監視療法を受ける低リスク前立腺がん患者は、死亡する可能性が低いことが示される

男性1,298人の長期的な転帰のデータにより、監視療法が一部の患者において手術または放射線治療よりも有益であることが示唆されたとジョンズホプキンスの研究者らは語る

ジョンズホプキンス大学

要点

  • 「われわれの試験は、慎重な選択を経て監視療法プログラムに登録された低リスクの前立腺がん患者が前立腺がんによって害を被る可能性は低いことを示すもので、男性患者の不安を和らげるのではないかと思います」とH. Ballentine Carter氏は言う。
  • Carter氏は、試験の対象となった男性のほとんどが白人であったため、この結果が、がんの悪性度が高い傾向があるアフリカ系アメリカ人男性には当てはまらない場合もあると警告している。
  • 氏によれば、この試験結果は、医師が監視療法の対象となる患者を慎重に選択したために得られた可能性もあるという。

ジョンズホプキンスのBrady Urological Instituteの研究者らが、最長15年間の生存統計を解析した結果によると、悪性度が比較的低い前立腺がん患者で、泌尿器科医ががんを注意深く監視している場合には、前立腺がんが転移したり、前立腺がんで死亡したりする可能性が低い。

具体的には、この20年間にジョンズホプキンスのいわゆる監視療法プログラムに登録された男性1,298人のうち、前立腺がんで死亡したのはわずか2人で、転移を発症したのは3人であったと研究者らは報告した。

「われわれの試験は、慎重な選択を経て監視療法プログラムに登録された低リスクの前立腺がん患者が前立腺がんによって害を被る可能性は低いことを示すもので、男性患者の不安が和らぐのではないかと思います」と、泌尿器腫瘍科Bernard L. Schwartz Distinguished Professor(特別教授)であり、成人泌尿器科部長のH. Ballentine Carter医師は言う。

Carter医師によれば、この試験結果は、監視療法の対象となる患者を医師が慎重に選択したために得られた可能性もあるという。「さらに長期間追跡すれば、データが変わる可能性はありますが、この年齢層の男性はほかの原因で死亡する傾向があるため、データが大幅に変わることはまずないと思われます」と話す。

また、試験の対象となった男性のほとんどが白人であり、この結果が、がんの悪性度が高い傾向があるアフリカ系アメリカ人男性には当てはまらないかもしれないと警告する。

Journal of Clinical Oncology 誌の8月31日の電子版に掲載されたこの試験には、悪性度が低リスクまたは超低リスクに分類された前立腺がんの男性が、ジョンズホプキンス病院の監視療法に自ら参加した。リスクレベルは、病理医が前立腺生検の組織によってがんの悪性度を評価するグリーソンスコアなどを用いて決定した。

Carter医師によると、1995年の試験開始時には、プログラムに参加した男性が75歳になるまで、生検が年に1回泌尿器科医によって実施されていたという。現在、リスクが最も低いグループでは、年1回の生検は必要ではないが、生検を実施する場合はMRIガイドによる技術を使用するとともに、前立腺がんの悪性度のバイオマーカーであるPTEN遺伝子のタンパク量を生検組織で確認するよう病理医に依頼することが多い。

1,298人のうち、47人が前立腺がん以外の原因、主に心血管疾患によって死亡した。この47人のうち9人が前立腺がんに対する治療を受けていた。2人が前立腺がんで死亡したが、そのうち一人は、監視療法プログラムに参加して16年後のことであった。もう一人は、ジョンズホプキンスの医師らが監視療法を勧めたが、他院でのモニタリングを希望し、診断から15カ月後に死亡した。プログラムに参加したうち3人が転移性前立腺がんと診断された。

総合すると、プログラムに参加した患者では、15年間に前立腺がん以外の原因で死亡する可能性の方が24倍高いと算定された。

追跡期間10年および15年の時点で、このグループの前立腺がん特異的生存率は99.9%、無転移生存率は99.4%であった。

グループのうち467人(36%)の前立腺がんが、監視療法プログラムの登録から中央値2年以内に、より悪性度の高いレベルに再分類された。超低リスクのがん患者が、一般的にプログラムの登録から除外されるレベルにグレードの再分類が行われる累積リスクは、5年間、10年間および15年間で、それぞれ13%、21%および22%であった。低リスクのがん患者では、このリスクが19%、28%および31%に上昇した。Carter医師によると、ほとんどの場合、死に至る可能性があると考えられるものの、治癒の可能性もあるレベルにグレードの再分類が行われる累積リスクは、同じ期間内で、超低リスク、低リスクの前立腺がんともに、5.9%にすぎなかった。

このほか、グループの109人が、前立腺がんの状態に著しい変化が認められないにもかかわらず、手術または放射線治療を受けることを選択した。がんが再分類された患者では、361人が治療を受けることを選択した。

「前立腺がんの自然な進行は20年前後という長期間かかって起こるため、低リスクの前立腺がん患者のほとんどが別の原因によって亡くなります。治療をせずに害を及ぼさないことと過剰治療との間には慎重なバランスが存在し、そのバランスを見つけるのが困難なこともありますが、われわれのデータが役に立つのではないかと思います」と、ジョンズホプキンスキンメルがんセンターの一員であるCarter医師が話す。

Carter医師は、監視療法を選択する人が80%にのぼる北欧諸国に比べ、アメリカで監視療法を選択する人は、適格前立腺がん患者の30~40%であると推定する。アメリカで監視療法の使用が少ないのは、治癒のチャンスを逃がす恐れから来るものではないかという。

Carter医師は、監視療法のメリットのひとつは、合併症の割合や前立腺がんの治療費を減らすことができることであると言う。最近の報告では、前立腺がん治療(放射線治療または手術)を受けた患者の20%が、治療後5年以内に、最初の治療に関係のある合併症のために再入院している。

「われわれの目標は、手術も放射線治療も必要ない患者の治療を回避することです。最も悪性度が低く、監視療法が安全であるがん患者を特定する能力は、画像診断技術やバイオマーカーの進歩に伴って改善するでしょう」とCarter医師は言う。

監視療法は、全米の代表的ながんセンターで構成されるNational Comprehensive Cancer Networkが作成した医師のための最良の診療ガイドラインに含まれている。Carter医師は、監視療法プログラムでモニタリングを受けるために、泌尿器の専門医の診察を受けることを勧めている。

この試験は、Prostate Cancer Foundationおよび以下の慈善家によって資金提供を受けた:Joan and Art Connolly Family Fund, the Roger S. Firestone Foundation, Neil A. Green, M.D., Mr. George C. Tunis, Jr., the Blum-Kovler Foundation, the Bozzuto Family Charitable Fund, Mr. Jacob F. Bryan, IV, Mr. & Mrs. David I. Granger, Mr. Harvey G. Sherzer, Mr. Thomas M. Rollins, Mr. Wesley D. Stick, Jr., Mr. David Eppler, Mr. Rudi Kremer, Mr. Frank Vitez, and Phenix Technologies
Carter医師に加えて、試験に貢献したジョンズホプキンス研究者は以下のとおりである;Jeffrey Tosoian, Mufaddal Mamawala, Jonathan Epstein, Patricia Landis, Sacha Wolf ,Bruce Trock 
DOI: 10.1200/JCO.2015.62.5764

(*監視療法・・日本では、PSA監視療法という)

翻訳担当者 中村幸子

監修 榎本 裕(泌尿器科/三井記念病院)

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原文掲載日 

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