早期前立腺がん患者の意思決定にウェブツールが役立つ可能性

新たに早期前立腺がんと診断された男性にとって、ウェブツールは個人的に何を優先したいかその項目に適った選択への手引きとなり、疾患管理に関する迷いを軽減するのに役立つ。ダナファーバーがん研究所研究員主導で行われた大規模多施設共同臨床試験で、このような結果が明らかになった。

この臨床試験結果はJournal of Urology誌に掲載された。研究者らによると、前立腺がんの男性は大概、疾患管理の選択肢をケアチームと一緒に検討する場面において意思決定上の葛藤を経験するが、Personal Patient Profile-Prostate(P3P)意思決定支援ツールによってこの葛藤を減らせることを再確認する臨床試験結果となった。これらの知見は、多様性にそれほど富んでいない患者集団でP3Pを試験した2011年の臨床試験結果から得られた知見と一致している。

「限局性前立腺がんと診断された男性には大抵、複数の選択肢があります。受動的でない経過観察、前立腺の外科的除去、体外からの照射による放射線療法や前立腺密封小線源療法などです。いずれの選択肢もさまざまな副作用を引き起こす可能性があります」と、研究チームリーダーであるダナファーバーのDonna Berry氏(博士、正看護師(RN)、がん看護専門看護師(AOCN)、アメリカ看護アカデミー特別会員(FAAN))は述べた。「私たちはP3Pの設計において、男性患者の個人的な好みや価値観を考慮し、それらについて担当医と話し合うように促すことによって、意思決定過程で彼らを支援することを目指しました」。

この試験には、米国の4つの地域から、前立腺がんと診断されて間もない400人近い多様な患者が参加した。そのうち半数は標準的な教材や評判の良いウェブサイトとP3Pを併用して選択肢を検討し、残りの半数は教材やウェブサイトのみを活用した。診断から1カ月後、305人の参加者が、意思決定の現状、個人的な特徴、心配事、そして好みに関する質問票に答えた。

回答内容の分析によると、P3Pを使用した男性は、使用しなかった患者群と比較して、治療の決定に関する葛藤が有意に少なかったことが明らかになった。さらに、研究者らによると、医師により多く相談した参加者も、葛藤が少なかったことが明らかになった。

患者らが自らの決定に関して感じた葛藤は、疾患のリスクレベルの影響を受けた。転移リスクの低いがんに罹患している男性はさまざまな選択肢があるため、リスクの高いがんに罹患していて治療ガイドラインが絞られている男性と比べ、より葛藤を感じる傾向が見られた。

臨床試験が終了した後、研究者は、4つの施設において、希望する患者が誰でも活用できるようにP3Pを提供した。各施設は、患者にP3Pを案内し、当該プログラムを活用するように促す独自の方法を考案した。研究者が最も効果的だと判断した方法は、マサチューセッツ州ボストンにあるベスイスラエル・ディーコネス医療センターで実施された方法だった。この病院では、泌尿器科医が患者に前立腺がんを告知する際にP3Pについて話し、サイトへのリンクを渡した。数日後、診察予約の調整をする臨床コーディネーターが患者に連絡して質問に答え、P3Pの活用も促した。Berry氏によると、その次に優れていた方法は、泌尿器科医ではなく、ナビゲーター役の看護師がP3Pについて患者に伝えることだった。患者用資料一式の中にP3Pに関するパンフレットやチラシを入れただけの現場では、P3Pの活用促進であまり成果をあげていなかった。

「患者にP3Pを案内し、意思決定の際にどのようにしてこれが役立つかを知ってもらうために医療者が一人必要であると結論付けました」とダナファーバーがん研究所のPhyllis F. Cantor Center for Research in Nursing and Patient Care Dana-Farberを統括するBerry氏は述べた。「資格を持たない臨床スタッフが、この患者群にとっての意思決定支援の価値をあらかじめ理解しておくことも重要です」。

