2011/05/17号◆癌研究ハイライト

同号原文

NCI Cancer Bulletin2011年5月17日号(Volume 8 / Number 10)

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癌研究ハイライト

・メディケア(米公的保険)受給者は大腸内視鏡検査を必要以上に受けていることが明らかに
・前立腺癌に対する外科手術vs.待機療法についての新たな研究データ
・マンモグラフィ定期検診で、次の検診との間に見つかる乳癌は悪性度が高い
・患者が申告する家族の癌既往歴は、往々にして不正確である

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メディケア(米公的保険)受給者は大腸内視鏡検査を必要以上に受けていることが研究で明らかに

メディケア受給者の約4分の1が、大腸内視鏡による大腸癌検診を推奨頻度よりも多く受けていることを示唆する最近の研究結果が発表された。こうした受給者には80歳以上の受給者も多く含まれている。この年齢層にとって、検査に伴うリスク(腸穿孔や感染等)は利益をしばしば上回ることがあるので、高齢者にとって不要かもしれない大腸内視鏡検査が行われているのは、「非常に憂慮すべきこと」だと、本研究の著者たちは述べている。

テキサス大学医学部ガルベストン校のDr. James Goodwin氏らによるこの研究の結果は5月9日付Archives of Internal Medicine誌電子版に掲載された。

これまでの研究は、大腸癌検診の受診が十分でないことを示すものであったが、今回の研究は、ある特定の集団を対象に現行の推奨回数よりも頻繁に大腸内視鏡検査を受けているかどうかについて調べている。癌関連組織や公衆衛生グループは、ほぼ一様に、大腸内視鏡検査で陰性結果が出たあとは、以後10年間、大腸内視鏡による検査を受けないよう勧めている。

本研究では、2000年から2008年までの期間におけるメディケア受給者から無作為にサンプル集団を抽出し、彼らのメディケア請求書や加入申請データを分析した。研究著者らによると、メディケア請求書に大腸内視鏡検査が何回目であるのか正しく入力されていないケースが多く、大腸内視鏡検査を初めて受けたのか、それとも2度目以降だったのかを同定する調整作業も行われた。

2001年から2003年までの間に大腸内視鏡検診を初めて受け、陰性判定が出た2万4,000人以上のメディケア受給者のうち、約46%が以後7年間のあいだに再び大腸内視鏡検査を受けていた。また、このうちの約43%が、「早期に再検査を受けるはっきりとした理由がなく」、つまり、2度目以降の大腸内視鏡検査も検診目的であったことを示唆している、と研究者たちは指摘している。

また、初回の検診で陰性結果が出た80歳以上の3分の1が、7年以内に検診目的だと思われる大腸内視鏡検査を再度受けていた。「大腸内視鏡検査の再受診率が顕著に増加する変曲点が3年目と5年目に見られることから、何か症状が出たからではなく、あらかじめ決められたスケジュールで再検査を受けていた可能性がある」ことが、今回の分析で明らかになった。

多くの理由から、不適切あるいは医学上不要な大腸内視鏡検査を制限することは重要であると、研究者たちは述べている。彼らはまた、不要な大腸内視鏡検査は、患者を不必要なリスクにさらし、余計な費用を負担させるだけでなく、不必要な検査によって「適切なスクリーニングを受けていない人たちが適切な大腸内視鏡検査を受ける機会を増やす」ために使うことが出来るはずの財源を拘束している、と指摘している。

前立腺癌に対する外科手術vs.待機療法についての新たな研究データ

ランダム化臨床試験の長期追跡調査結果によれば、早期前立腺癌と診断された65歳未満の男性に対しては、外科手術が望ましい治療選択肢かもしれない。しかしながら、いくつかの理由により、この調査結果を米国で早期前立腺癌と診断された男性に当てはめるには限界があると一部の研究者が指摘している。

この試験結果はNew England Journal of Medicine誌の5月5日号に発表されたこの臨床試験は、スウェーデン、フィンランド、およびアイスランドで実施され、早期前立腺癌と新たに診断された男性695人を、直ちに前立腺の外科的除去(根治的前立腺摘除術)を受ける群、もしくは、待機療法(今日広く監視療法と呼ばれるものよりも非集中的な従来の方法)を受ける群に無作為に割り当てた。65歳未満の参加者で直ちに外科手術を受けた患者の全生存率ならびに前立腺癌特異的生存率は待機療法群よりも高く、前立腺癌による死亡リスクは、待機療法群の患者のそれより51%低かった。(15年間の追跡調査期間中、65歳未満の参加者のうち、外科手術群の患者28人、待機療法群の患者49人が前立腺癌により死亡した。また、参加者全体では、外科手術群の患者55人、待機療法群の患者81人が前立腺癌により死亡した。)

