術後放射線によって前立腺癌の再発リスクが低下

米国国立がん研究所(NCI)

Radiation After Surgery Cuts Risk of Recurrence in Prostate Cancer(Posted: 09/07/2005)The Lancetの2005年8月13日号によると、外科手術によって前立腺を摘出した後放射線治療を受けた局所進行前立腺癌の男性は、放射線治療を追加しなかった男性に比べて再発や転移が少ない。


要約
前立腺摘除術施行後の放射線治療を受けた局所進行性前立腺癌を持つ男性は、追加の放射線治療を受けなかった男性より癌の再発と転移の可能性が低くなります。

出典  ランセット 2005 年 8 月 13 日号(ジャーナル要旨参照)

背景
進行性前立腺癌を持つ患者はしばしば異常細胞を切除する手術を受けます。前立腺と前立腺に関連するリンパ節を切除する初期手術は根治的前立腺摘除術と呼ばれます。この手術は、全ての癌細胞が前立腺内部に限局する時、ほとんどの場合治癒的です。しかし、ステージ Ⅲの 癌(前立腺の外部組織に拡がってはいるがその他の臓器には及んでいない癌)である局所進行性の男性では、前立腺摘除術後の癌の再発の可能性が高くなる傾向にあります。

放射線治療(エックス線などの高エネルギー・ビームが癌細胞の縮小や死滅のために使用される治療法)は、早期前立腺癌を持つ男性を治療するために手術に代わってしばしば使用されます。研究者らは、ここに記載された試験で、手術直後に施行される放射線治療が進行性前立腺癌の男性にとって手術単独の治療より良い結果をもたらすか否かを模索しました。

前立腺特異抗原( PSA )テストは再発を観察する有益な手段です。ほとんどの男性は血中にかなり低いレベルの PSA が存在しますが、前立腺癌はこれらの値を上昇させます。

試験
今回の欧州における多施設第 3 相試験( EORTC 22911 )において、研究者らは局所進行性前立腺癌に対し根治的前立腺摘除術を受け、癌の再発や転移のリスクが高いと思われる男性 1,005 例を登録しました。男性は 2 つのグループのうちの 1 つに無作為に割付けされました。男性の半数 (502 例 ) は、術後 4 ヵ月以内に治療を開始される、 6 週間の補助(追加)の放射線治療を受けました。もう半数の男性( 503 例)は、経過観察でモニターされました。 PSA 値は、増加した抗原値を検出するため定期的に測定されました。

試験の第一著者はフランスのグロノーブルに所在する Universitaire A. Michallon の Michel Bolla 医師です。

結果
平均 5 年間の観察期間後、経過観察でモニターされたグループの 53 パーセントと比較して、根治的前立腺摘除後に放射線治療を受けた男性の 74 パーセントでは PSA 値を基準として癌が認められませんでした。これらの結果は、統計的に有意でした。臨床的無進行生存率(どのような症状も認めない生存率)はまた、放射線治療グループにおいて有意に改善しました。

しかし、放射線治療グループと経過観察グループの間で、この 5 年間の観察期間中の全生存率に関して有意な差は観察されませんでした。重度の下痢や著しく増加した尿頻を含む副作用は、放射線グループにおいてより頻度が多く認められました。

コメント
この大規模臨床試験からの結果は、「局所進行性前立腺癌におけるケアのパターンを変更する可能性がある」、とドイツのベルリンに所在する Charite Universitatsmedizin の Stefan Hocht 医師と Wolfgang Hinkelbein 医師が付随のコメントで記しています。

制限事項
この試験は、根治的前立腺摘除術直後の再発リスクの高い男性における放射線治療の使用を調査するものです。現在、前立腺切除後の放射線治療をケアの基準とするべきであるか、あるいは、 PSA 値が上昇するまで待ってから放射線治療をその時期に開始するべきである、といった異なる意見が存在します。

2 つ目のアプローチ(「早期サルベージ療法」としばしば呼ばれます)の利点は、ある患者では必要としないかもしれない追加治療(とその副作用)を回避することが可能となります。米国国立癌研究所のキャンサー・リサーチ・センター放射線腫瘍医である Anurag Singh 医師によると、前立腺癌再発のリスクのある男性の試験では、これらの患者の 50 パーセント近くは、癌の再発は生じないため追加の放射線治療は必要ではないと推定される、とのことです。

「この試験では、根治的前立腺摘除術後の高いリスクを持つ患者における術後放射線治療の有用性を立証します」と Singh 医師は述べました。「しかし、それは今日の問題に取り組むことではありません。言い換えると、 PSA 値を厳密にモニタリングしもし PSA に上昇がある場合に限り治療を行うことは損害をもたらすことになるのでしょうか?という問題です」 どのような患者が早期サルベージ・アプローチから利益を受ける可能性があるのか確認する更なる調査が必要とされます、と付け加えました。

Hocht 医師と Hinkelbein 医師は、「サルベージ療法は、前立腺摘除後の「 PSA 」再燃の場合においてかなり効果的です。」と認めており、コメントで述べています。「まだ答えが得られていない疑問は、追加照射が、「 PSA 値」上昇直後に行われる早期サルベージ療法より優れているか否かです。」    (ウルフ 訳・Dr.榎本 裕(泌尿器科) 監修 )

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