおよび出資者のBristol-Myers Squibb社は、副作用の減少を目標として、イピリムマブの用量とスケジュールのいずれかの変更を含むフォローアップ試験を計画中であると、Sharma医学博士は語った。

現行試験のCheckMate-650の患者らについて、全奏効率と画像検査による無増悪生存期間を主要評価項目、全生存期間を副次評価項目として評価予定である。

Allison博士は、過去にイピリムマブの開発に関してBristol-Myers社から謝礼を受けたが、このような報酬は現在受けていない。

Sharma医学博士の共著者は以下のとおりである。Sumit Subudhi, M.D., Ph.D., also of Genitourinary Medical Oncology at MD Anderson; Russell Pachynski of Washington University School of Medicine, St. Louis; Vivek Narayan, of Abramson Cancer Center, University of Pennsylvania; Aude Flechon, of Center Leon Berard, Lyon, France; Gwenaelle Gravis, of Institute Paoli-Calmettes, Marseille, France; Matthew Galsky, Icahn School of Medicine at Mount Sinai, New York; Hakim Mahammedi, Centre Jean Perrin, Clermont-Ferrand, France; Akash Patnaik, University of Chicago School of Medicine; Marika Ciprotti, Bristol-Myers Squibb, Uxbridge, U.K.; Burcin Simsek, Abdel Sacci, Sarah Hu and G. Celine Han of Bristol-Myers Squibb, Princeton, N.J.; and Karim Fizazi of Gustave Rousy, University of Paris Sud, France.

翻訳担当者 串間貴絵

監修 榎本 裕(泌尿器科/三井記念病院)

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