早期前立腺癌患者において根治的前立腺全摘除術は待機療法より長期生存率が高い
キャンサーコンサルタンツ
早期前立腺癌患者において、根治的前立腺全摘除術の方が、症状が出現するまで治療を行わない待機療法よりも長期生存率を高く維持するというスウェーデンの研究者による研究報告がNew England Journal of Medicine(NEJM)誌に掲載された。スカンジナビア前立腺癌グループ研究4(SPCG-4)の追跡調査研究によると、根治的前立腺全摘除術を施行した患者において全死亡、前立腺癌死亡および転移リスク低下のほかアンドロゲン除去療法の必要性の低下が確認された。
前立腺癌は、皮膚癌に次いで男性に最もよくみられる癌であり、毎年290,000人以上が前立腺癌と診断され、29,000人が死亡している。前立腺癌は一般的に加齢に伴って発症する疾患であるため、早期癌の治療については意見が分かれる。前立腺癌は症状がみられず何年も発見されないままでいることもある。
根治的前立腺全摘除術は前立腺全体を摘出する外科的処置である。一方、待機療法は、3カ月から6カ月に1回のPSA血液検査および必要に応じて実施する生検によって進行が遅い癌を監視するものである。
1989年に開始されたSPCG-4試験では、男性を根治的前立腺全摘除術群、待機療法群に無作為に割り付けた。試験の主要評価項目はすべての原因による死亡、前立腺癌による死亡および転移リスクであった。
追跡期間中央値13.4年経過後、すべての原因による累積死亡率は根治的前立腺全摘除術群で56.1%、待機療法群で68.9%であった。前立腺癌による死亡率は根治的前立腺全摘除術群が17.7%、 待機療法群が28.7%であった。前立腺全摘除術群は遠隔転移の発生リスクの絶対的減少率が12.2%であった。
さらに解析した結果、根治的前立腺全摘除術群ではアンドロゲン除去療法のほか放射線療法、化学療法、椎弓切除術などの姑息的療法が必要になる頻度が低かった。
試験のサブグループ解析では、65歳未満の男性のうち根治的前立腺全摘除術群の全死亡リスクは待機療法群の半分であったことが研究者によって確認された。低リスク患者および中等度リスク患者においては、根治的前立腺全摘除術群の全死亡の相対リスクはそれぞれ57%、71%であった。
65歳未満では前立腺癌による死亡でも、前立腺全摘除術群に同様のリスク低下がみられた(相対リスク45%)。
さらに、研究者は時間が経過するほど治療の有益性が増大することを発見した。前立腺癌による死亡率をみると、前立腺全摘除術群の方が低値を示し、両群の差は年とともに広がっている。5〜10年間の経過観察では死亡率の差は9.6人/1,000人/年、15〜20年間では24.5人/1,000人/年であった。18年の経過観察では、姑息的治療の適用が待機療法群で上昇していた(前立腺全摘除術群が40%に対し待機療法群が60%)。
根治的前立腺全摘除術を受けた患者の死亡率が有意に低下することは過去に観察されていたが、研究者らは今回の23年間の経過観察により、それが確証されたと結論づけた。また、待機療法群の長期生存者の大半が姑息的治療をいっさい必要としなかったことから、適切に選定した患者にとっては監視療法が根治的前立腺全摘除術に替わる実行可能な治療法であることも指摘した。
参考文献:
1. Bill-Axelson A, Holmberg L, Garmo H, et al: Radical prostatectomy or watchful waiting in early prostate cancer. N Engl J Med 370:932-942, 2014.
*監修 者注:前立腺全摘除術と待機療法の成績を前向きに比較した研究としては、2012年に発表されたPIVOT試験があり、10年間の経過観察で全死亡・前立腺癌死亡ともに有意差がなかった。PIVOT試験はPSAスクリーニング導入後に開始された試験であるのに対し、SPCG-4はPSAスクリーニング導入前に開始された試験である。その結果、SPCG-4ではPSA高値のみで発見された癌(T1c)が12%しか含まれておらず(PIVOTでは50%)、現在の臨床現場で発見される前立腺癌とは患者層が異なる。また、PIVOT、SPCG-4とも、待機療法群は症状が出現するまで治療介入を行っておらず、近年低リスク前立腺癌に適用されている監視療法(PSA測定は再生検を含む厳密なモニタリングによって、癌の進行を認めた時点で根治治療を行う)とは全く異なる戦略であることにも注意すべきである。
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