P3Pは、TrueNTHウェブサイトで患者に提供されている。現在、全米で8つの治療センターが、P3Pを患者に案内するプログラムを計画している。

この研究のための資金は、米国国立衛生研究所、国立看護研究所によって提供された(R01NR009692 CTN:NCT01844999)。

この論文の共著者は以下の通り。
Fangxin Hong, PhD; Traci M. Blonquist, MS; and Barbara Halpenny, MA, of Dana-Farber; Christopher P. Filson, MD, MS, of Emory University School of Medicine, Winship Cancer Institute, and Atlanta VA Medical Center; Viraj A. Master, MD, PhD, of Emory University School of Medicine and Winship Cancer Institute; Martin G. Sanda, MD, of Emory University School of Medicine; Peter Chang, MD, MPH, of Beth Israel Deaconess Medical Center; Gary W. Chien MD, of Kaiser Permanente Los Angeles Medical Center; Randy A. Jones, PhD, RN, FAAN, of University of Virginia School of Nursing; Tracey L. Krupski, MD, of University of Virginia School of Medicine; Seth Wolpin, MPH, PhD, RN, of University of Washington School of Nursing; Leslie Wilson, PhD, of University of California, San Francisco; Julia H. Hayes, MD, of Dana-Farber Cancer Institute at St. Elizabeth’s Medical Center; Quoc-Dien Trinh, MD, of Brigham and Women’s Hospital; Mitchell Sokoloff, MD, of University of Massachusetts Medical Center; and Prabhakara Somayaji, MD, a physician in private practice in Niagara Falls, N.Y.

翻訳担当者 関口百合

監修 東 光久(総合診療、腫瘍内科、緩和ケア/福島県立医科大学白河総合診療アカデミー)

原文を見る

原文掲載日 

【免責事項】
当サイトの記事は情報提供を目的として掲載しています。
翻訳内容や治療を特定の人に推奨または保証するものではありません。
ボランティア翻訳ならびに自動翻訳による誤訳により発生した結果について一切責任はとれません。
ご自身の疾患に適用されるかどうかは必ず主治医にご相談ください。

前立腺がんに関連する記事

前立腺がんにおけるテストステロンの逆説的効果を解明の画像

前立腺がんにおけるテストステロンの逆説的効果を解明

デューク大学医学部デューク大学医療センター最近、前立腺がんの治療において矛盾した事実が明らかになった: テストステロンの産生を阻害することで、病気の初期段階では腫瘍の成長が止ま...
一部の生化学的再発前立腺がんに、精密医薬品オラパリブがホルモン療法なしで有効な可能性の画像

一部の生化学的再発前立腺がんに、精密医薬品オラパリブがホルモン療法なしで有効な可能性

ジョンズホプキンス大学抗がん剤オラパリブ(販売名:リムパーザ)は、BRCA2などの遺伝子に変異を有する患者に対し、男性ホルモン療法を併用せずに、生化学的再発をきたした前立腺がんの治療に...
転移性前立腺がん試験、アンドロゲン受容体経路阻害薬の変更よりも放射性リガンド療法を支持の画像

転移性前立腺がん試験、アンドロゲン受容体経路阻害薬の変更よりも放射性リガンド療法を支持

第3相PSMAforeの追跡研究研究概要表題タキサン未投与の転移性去勢抵抗性前立腺がん患者における[177Lu]Lu-PSMA-617の有効性とARPI変更との比較:ラ...
転移性前立腺がんに生物学的製剤SV-102とデバイスの併用免疫療法SYNC-Tは有望の画像

転移性前立腺がんに生物学的製剤SV-102とデバイスの併用免疫療法SYNC-Tは有望

低温プローブを用いる治験的治療では、前立腺がん細胞の一部を死滅させ、腫瘍特異的ネオアンチゲン(※がん細胞特有の遺伝子変異などによって新たに生じた抗原)を放出させ免疫反応を促進する。...