タラゾパリブ+エンザルタミド併用は前立腺がんの生存を改善

ASCOの見解

「TALAPRO-2試験では、タラゾパリブ(販売名:タルゼンナ)+エンザルタミド(販売名:イクスタンジ)併用療法を受けた転移性去勢抵抗性前立腺がん(mCRPC)の男性において、相同組換え修復(HRR)遺伝子変異の有無に関係なく全生存期間(OS)の有意な改善が示された。このサブ解析では、HRR欠損がない(非欠損)男性、HRRステータス不明がんにおいては、臨床的有用性はわずかであった。トーマス・ジェファーソン大学病院のWilliam Kevin Kelly医師は、「HRR遺伝子変異がないか、HRRステータス不明なmCRPC患者の治療においては、タラゾパリブ+エンザルタミド併用療法のリスクと有用性を慎重に検討すべきです」と述べた。

試験要旨

目的相同組換え修復(HRR)の遺伝子変異の有無を含めた転移性去勢抵抗性前立腺がん(mCRPC)
対象者転移性去勢抵抗性前立腺がん(mCRPC)患者を2つのグループに分けた:
グループ1は、21%がHRR遺伝子変異を有するmCRPC患者で構成された805人。
グループ2は、399人全員がHRR遺伝子変異を有するmCRPC患者で構成された。
主な結果HRR遺伝子変異の有無に関係なく、mCRPC患者においては、タラゾパリブ+エンザルタミド併用療法は、エンザルタミド単独療法と比較して患者の生存期間を延長させるが、その効果はHRR遺伝子変異を有する患者でより顕著である。
意義• 前立腺がんは、世界で2番目に多く診断されるがんであり、男性のがん死因の第2位である。
• mCRPCは治療が難しく、本診断を受けた人の全生存期間(OS)の中央値は3年未満である。
• mCRPC患者の約4人に1人がHRR遺伝子変異を有している。HRR遺伝子変異を有する患者に対しては、ポリ(ADP-リボース)ポリメラーゼ(PARP)阻害剤による治療が有効であることが認められている。
• 現在、アンドロゲン受容体経路阻害剤(ARPI)であるエンザルタミドが、mCRPCに対する標準的なファーストライン治療である。第3相TALAPRO-2試験において研究者らは、PARP阻害剤であるタラゾパリブとエンザルタミド併用により、HRR遺伝子変異の有無に関係なくmCRPC患者のOSを改善するかどうかを検討した。この併用療法は現在、米国ではHRR遺伝子変異を有するmCRPC患者に対して承認されている。

HRR遺伝子変異の有無に関わらず、タラゾパリブ+エンザルタミド併用療法を受けた転移性去勢抵抗性前立腺がん患者は、エンザルタミド単独療法を受けた患者と比較して生存期間がより延長する可能性がある。しかし、HRR遺伝子変異を有する患者は、有しない患者に比べてより大きな有益性を受ける可能性がある。本試験は、2月13日から15日までカリフォルニア州サンフランシスコで開催される2025年米国臨床腫瘍学会(ASCO)泌尿生殖器がんシンポジウムで発表される。

試験について

本試験には、症状がないか軽度の症状があるmCRPCであり、去勢抵抗性疾患に対する治療歴がない患者を組み入れた。試験は2つのコホート(群)に分けられた。コホート1では、HRR遺伝子変異の有無に関係なく、タラゾパリブ+エンザルタミド投与群(402人)とプラセボ+エンザルタミド投与群(403人)にランダムに割付けた。つまり、HRR遺伝子変異を有する患者も有しない患者も参加した。コホート2では、HRR遺伝子変異を有する患者のみが参加した。399人の患者のうち200人をタラゾパリブ+エンザルタミド投与群に、199人をプラセボ+エンザルタミド投与群にランダムに割付けた。

