前立腺がん検診の推奨グレード(一般向けリーフレット2012年版)

米国予防医学専門委員会(USPSTF) (*このページは旧版です。最新2018年版はこちらです)

前立腺がん検診

米国予防医学専門委員会(USPSTF)は、前立腺がん検診に関する最終的な推奨グレードを公表しました。この推奨グレードは、全ての年齢層の成人男性を対象とします。ただし、前立腺がんと診断されている男性、前立腺がんの治療を受けている男性は対象としていません。本委員会は、前立腺がんに対する前立腺特異抗原(PSA)検診に関する調査研究について審査し、PSA検診では、利益がもしあるとしても想定される不利益の方が大きいと結論づけました。このファクトシートでは、本委員会の推奨グレードおよびそれが意味するものについて説明します

2012年5月

前立腺がんとは・・
前立腺がんは、前立腺に発症するがんです。前立腺は男性の身体にある小さい腺で、精子を運ぶ分泌液を生成し、膀胱の下方、直腸の前方に位置します。

前立腺がん検診
前立腺がんは、皮膚がんに次いで2番目に米国人男性に多いがんです。高齢男性、アフリカ系米国人男性、前立腺がんの家族歴を有する男性は、前立腺がんの発症リスクが高いです。

前立腺がんは、高頻度に認められますが、多くの場合、進行せず、症状も引き起こしません。たとえ進行しても非常に遅いことが多く、生涯のうちに健康問題を生じることはあまりありません。

前立腺がん検診では一般的に次の2つの検査が用いられます。

● 前立腺特異抗原(PSA)血液検査  この検査は、前立腺がん男性に多量に認められる可能性のあるPSAという物質を調べます。しかし、PSA値が高いからといって、必ずしも前立腺がんであるというわけではありません。PSA値は、その他の前立腺疾患でも上昇する可能性があります。

● 直腸指診  この検査では、医師が手袋をはめ潤滑剤をつけた指を直腸に挿入し、前立腺を触れてしこりやその他の異常がないかを調べます。

本委員会の推奨グレードは、主にPSA検診を対象とし、直腸指診またはその他の検査の併用の有無を問いません。

検診によって見込まれる利益および不利益
がん検診の主な目的は、がんによる死亡を減少させることですが、本委員会は、検診を受けることによってこの利益を得られると考えられる成人男性は、たとえいたとしてもごく少数であると結論しました。

本委員会は、PSA検診に重大な見込まれる不利益があることもわかっています。PSA検診では、がんでない場合でも前立腺がんの可能性があると示されることも多く、これを「偽陽性」結果といいます。偽陽性の結果を受け取ることは不安や心配の要因となり、必要のない再検査につながる可能性があります。このような検査では、発熱、感染、出血、排尿障害、痛みなどの不利益が生じることもあります。少数ではありますが、これらの合併症により入院の必要が出てくる男性もいます。

また、前立腺がんと診断された場合でも、現時点では、そのがんが健康問題を起こさず、治療の必要のないがんなのか、それとも治療を必要とする侵襲的ながんなのかを確実に見分ける方法はありません。つまり、害を及ぼすことのないがんが多数診断されることになります。これを「過剰診断」と呼びます。

現在のところ、治療が必要ながんを確実に見分けられないことが多いため、PSA検査によって前立腺がんが見つかったほぼ全ての男性が、手術、放射線療法、またはホルモン療法による治療を受けます。こうした男性のがんの多くは、進行することも健康問題が生じることもないため、治療の必要がない。これを「過剰治療」といいます。

本委員会は、PSA検査によって見つかったがんの治療に、重大で、長期に及ぶことも多い次の不利益があることを発見しています。

・手術、放射線療法、またはホルモン療法に起因する勃起不全(インポテンス)
・放射線療法または手術に起因する尿失禁
・放射線療法に起因する直腸障害
・わずかながら、手術に起因する死亡および重篤な合併症のリスク

