イヌはどのように前立腺がんを嗅ぎ分けたのか

英国医療サービス(NHS)

2015年4月13日 月曜日

「訓練を受けたイヌが、90%以上の精度で前立腺がんを検知した」とガーディアン紙(The Guardian)は報告している。訓練を受けた2頭の爆発物探知犬はまた、高い精度で尿検体に含まれる前立腺がん由来の物質をも検知可能であることが証明された。

この記事は、2頭の爆発物探知犬に前立腺がん患者の尿を特定させる訓練を実施した研究に基づく。試験には患者群332、患者ではない対照群540の尿検体を使用し、その大部分は男性から採取した尿検体であった。

1頭は100%正確に、もう1頭は98.6%の割合で前立腺がん患者の尿検体を検出したが、2頭とも対照群の尿検体では1~4%を前立腺がん患者群のものと誤って検出した(偽陽性)。

試験に使用された尿検体には、訓練および検出力評価の両方に使用された検体があるため、試験結果を確認するには全く新たな尿検体を用いて、再試験を実施するのが理想である。

本試験は、イヌに対し、前立腺がんであることが判明している男性の尿と、前立腺がんでない対照群の尿とを識別する訓練が可能であることを示唆する。しかしながら、前立腺がんであるかが未だ不明である患者を、正確に検知することが可能であるかどうかを検証するにはさらに試験を実施する必要がある。

イヌが前立腺がんを検知するために、広く日常的に用いられる可能性は低いと思われるが、イヌが尿中に感知している物質を正確に特定できれば、研究者らはその物質を検知する方法を開発することが可能である。

詳しくはこちらのサイト「potential warning signs for prostate cancer(注意すべき前立腺がんの徴候)」を参照ください。

イヌと診断について

本試験は、病気の徴候を「嗅ぎ分ける」のにイヌを用いた最初の事例ではない。イヌが肺がん、大腸がんおよび低血糖を検知可能かどうか判定するための試験がすでに実施されてきた。

この説明の根拠について

この試験は、イタリアのHumanitas Clinical and Research Center(臨床研究センター)と他の研究所の研究者らによって実施された。研究資金提供については報告されていない。

試験は査読付き医学雑誌Journal of Urologyに発表されており、無料公開されているので、オンラインまたはダウンロードして閲覧が可能である(free to read online or download)。

本試験はさまざまな報道機関によって取り上げられたが、それはイヌの話題であればどんなものでも関心が集まるために他ならない。

ほとんどの報道機関が誤った犬種の写真とともに記事を紹介しているが、Independent誌はジャーマン・シェパードの写真を示し、正しく報道している。Daily Mirror誌は対照群が全員男性であったように示唆していたが、これは事実ではない。

研究内容について

今回の試験は、探知犬が、前立腺がんであると判明している男性の尿検体と対照群の尿検体を、正確に嗅ぎ分けることが可能かどうかを調査した横断的研究である。

この試験方法は、新たな試験の目的を早期に評価するのに適している。成功すれば、すでにがんの診断を受けた患者ではなく、がんの疑いがあり精密検査を受けている男性の尿検体で試験することが必要となってくる。これにより実際の臨床現場で、イヌがどのように機能するのかが明らかになる。

研究者らは、前立腺がんを検出するためのより良い方法が必要であると語る。PSA検査によって前立腺がんか否かが判定可能である。しかしながら、感染症または炎症など、癌以外の病態でもPSA値は上昇するため、この検査では前立腺がんに罹患していなくても多くの偽陽性を示すこともある。

PSA値が上昇しているだけでは、前立腺がんと確定するに足る診断結果とはいえない。罹患しているかどうか判断するためには、診察と生検のような侵襲的検査を合わせて実施する必要がある。

さらに別の研究では、探知犬が前立腺がん患者の尿に含まれる一定の化学物質の臭いを検知することが可能であると示唆されている。

しかしながら、イヌを対象とした試験が必ずしも成功しているわけではない。これは、訓練の方法も各種存在し、対象となる患者集団も異なるためである。研究者らは、厳しい訓練を受けた探知犬がどのような成果を見せるのか試験で確認したいと考えた。

この研究が示唆するものは何か?