ウプサラ大学病院のDr. Anna Bill-Axelson氏らは、全参加者では、患者1人の死亡を防ぐために約15人の患者の治療が必要であったと報告したが、一方、65歳未満の参加者では、患者1人の死亡を防ぐために必要な治療患者数は約7人であった。

マサチューセッツ総合病院がんセンターのDr. Matthew R. Smith氏は、この臨床試験は、「早期前立腺癌の患者の多くに効果的な治療が必要であり、また、それが可能であることを示す重要な根拠を提供した」と付随論説で述べている。しかしながらこの知見は、「PSAスクリーニングで発見される低リスクの早期前立腺癌患者には関連性がないと思われる」と注意を促した。「米国では早期前立腺癌の大多数がPSAスクリーニングによって発見されるが、このスウェーデンの臨床試験では、PSAスクリーニングで発見された患者は全体のわずか5%程度であるためである」。

外科手術にせよ、その他の一般的な療法にせよ、前立腺癌の治療は失禁や勃起障害など重篤な副作用をもたらし得るものだ、とNCIでPhysician Data Query (PDQ) の Screening and Prevention 編集委員(Editorial Board)長を務めるDr. Barry Kramer氏は説明する。「PSAスクリーニングは、仮にスクリーニングを受けなかったとしても健康に害を起こすことはないであろう癌を非常に多く検出するため、PSAで発見された癌患者にとっては、直ちに外科手術を受けることの利益・不利益の比は、大きく異なるとみられる」と同氏は続けた。

さらに、この臨床試験で採用された待機療法のプロトコルは、米国で広く採用されている、より集中的な監視療法のプロトコルとは顕著な違いがある。この臨床試験の待機療法群の患者に対しては、前立腺癌の進行を示唆する明確な症状が発現した場合にのみ、治療(経尿道的前立腺切除術)が考慮された。

一方、米国で行われている監視療法プログラムでは、PSA検査と直腸指診を含む検査が年に2回、加えて、年1回かその他の頻度で定期的に前立腺の生検が実施される。こうした検査の結果、前立腺癌の進行を示す徴候が観察された場合には、外科手術や放射線による治療処置がとられることになる。

最近の観察研究によると、PSAスクリーニングで早期前立腺癌と診断された男性のうち、監視療法を選択した患者の前立腺癌特異的生存率は、手術療法を選択した患者のそれとほぼ同等であった。

限局性前立腺癌の患者を対象に外科手術と待機療法を比較するPIVOTと呼ばれる米国の大規模ランダム化臨床試験の結果が年内に発表される見込みである。このPIVOT試験では大多数の参加者がPSA検診により前立腺癌と診断された患者であることから、こちらの臨床試験の結果のほうが現在の米国における状況に適用しやすいはずだ、とKramer氏は述べている。

更新情報
上述のPIVOT臨床試験の研究成果が5月17日にAmerican Urological Association (AUA=米国泌尿器科学会)の年次総会で発表された。追跡調査12年目の時点で、外科手術群と待機療法群の全生存率および前立腺癌特異的生存率は、ほぼ同等であった。

マンモグラフィ定期検診で、次の検診との間に見つかる乳癌は悪性度が高い

定期的なマンモグラフィ検診で、次の検診との間で見つかる乳癌は、中間期癌として知られている。この中間期癌は、マンモグラフィ検診で見つかる乳癌より、悪性度が高く予後が悪いことが多い。これらのハイリスクには、病期がより進行している、悪性度がより高い、腫瘍が大きい、エストロゲン/プロゲステロン受容体が発現していないなどの特徴があると、5月3日付Journal of the National Cancer Institute誌電子版に掲載された。

キャンサーケア・オンタリオのDr. Victoria Kirsh氏らは、この結果は、より高精度な検診方法の必要性と、マンモグラフィ検診と検診の間に女性自身による乳房チェックの必要性を強調していると結論した。

研究者らは、1994~2000年の間に”オンタリオ乳癌検診プログラム”で検診を受けた患者の乳癌の特徴を比較した。この解析には、見逃された中間期癌患者87人、本来の中間期癌患者288人、マンモグラフィ検診により癌が発見された患者450人が含まれていた。見逃された中間期癌とは、マンモグラフィにより検出されていたが、読影の難しさやエラーによって見逃された癌であった。本来の中間期癌とは、最後の検診時、あるいは再検討時においてさえ検出されなかった癌であった。

