MRIの検査で、前立腺生検を回避できる可能性
前立腺がんの疑いがあるすべての男性は、MRIを受けるとよい、とガーディアン紙は報じる。これはMRIが現行の生検(分析のために前立腺組織片を採取すること)と比較してどれほど優れているかを調べた研究の結論である。
前立腺生検の欠点は、稀ではあるが副作用のリスクがあり、その中には敗血症のような深刻なものがあることである。
研究者は、前立腺の形状と大きさをみるだけでなく、前立腺の血流など他の要因も評価することができる、マルチパラメトリックMRIと呼ばれる高度なタイプのMRIを検討していた。
スキャンは500人以上の英国人男性に使用した。その結果、MRIにより、生検を必要とする男性の数を約4分の1減らすことができることが示唆された。さらに、悪性度の高い前立腺がんの男性では、MRIとその後の生検との組み合わせにより、臨床的に有意ながんを発見できる可能性が約2倍になる。
英国国立医療技術評価機構(NICE)は、この新しい診断方法を導入することで、費用対効果が高いかどうかを検討している。
前立腺疾患の可能性があり、相談が必要なときとは 前立腺がんは、がんが尿道(膀胱から陰茎に延びる管)に圧力をかけるほど大きく成長するまで、通常は症状を引き起こさない。 このように成長した前立腺がんは通常、以下のような排尿に関連する問題を引き起こす。 ・排尿の頻度が増える(多くの場合夜間に起こる) ・トイレに駆け込まねばならない ・排尿を始めるのが難しい(排尿困難) ・いきむ、または排尿に長い時間がかかる ・尿の勢いが弱い ・膀胱が完全に空になっていないと感じる 通常の排尿パターンに何らかの問題や変化があった場合は、家庭医に相談して下さい。これらの症状は、前立腺がんであることを意味するものではありませんが、検査をするとよいでしょう。 前立腺疾患の詳細はこちら(英文)。 |
研究の出典
本研究は、すべて英国にある、ユニバーシティ・カレッジ・ロンドン、王立マーズデン病院、ヨーク大学、ハンプシャー病院 NHSトラスト、UCLH NHS財団の研究者によって行われた。
本研究は、英国保健省、国立衛生研究所の健康技術評価プログラム、UCLH/UCL バイオメディカルリサーチセンター、王立マーズデンおよびがん研究協会バイオメディカルリサーチセンターの資金提供を受けた。
本研究は、ピアレビューの医学雑誌The Lancetに、インターネット上で無料閲覧できるオープンアクセスとして公開された。
本研究は多くの英国のメディアで報道され、報道は正確であった。
研究の種類
本研究は、前立腺がんの疑いのある男性を登録した、前立腺MRI画像検査研究(PROMIS)として知られている前向きマッチングコホート研究であった。 すべての男性は、あらかじめ前立腺生検を勧められていた。
男性にはそれぞれ、従来の診断検査である経直腸的超音波検査(TRUS)生検と、マルチパラメトリックMRI(MP-MRI)を含む新しい診断検査の2つの診断検査が行われた。 この検査は、テンプレート前立腺マッピング生検(TPM-生検)に加えて行われた。 これが、各検査方法の検出率を評価する際の参照標準である。
研究に参加した各男性に両方の診断検査を実施したため、それらを参照標準と直接比較することができ、両方を順に使用することの利点を評価することができる。 コホート研究は、診断検査を研究する際に最良のエビデンスとなる。
研究内容
研究者は、例えば3 カ月以内にPSA(前立腺特異抗原、前立腺肥大に関連するホルモン)レベルの上昇をみとめるなど臨床的に前立腺がんが疑われ、前立腺生検を受けるよう勧告されていた、576人の英国の男性を研究に組み入れた。
男性はまず初めに、マルチパラメトリックMRI(MP-MRI)という、組織構造だけでなく前立腺容積などの組織特性に関する情報を提供する新しい診断検査を受けた。
その後、男性は従来の経直腸超音波ガイド下前立腺生検(TRUS生検)を受けた。
従来のTRUS生検の直前に、感染リスクを最小限に抑えるために、麻酔下で同様の手順によりもう1つの検査である経会陰テンプレート前立腺マッピング生検(TPM-生検)を実施した。 この検査は非常に正確であるため比較の基準として行われたが、日常的に使用するにはあまりにも侵襲的であると考えられているため一般的には使用されない。
従来のTRUS生検を実施している患者および医師は、その前に行われたMP-MRIの結果を知らされていなかった。
結果
TPM生検を用いた標準比較試験によると、男性576人のうち408人ががんに罹患し、230人が臨床的に有意ながんに罹患していた。
臨床的に有意ながんにおいて、MP-MRI検査(93%、95%信頼区間 [CI] = 88%~96%)のほうが、従来のTRUS生検のみ(48%、95%CI= 42%〜55%)よりも感度が高かった。
陰性的中率は89%であった(95%CI = 83%~94%)。 これは陰性の結果によりがんを排除する精度であり、MP-MRIが陰性であった男性576人のうち158人(27%)という結果であった。つまり MP-MRIを使用すると、27%の患者が生検を避けることができるのかもしれない。
しかし、TRUS生検(96%、95%CI = 94%〜98%)と比較して、MP-MRIの特異度は41%(95%CI = 36%〜46%)であった。 これは、TRUS生検が検査を受けた人々が、がんを患っているかどうかを診断する上で優れており、依然としてTRUS生検が必要であることを意味する。
これは、MRI検査とその後の生検の組み合わせでは、生検単独の場合よりも臨床的に有意ながんを発見する可能性がほぼ2倍高いことを意味していた。
結果の解釈
研究者らは、「TRUS生検は、臨床的に有意な前立腺がんの診断検査としてはほとんど機能しない」と結論づけている。
彼らは、「初回前立腺生検前のトリアージ検査として使用されたMP-MRIは、不要な生検を避けられる男性の4分の1を特定し、臨床的に有意ながんの検出精度を改善する可能性がある」と示唆している。
結論
全体として、この研究は生検前にMP-MRI検査を使用すれば、不必要な生検を受ける男性の割合がはるかに低くなるという、十分なエビデンスを示した。検査を組み合わせることにより、がんの検出を助け、不要な治療を避けられる。
しかし、がんのない患者を予測する精度が低いということは、疑わしいMP-MRIスキャンの結果が出た患者には依然として生検が必要であることを意味する。これは今回の結果によると、スキャンで「すべてクリア」という結果が得られた場合でも、実際には間違った結果である可能性が約40%あるからである。
しかし、研究の限界がいくつか存在する。
検査間の時間差(最初に新しい診断検査が行われた場合)は、従来の診断検査および参照検査が行われるまでに腫瘍の性質がわずかに異なる可能性があることを意味している。
前立腺が100ml以上の男性は除外され、正確な診断の割合に影響を与えた可能性がある。
従来のTRUS生検は、TPM生検直後に実施した。
従来の検査の正確性は、直前の生検による腫脹や組織の破壊の影響を受けている可能性がある。
この知見は全体的に、生検を受ける前にPSAレベルが上昇したすべての男性についてMP-MRIスキャンを推奨するかどうかの議論を呼び起こす。
現在NICEが前立腺がんの標準診断にMP-MRIスキャンを追加すべきかどうかを検討していると報告されている。
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