研究者らは、2頭の探知犬を、前立腺がん患者の尿検体を特定するよう訓練した。その後、前立腺がん患者の尿検体と前立腺がん患者以外の尿検体の臭いをかがせ、いずれが前立腺がんの臭いを持つか示すようにさせた。

尿検体は、検出の方法も進行度も異なる前立腺がん患者362人から採取したものと、対照群は男性418人、女性122人で、健康であるか、または異なる種類のがんを持つ患者や別の健康問題を抱える患者から採取した検体であった。

試験に用いたイヌは2頭の爆発物探知犬で、いずれも3歳の雌のジャーマン・シェパードで、名前はZoeとLiuであった。がん患者群から200、対照群から230の尿検体を採取し、前立腺がんの検体を検知する標準的な方法を用いて訓練を実施した。

訓練の第一段階では、対照群の尿検体として、健康な女性と他の種類のがんに罹患した女性患者の検体を使用し、まだ検出されていない前立腺がん男性の尿検体が紛れ込む可能性がないようにした。次に健康な若年男性、その後健康な高齢男性へと段階を移行した。

訓練終了後、研究者らは前立腺がん患者群と対照群の全尿検体から無作為に6検体を選び、数回に分けて試験を実施した。結果分析を担当した研究者はどの尿検体が前立腺がん患者のものか否かは知らされていなかった。

基本的結果について

1頭は前立腺がん患者の尿検体を100%検出し、対照群の尿検体7検体(1.3%)を誤って患者群のものとした(偽陽性)。

もう1頭は前立腺がん患者の尿検体を98.6%正確に嗅ぎ分け、1.4%(5検体)を検出することができなかった。対照群の尿検体13検体(3.6%)を誤って患者群のものとしたが、偽陽性とした尿検体はいずれも男性から採取したものであった。

研究者による結果の解釈について

研究者らは、訓練を受けた探知犬は尿に含まれる前立腺がんに特異的な化学物質を高い精度で検出することが可能であると結論した。

結論

今回の研究により、高度な訓練を受けた検知犬は、前立腺がん患者群と対照群の尿検体を嗅ぎ分けられることが明らかになった。本研究の特徴は、厳しい訓練と検体数が多いことである。

試験に使用された尿検体はいずれも、前立腺がんに罹患しているか否かがすでに判明しているものであり、訓練に使用された検体も含まれていた。試験結果を確認するために、全く新たな尿検体を用いて同様の試験を実施することが望まれる。

試験結果が確認された場合、次の段階は前立腺がんに罹患しているか否かが未だ不明であるがん患者を正確に検知することが可能であるか試験することである。例として、PSA値は高いが、がんの発現をモニタリングするための生検が陰性であった男性の尿検体の評価にイヌを利用することが可能である。

研究者らは、未だ検出されていない前立腺がん男性が対照群に少数いても、完全に除外することは不可能であろうと述べた。しかしながら、対照群の男性は若年であり、前立腺がんの家族歴がなく、直腸指診でも前立腺肥大が認められず、PSA値も低いため、そのリスクは低い。

イヌが前立腺がん検出に広く標準的手法として使用される可能性は低いとみられる。しかしながら、イヌが尿中で感知している物質を正確に特定できれば、研究者らはその物質を検知する方法を開発することが可能となる。

翻訳担当者 萬田 美佐

監修 辻村 信一 (獣医学/農学博士、メディカルライター)監修 

原文を見る

原文掲載日 

【免責事項】
当サイトの記事は情報提供を目的として掲載しています。
翻訳内容や治療を特定の人に推奨または保証するものではありません。
ボランティア翻訳ならびに自動翻訳による誤訳により発生した結果について一切責任はとれません。
ご自身の疾患に適用されるかどうかは必ず主治医にご相談ください。

前立腺がんに関連する記事

前立腺がんにおけるテストステロンの逆説的効果を解明する研究結果の画像

前立腺がんにおけるテストステロンの逆説的効果を解明する研究結果

デューク大学医学部デューク大学医療センター最近、前立腺がんの治療において矛盾した事実が明らかになった: テストステロンの産生を阻害することで、病気の初期段階では腫瘍の成長が止まり、一方...
一部の生化学的再発前立腺がんに、精密医薬品オラパリブがホルモン療法なしで有効な可能性の画像

一部の生化学的再発前立腺がんに、精密医薬品オラパリブがホルモン療法なしで有効な可能性

ジョンズホプキンス大学抗がん剤オラパリブ(販売名:リムパーザ)は、BRCA2などの遺伝子に変異を有する患者に対し、男性ホルモン療法を併用せずに、生化学的再発をきたした前立腺がんの治療に...
転移性前立腺がん試験、アンドロゲン受容体経路阻害薬の変更よりも放射性リガンド療法を支持の画像

転移性前立腺がん試験、アンドロゲン受容体経路阻害薬の変更よりも放射性リガンド療法を支持

第3相PSMAforeの追跡研究研究概要表題タキサン未投与の転移性去勢抵抗性前立腺がん患者における[177Lu]Lu-PSMA-617の有効性とARPI変更との比較:ラ...
転移性前立腺がんに生物学的製剤SV-102とデバイスの併用免疫療法SYNC-Tは有望の画像

転移性前立腺がんに生物学的製剤SV-102とデバイスの併用免疫療法SYNC-Tは有望

低温プローブを用いる治験的治療では、前立腺がん細胞の一部を死滅させ、腫瘍特異的ネオアンチゲン(※がん細胞特有の遺伝子変異などによって新たに生じた抗原)を放出させ免疫反応を促進する。...