前立腺がん治療およびそれらの不利益の可能性についての詳細は、本ファクトシート末尾のウェブサイトへ。

前立腺がん検診に関するUSPSTFの推奨グレードが意味するものとは

下記がその推奨グレードです。検診の見込まれる利益が想定される不利益を上回らない場合、本委員会はその検診を推奨しません。鍵となる見解については注釈で説明しています。

推奨グレードは、アルファベットによって段階分けされており、グレード評価は、検診で見込まれる利益および不利益についてのエビデンスの質に基づいています。これら本委員会のエビデンスに基づくグレードについては、本ファクトシート末尾の表で示しています。

前立腺がん検診に関する全ての推奨声明を読むには、本委員会のウェブサイトをご参照ください。ここでは、USPSTFが再調査したエビデンス、およびグレードを決定した方法について解説しています。この議題についてのエビデンス報告書により、本委員会が検討した研究についての詳細を得ることができます。

1 USPSTFは、PSAに基づく前立腺がん検診を推奨しない。 (グレードD)

1 推奨しない
多くの男性が、PSA検診によって利益よりも不利益を受けることが、科学的に示されている。利益はあるとしてもせいぜいわずかしか見込めず、想定される不利益の方が大きい。 


前立腺がん検診は受けるべきか
最善の医療を受けるということは、どのような検診、カウンセリング、予防医療を受けるべきか、またそれらをいつ受けるのかということについて、賢明な決断を下すということです。多くの人々が、必要な検査やカウンセリングを受けない一方で、必要のない、または害を及ぼす可能性のある検査やカウンセリングを受ける人もいます。

USPSTFの推奨によって、検診、カウンセリング、予防医学について知ることができます。これらによって、健康を保ち、疾患を予防することができます。本委員会の推奨は、疾患の診断(病気の原因を調べる検査)または治療のための検査は対象としていません。

PSA検診を受けるかどうかをどのように決断すべきか
自分自身の健康およびライフスタイルについてよく考えましょう。自分の前立腺がんリスクについて担当の医療専門家に相談してください。また、医療に対する個人的な信条および優先度について考えてください。本委員会による推奨のような、科学的な評価について知っておくようにしましょう。PSA検診や、その結果によって受ける可能性のある全ての治療について、見込まれる利益と不利益を比較検討してください。PSA検査を受けることを選択した場合、検査結果について担当の医療専門家に相談し、追加検査や治療を受けることが自分に適しているかどうか相談しましょう。

米国予防医学専門委員会とは

米国予防医学専門委員会(USPSTF)は、予防医学、科学的根拠に基づく医療における国家の専門家からなる独立した団体である。本委員会は、検診、カウンセリングサービス、予防医学のような臨床的な予防医療に関する科学的根拠に基づく推奨を作成することにより、全ての米国人の健康の改善に取り組んでいる。本推奨は、議論中の疾患についての徴候または症状のない人を対象とする。

推奨声明を作成するため、委員会のメンバーは、議題に関する利用可能な最善の科学および研究について検討する。各議題に対し、本委員会は、推奨声明の草案などのドラフト文書を掲載し、パブリックコメントを求めている。最終的な推奨声明を作成する際に、全てのコメントを再調査し検討する。詳細については本委員会のウェブサイトへ。

 USPSTFの推奨
グレード 定義
A  推奨する
B  推奨する
C  個人の状況により推奨する
D  推奨しない
I  推奨するための十分なエビデンスがない

*前立腺がんおよびPSA検診についての詳細*

● PSA検診。一目でわかる統計(USPSTF)

● 前立腺がん検診。医師への質問(healthfinder.gov)

● 前立腺がん検診PDQ(米国国立癌研究所)

● 前立腺がん(米国疾病対策予防センター)

原文 Task Force Final Recommendation     2012年5月更新

翻訳担当者 生田亜以子

監修 斎藤 博(検診研究部/国立がん研究センタ−)

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