これらの腫瘍には、明らかな相違点が認められた。検診で見つかった癌と比較して、本来の中間期癌は、腫瘍サイズは直径2cm以上で約4倍、ステージ1に比べステージ3~4が4倍以上、低分化癌(細胞の顔つきが非常に悪い癌)が3倍以上、増殖速度の速い癌(進行が早い癌)が約3倍、エストロゲン/プロゲステロン受容体が陰性である傾向が2倍であった。見逃された中間期癌も検診で見つかった癌と比べて腫瘍サイズが大きく、分化度が低く、リンパ節浸潤の傾向が強かった。

この解析の対象者は、50歳以上の主に白人女性であった。若年者あるいはさまざまな人種の場合でも、同様な結果が得られるかどうかは明らかではない。 共同著者であるDr. Anna Chiarelli氏は電子メールで、「マンモグラフィでは発見できない癌が少数例ある」と説明し、この研究は、「女性は自身の乳房の状態を知っておく必要があり、マンモグラフィ検診と検診の間に乳房に何らかの症状が現れた場合には、主治医の診察を受けるべきである」ということを再認識させる役割を果たすものであると続けた。

患者が申告する家族の癌既往歴は、往々にして不正確である

癌の家族歴をもとに、あるいはある程度の参考にして癌検診や予防方法の提案をする医師にとって、正確な癌の家族歴情報を得ることは重要である。しかし今日に至るまで、これらの既往歴の正確性について、医師は明確な裏づけが得られない。5月11日付Journal of the National Cancer Institute誌電子版に掲載された研究は、一般の人が親族の特定の癌の既往について尋ねられた時の答えは、往々にして不正確であることを示唆している。

NCIの癌疫学・遺伝学部門のDr. Phuong Mai氏らは、もっとも多い4つの癌である、乳癌、大腸癌、肺癌、前立腺癌に関する家族歴報告の信頼性について調査を行った。全般的に、癌の家族歴がないという報告は非常に正確だが、親族間の特定の癌に関する報告の正確性は、低いものから中程度のものまで癌種によって異なることが明らかとなった。正確性が最も高いのは乳癌で、最も低いのは大腸癌であった。さらに、二等親血縁者より一等親血縁者の家族歴の方が概して正確であった。

癌検診や予防の提案は、家族歴を一部分考慮した個人のリスクレベルに基づいて行われるため、正確な家族歴が重要であるとMai氏は記している。不正確な家族歴は不正確なリスク評価を導く可能性があり、その結果、不要な検診を受ける人や反対に必要な検診を受けられない人がでる恐れがある。

最近までNCIの癌制御・人口学部門に所属していたDr. Louise Wideroff氏が始めたこの研究は、2001年以降のConnecticut Family Health Study(コネチカット州の世帯に対する無作為な電話調査)のデータを利用した。この調査は、コネチカット州の1,019世帯が、一等親と二等親血縁者合せて20,578人のさまざまな癌の既往歴を報告したものであった。

次に研究者らは、死亡者の親族や代理人に直接面談をした他に、州の癌登録、メディケアのデータベース、米国死亡指数、死亡診断書、医療施設の記録報告などのデータを用いて親族2,605人の一部を無作為に選択し、報告された症例の確認を行おうと試みた。

Mai氏は、「われわれは、癌であるなしに関わらず家族の既往歴について可能な限り知ることを強く奨励し、これらの貴重な記録の収集と保存を率先して行うつもりである」と語った。「そして、医師は、家族に癌患者がいると患者から報告を受けた場合には、そのことを確かめる必要があるかもしれないことを認識しなければならない」と語った。

しかし診断を確定することは、時間や費用がかかるうえ、難しいこともある。そのような検証は、将来的には、電子医療記録の利用によって容易になるかもしれないとMai氏は記した。

医師は、「適度の懐疑心をもって」患者の家族の既往歴情報を受けとめる必要があると、ダナファーバー癌研究所のDr. Rachel Freedman氏とDr. Judy Garber氏は付随論説に記した。「患者の既往歴は慎重に聞く必要があるが、患者が話していること、なかでも本人や親族のケアに影響を及ぼす可能性がある特定の情報は、より注意深く聞く必要がある」と彼らは結論している。

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村上 智子、野川 恵子 訳
榎本 裕(泌尿器科/東京大学医学部付属病院)、
原野 謙一(乳腺科・腫瘍内科/国立がん研究センター中央病院) 監修 
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