一部の生化学的再発前立腺がんに、精密医薬品オラパリブがホルモン療法なしで有効な可能性

ジョンズホプキンス大学

抗がん剤オラパリブ(販売名:リムパーザ)は、BRCA2などの遺伝子に変異を有する患者に対し、男性ホルモン療法を併用せずに、生化学的再発をきたした前立腺がんの治療に有効である可能性がジョンズホプキンスのシドニーキンメルがんセンターと他の3施設で患者51人を対象として実施された第2相臨床試験の結果から示された。

この研究は、前立腺の外科的切除後に、前立腺特異抗原(PSA)というタンパク質の高値によって測定される、がん再発の徴候を経験した男性を対象に行われた。オラパリブによる治療後、BRCA2遺伝子変異を有する11人全員を含む13人の参加者のPSA値が少なくとも50%減少し、がんが退縮している徴候が見られた。

この研究報告は8月22日にJAMA Oncology誌に掲載された。他の参加施設は、ネブラスカ大学メディカルセンター(オマハ)、Allegheny Health Network Cancer Institute(ピッツバーグ)、トーマス・ジェファーソン大学病院(フィラデルフィア)であった。

限局性前立腺がん男性のほとんどは手術または一次放射線療法で治癒するが、PSA値が上昇し再発と診断される男性は最大40%に及ぶと、本研究の筆頭著者であるCathy Handy Marshall医師・公衆衛生学修士(ジョンズ・ホプキンス大学腫瘍学助教)は説明する。本研究は、Emmanuel Antonarakis医師(元キンメルがんセンターの前立腺がん専門家、現在はミネソタ大学メイソニックがんセンターのトランスレーショナルリサーチ部門副所長)が共同で主導した。彼は現在、ジョンズ・ホプキンス大学の非常勤教授を務めている。

再発前立腺がんの一般的な治療法は、アンドロゲン除去療法(テストステロンの産生を止める薬物療法)である。しかし、テストステロンが不足すると、ほてりや疲労感、体重増加などの副作用が出ることがあるため、この薬の服用を好まない男性も多いとMarshall氏は言う。

「そのような副作用を避けるために、男性ホルモンを抑制しない前立腺がんの治療法を求めて、私たちは数多くの試験を行ってきました」とMarshall氏は語る。

オラパリブは、PARPタンパクが傷ついたDNAを修復する能力を阻害する精密医薬品で、転移性前立腺がんの治療薬として米国食品医薬品局(FDA)からホルモン療法との併用で承認されているが、ホルモン抑制を併用せずに効果があるかどうかは未知数だったとMarshall 氏は言う。

2017年5月から2022年11月までに51人の患者が登録された。参加者はいずれも根治的前立腺全摘除術(前立腺、精嚢および近傍のリンパ節を切除する手術)後に前立腺がんの生化学的再発をきたした患者であった。参加者のうち、27人(53%)がバイオマーカー陽性とされた。これは、がんがオラパリブに感受性を示す可能性が高いいくつかの遺伝子に変異があることを意味する。患者の平均年齢は約64歳、ベースライン時のPSA中央値は2.8 ng/mLであった。ほとんどの参加者はグリーソングレードグループ3以上であり、高悪性度がんであった。参加者の約86%が手術後に放射線療法を受けていた。バイオマーカーが陽性であった患者では、BRCA2遺伝子の変化が最も多く(11人)、次いでATM遺伝子とCHEK2遺伝子の変化であった(各6人)。

参加者は、ベースラインのPSA値から2倍になるか、画像診断やその他の徴候や症状によってがんが悪化するか、薬物療法による許容できない副作用や毒性が現れるまで、オラパリブ300 mgを1日2回経口投与された(ホルモン抑制はなし)。参加者の治療期間はさまざまで、2年以上に及ぶケースもあったとMarshall氏は言う。

バイオマーカー陽性群の約半数(27人中13人)はPSA値が50%以上低下し、その中にはBRCA2遺伝子変異を有する11人の患者全員が含まれていた。奏効期間の中央値は25カ月であった。他の2例のPSA反応はCHEK2遺伝子変異とATM遺伝子変異を有する患者で認められた。バイオマーカー陰性群の男性24人にはPSA反応がみられなかったことから、研究者らはこれらの患者には今後この治療を考慮すべきではないと結論づけた。

PSA無増悪生存期間(PSAが悪化するまでの期間)の中央値は、全体で19.3カ月、バイオマーカー陽性群では22.1カ月であったのに対し、バイオマーカー陰性群では12.8カ月であった。無転移生存期間(治療から転移が検出されるまでの期間)の中央値は全体で32.9カ月であり、バイオマーカー陽性群では41.9カ月であったのに対し、バイオマーカー陰性群では16.9カ月であった。

また、次の抗がん剤治療までの期間中央値は全体で15.4カ月であり、 バイオマーカー陽性群では22.7カ月、バイオマーカー陰性群ではわずか2.4カ月であった。

オラパリブで最も多くみられた有害事象は、疲労、吐き気、白血球減少(感染と闘う白血球が正常より少ない)であった。

「これは画期的な研究です。なぜなら、BRCA2変異を有する再発前立腺がん患者(この疾患で最も悪性度の高いタイプの1つ)において、非ホルモン薬が持続的完全寛解をもたらすことを示した最初の試験だからです」とAntonarakis氏は言う。「これは真のパラダイムシフトです。なぜなら、ホルモン欠乏によって引き起こされる副作用を回避しながら、安全で効果的な非ホルモン薬による精密療法をこれらの患者に提供できるようになったからです」。

共著者および他詳細は原文を参照のこと。

  • 監訳 榎本裕 (泌尿器科/三井記念病院)
  • 翻訳担当者 青山真佐枝
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  • 原文掲載日 2024/08/22

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