転移性前立腺がんに生物学的製剤SV-102とデバイスの併用免疫療法SYNC-Tは有望

低温プローブを用いる治験的治療では、前立腺がん細胞の一部を死滅させ、腫瘍特異的ネオアンチゲン(※がん細胞特有の遺伝子変異などによって新たに生じた抗原)を放出させ免疫反応を促進する。

腫瘍部位におけるデバイスが誘導するワクチンと、複数の分子を標的とした生物学的製剤の腫瘍内注入とを組み合わせた治験治療であるSYNC-Tは、転移性去勢抵抗性前立腺がん(mCRPC)患者に多くの臨床効果をもたらした。この結果は、4月5日から10日まで開催された米国癌学会(AACR)2024年年次総会で報告された。

mCRPC(ホルモン療法に反応しない前立腺がん)患者は、治療の選択肢がほとんどなく、死亡率が高いとCharles Link氏は言う。同氏はMain Line Health社傘下のLankenau Institute for Medical Researchの非常勤教授であり、Syncromune社の共同設立者兼会長である。前立腺がんは免疫学的に「冷たい」腫瘍微小環境を持っている。このため、既存の免疫療法は前立腺がん患者では奏効率が低く、毒性が高いという課題がある。

Link医師らは、mCRPCに対して全身的な抗腫瘍免疫反応を刺激する新たな治療法を開発した。SYNC-Tと呼ばれるこの治療法は、まず、腫瘍の原発巣または転移部位に直接挿入するプローブを用いて腫瘍の一部を凍結させ、腫瘍細胞の破砕(腫瘍溶解)を引き起こし、免疫刺激性のネオアンチゲンを放出させる。要するに、この方法は、免疫系を活性化させる個別化in situネオアンチゲンがんワクチンを生成するのであるとLink氏は説明する。

プローブを前立腺に挿入する際の画像診断と処置の方法は、泌尿器科医が前立腺生検を行うために日常的に使用している方法と同様であるとLink氏は言う。腫瘍溶解ステップの直後に、複数の分子を標的とする生物学的治験薬SV-102(抗PD-1抗体、抗CTLA4抗体、CD40アゴニスト、TLR9アゴニストを固定した用量で組み合わせた薬剤)を腫瘍の溶解領域に注入する。

「SV-102は、同時に2つの異なる免疫抑制機構を阻害し、2つの異なる免疫増強機構を活性化することで、ワクチンによって誘導されたT細胞が活性化され、全身的な抗腫瘍免疫反応を生じさせます」とLink氏は言う。

SYNC-Tの安全性と有効性は第1相臨床試験で評価され、試験には患者15人(mCRPC患者12人、ホルモン療法を選択しなかった転移性前立腺がん患者3人)が登録された。そのうち13人の奏効が評価された。患者の60%が白人、33%がヒスパニック、7%が黒人であった。年齢中央値は61歳であった。

評価可能な患者13人のうち、11人で客観的奏効(完全奏効5人、部分奏効6人)が認められた。 残りの2人の評価可能患者ではデータ解析時に病勢安定が認められた。6人の患者が、発熱、硬直、疲労、発汗、血尿、尿路感染、急性尿閉、肝酵素上昇など、軽度から中等度の治療関連有害事象を経験した。

「SYNC-Tの毒性は、これまで前立腺がんへの静脈内免疫療法で観察された毒性よりもはるかに低いようです」とLink氏は指摘した。

「今回の結果は、SYNC-Tがこの最初の患者群において重篤な毒性を伴わない高い奏効率に関連していることを示しており、これによって、mCRPCにおける免疫療法の役割を展開する機会が開かれます。「さらに、この方法は、泌尿器科医や放射線科医が既に採用している標準的な手技を用いるものであり、この治療法は、治療医に速やかに採用される可能性があると言えます」。

この研究の限界は、サンプル数が少ないこと、追跡期間が短いこと、単一群設計であることなどである。

この研究は、SYNC-Tの開発元であるSyncromune社の支援を受けた。Link氏はSyncromune社の共同設立者であり、会長である。

  • 監訳 榎本 裕(泌尿器科/三井記念病院)
  • 翻訳担当者 山田登志子
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  • 原文掲載日 2024/04/07

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