主な知見

コホート1:
• タラゾパリブ+エンザルタミド群のOSの中央値は45.8カ月であった。プラセボ+エンザルタミド群のOSの中央値は37カ月であった。

• 追跡期間の中央値である52.5カ月後、タラゾパリブ+エンザルタミド群では患者211人が、プラセボ+エンザルタミド群では患者243人が死亡した。タラゾパリブ+エンザルタミド群の患者は、プラセボ+エンザルタミド群の患者より死亡リスクが20%低かった。

• タラゾパリブ+エンザルタミド群の患者は、がんが安定しているか退縮している期間である、無増悪生存期間(PFS)も改善した。タラゾパリブ+エンザルタミド群のPFSの中央値は33.1カ月であった。プラセボ+エンザルタミド群のPFSの中央値は19.5カ月であった。

• 研究者らは、コホート1で本併用療法の有益性を理解するため、患者のサブグループも検討した。
全患者のうち、
  o 169人が特定なHRR変異タイプを有するHRR欠損がん患者だった。これらの患者がタラゾパリブ+エンザルタミド併用療法を受けた場合、死亡リスクは45%低下した。
  o 残りの、HRR欠損がないか、HRRステータス不明の患者636人は、タラゾパリブ+エンザルタミド併用療法を受けた場合、死亡リスクが12%低下した。

• 本コホートでは、循環腫瘍DNA(ctDNA)と組織サンプルの両方から結果が得られた患者もいた。研究者らは、このうち2つのサブグループについて検討した。
  o BRCA1/BRCA2遺伝子変異を有しない439人のがん患者が含まれており、これらの患者がタラゾパリブ+エンザルタミド併用療法を受けた場合、死亡リスクは25%低下した。
  o (腫瘍組織とctDNA検査の両方で厳密に検査された)HRR変異を有しない314人のがん患者がタラゾパリブ+エンザルタミド併用療法を受けた場合、死亡リスクは22%低下し、OSは9カ月改善した。

コホート2:
• タラゾパリブ+エンザルタミド群の患者のOSの中央値は45.1カ月であったのに対し、プラセボ+エンザルタミド群の患者のOSの中央値は31.1カ月であった。

• タラゾパリブ+エンザルタミド群の患者は、プラセボ+エンザルタミド群の患者より死亡リスクが38%低かった。

• PFSの中央値は、タラゾパリブ+エンザルタミド群で30.7カ月、プラセボ+エンザルタミド群で12.3カ月であった。

• 合計26人の患者(13%)が副作用のためタラゾパリブによる治療を中止した。

筆頭著者であるNeeraj Agarwal医学博士(FASCO、ユタ州ソルトレイクシティHuntsman Cancer Institute)は、次のように語った。「TALAPRO-2は、HRR遺伝子変異の有無に関わらずmCRPC患者において、PARP阻害薬+アンドロゲン受容体経路阻害薬(ARPI)の併用療法を標準治療のアンドロゲン受容体経路阻害薬(ARPI)であるエンザルタミドと比較すると、臨床的に意味のある統計学的有意な全生存期間の改善を示した初めての試験です。本結果は、これまでに実施されたmCRPCを対象としたランダム化比較第3相試験において、OSの中央値は最長で最大に改善されたことを示しています」。

最も多くみられた重篤な副作用は、貧血と好中球減少症であり、副作用のため86人(22%)がタラゾパリブによる治療を中止した。

次のステップ

研究者らは、タラゾパリブ+エンザルタミド併用療法が、ドセタキセル(販売名:タキソテール)、化学療法薬、さらにアンドロゲン受容体経路阻害薬(ARPI)による前治療歴のある転移性去勢抵抗性前立腺がん(mCRPC)患者にどのように作用するかを引き続き研究する予定である。また、転移性去勢感受性の前立腺がん患者を対象に本併用療法を研究している。

試験開示情報については、原文を参照のこと。

  • 監訳 榎本 裕(泌尿器科/三井記念病院)
  • 記事担当者 平 千鶴
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  • 原文掲載日 2025/02/13

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