米国国立衛生研究所(NIH)の研究により、免疫細胞の活性化を抑制する遺伝子が同定された
NCIニュース
前立腺腫瘍を用いた新規研究により、FOXO3遺伝子が免疫に関連する細胞の活性を抑制し、増殖する癌に対する免疫応答を低下させることが示された。ワクチンや免疫療法による癌治療の主な問題の一つに、身体の免疫応答を腫瘍がしばしばかわすことが挙げられる。そして腫瘍の持つ策略の一つが、免疫を阻害または抑制する環境を作り出すことである。免疫細胞活性を抑制させる遺伝子を同定することにより、癌細胞に対する免疫応答を高める新たな標的が見いだされる可能性がある。国立衛生研究所 (NIH)の一部門である米国国立癌研究所(NCI)の研究者らによるこの研究は、2011年3月23日にJournal of Clinical Investigation誌のオンライン上で発表され、2011年4月1日に誌上に掲載される。
本研究において単離され、研究されたのは樹状細胞であった。樹状細胞は通常、外来タンパク質(あるいは抗原)を、異物を殺傷するT細胞が認識できるように提示することで、疾患に対する免疫応答を惹起する。しかし腫瘍内に存在する樹状細胞では、多くの場合この免疫応答刺激が抑制されている。
腫瘍内の樹状細胞に関するこの問題を克服するため、NCIの腫瘍免疫・寛容部門の部門長であるArthur A. Hurwitz医学博士と博士研究員のStephanie K. Watkins医学博士は、腫瘍免疫の増強を目的とした一連の研究を行った。その結果、マウスの前立腺腫瘍に、高レベルにFOXO3を発現した樹状細胞集団が存在することが見いだされた。これら樹状細胞はもはやT細胞を活性化させずむしろ免疫応答を弱めており、そのためT細胞は腫瘍細胞抗原に対し免疫寛容状態となり、腫瘍細胞を標的としたり殺傷したりする能力を失い、さらには他のT細胞活性を抑制することまで起こしていた。ある特定の条件下では、この抑制性樹状細胞の消失により腫瘍サイズが縮小した。マウスにおけるこの知見を元に研究者チームはヒトの前立腺癌を検討し、高いレベルのFOXO3を発現した、類似する樹状細胞を見いだした。
過去の研究でHurwitzらは、腫瘍が免疫システムによる認識をどのように逃れるかを同定する研究を行っていた。Hurwitzらの結果では、前立腺癌の同様のマウスモデルにおいて、T細胞が腫瘍の侵入に寛容となり、また他のT細胞活性を抑制する能力を得たことが示された。
この研究で、腫瘍から単離された樹状細胞は、免疫応答を惹起する能力が低いばかりでなく、T細胞の免疫寛容を誘導したり、T細胞を抑制型のT細胞に転換したりすることに関与していることが示された。多数の遺伝子発現を同時に検討できる技術であるマイクロアレイ技術を使用し、腫瘍内に存在する樹状細胞に発現した遺伝子と正常組織の樹状細胞に発現した遺伝子を比較した。腫瘍内に存在する樹状細胞で過剰発現が認められた遺伝子のうち、FOXO3は樹状細胞機能制御に関与する遺伝子であると知られていたため、免疫機能制御を司る魅力的な候補と考えられた。腫瘍内に存在する樹状細胞においてFOXO3遺伝子発現を抑制すると、樹状細胞は免疫抑制機能をもはや持たず、むしろ適切な免疫活性応答を惹起したことが見いだされた。
「私たちの研究から、直接的に、あるいは前立腺癌ワクチンやその他の癌ワクチンを併用するとしても、FOXO3を標的とすれば腫瘍に対する免疫応答を促進したり免疫抑制を予防したりする可能性があることが示唆されます。樹状細胞のFOXO3を標的とする低分子薬剤もしくはペプチドを利用するか、またはすでに存在する樹状細胞ワクチンでFOXO3を抑制すれば達成できるかもしれません。これらは非常に有望な方法です。この知見は自己免疫疾患の治療にも適用できると思います。免疫応答の抑制を目的とした治療が、FOXO3の発現を高めることで成功する可能性があるからです」と、Hurwitz医学博士は述べている。
この研究成果を基に、癌における免疫応答を促進する方法として、また自己免疫疾患において過剰免疫応答を抑制する方法として、FOXO3を標的とする治療の特許出願がHurwitzとWatkins の代わりにNIHによってなされた。特許認可を待つ間に、彼らは腫瘍または腫瘍微小環境がどのようにFOXO3発現をもたらすか、どのようにFOXO3がこの抑制活性を誘導するか、研究を進める予定である。
この研究は、その一部を、Laboratory of Human CarcinogenesisのStefan Ambs医学博士を含む、他のNCI研究者らの共同研究による支援を受けてなされた。
原文の図:炎症細胞に浸潤したヒト前立腺腫瘍(矢印で示す)
原文掲載日
【免責事項】
当サイトの記事は情報提供を目的として掲載しています。
翻訳内容や治療を特定の人に推奨または保証するものではありません。
ボランティア翻訳ならびに自動翻訳による誤訳により発生した結果について一切責任はとれません。
ご自身の疾患に適用されるかどうかは必ず主治医にご相談ください。
前立腺がんに関連する記事
前立腺がんにおけるテストステロンの逆説的効果を解明
2024年11月20日
一部の生化学的再発前立腺がんに、精密医薬品オラパリブがホルモン療法なしで有効な可能性
2024年9月18日
転移性前立腺がん試験、アンドロゲン受容体経路阻害薬の変更よりも放射性リガンド療法を支持
2024年5月17日
転移性前立腺がんに生物学的製剤SV-102とデバイスの併用免疫療法SYNC-Tは有望
2024年4月30日