化学療法とホルモン療法の併用で転移性前立腺癌患者の生存が延長

米国国立がん研究所(NCI)プレスリリース

更新日:2014年6月1日 原文掲載日 :2013年12月05日

転移性前立腺癌患者に対し、ホルモン療法開始時に化学療法を併用することで生存が改善されることがNIH助成の臨床試験により示された。

ホルモン感受性転移性前立腺癌で、標準ホルモン療法開始時に化学療法剤であるドセタキセルを投与された患者は、ホルモン療法のみを受けた患者と比較して1年以上長く生存したという結果が、本日シカゴで開催された米国臨床腫瘍学会(ASCO)年次集会で発表された。米国国立衛生研究所が助成するランダム化比較対照試験の報告で示された(late breaking abstract #2)。

独立データ安全性評価委員会がこの臨床試験を評価し、あらかじめ規定された中間解析の結果全生存率の改善が認められたため、NIHの一部であるNCIに対し、試験結果を公表することを2013年12月に勧告していた。この早期解析の詳細は2013年に発表され、より完全なデータが2014年6月1日、ASCOにて発表された。

E3805として知られる本臨床試験には、2006年7月から2012年11月の間に転移性前立腺癌の男性患者790人が登録した。患者は全員、アンドロゲン除去療法(ADT)として知られるホルモン療法を開始した。この治療法の基幹は、テストステロンの抑制である。テストステロンなどのアンドロゲンは男性の性的特性を調整する一方、前立腺癌細胞を増殖させる。

患者は、ADT単独、またはADTに加え3週間毎の化学療法剤ドセタキセルを18週間にわたって受けた。化学療法の追加により試験登録者の生存が延長したかどうかに加え、治療開始時点での転移巣の広がりとの関連を検討した。患者の約3分の2は転移の範囲が広く、本試験によると癌は肝臓などの主要な器官、4カ所以上の骨病変、もしくはその双方に広がっていた。

ADT 単独療法群と比較して、ADT に化学療法剤ドセタキセルを併用した群では有意な全生存改善が認められた。早期に化学療法とADTを受けた患者で半数が生存した期間が57.6カ月であったのに対し、ADT単独療法では半数が生存した期間は44.0カ月であった。さらに解析を進めた結果、転移範囲が広い患者が生存期間延長の主な要因となっていた(化学療法とホルモン療法併用群では半数が49.2カ月生存したのに対し、AD単独治療群では半数が生存したのは32.2カ月であった)ことが示された。さらに、臨床的に癌が進展するまでの期間の中央値はドセタキセルとADT 併用群では32.7カ月であったのに対し、ADT 単独治療群では19.8カ月であった。ASCOで報告された追跡調査は、2014年1月中旬までのものである。

ドセタキセルは、これまでの臨床試験でテストステロンを抑制しても増殖する前立腺癌における利益が認められ、米国食品医薬品局から進行した前立腺癌の治療を適応とした承認を受けているため、現在市販されている薬剤である。しかし、本試験の責任医師らによると、ドセタキセルは毒性を伴う化学療法剤であるため、ドセタキセルをADTと併用して早期に使用するベネフィット-リスク比から、広範囲に転移が広がった患者に行うことが支持されるのは明らかである。その患者群こそ、本臨床試験の解析で最も利益を受けた群である。E3805試験に参加した中で転移範囲が小さかった患者については、本併用療法の効果を明らかにするためにさらに追跡調査を行う予定である。

「この結果は、日常診療を変えるものです。」本試験を統括した責任医師であるボストン ダナ・ファーバー癌研究所のChristopher Sweeney, M.B.B.S.は述べる。「病期が進行した転移性前立腺癌の患者は、テストステロン抑制治療中に癌が進行するまで待たずに早期にテストステロン抑制治療にドセタキセルを追加することで利益があるという強固なエビデンスがあります。本試験の結果は、現在提供できる医療の改善と、転移性前立腺癌患者の生存をさらに改善するための新規臨床試験デザインの双方において重要です」。

E3805試験は、NCIが支援し、ECOG-ACRINがん研究グループが、SWOG、癌臨床試験のための同盟および NRG Oncology(訳注:いずれも米国のがん研究グループ)と共同でデザインおよび実施した。ドセタキセルの製造業者であるパリSanofi社がドセタキセルを提供し、ECOG-ACRINとの臨床試験契約により本臨床試験を支援した。

「NCIが支援するがん共同研究グループプログラムを介し、大規模な臨床試験担当医師の全米ネットワークにより、多くの患者を迅速に登録することができなかったとしたら、米国でこの試験は実施できなかったでしょう。」とNCIの癌の治療および診断部門長であるJeff Abrams医師は述べる。「さらに、この結果は、承認され使用できる2種の治療の組合せがいかに臨床転帰を改善できるかの一例です」。

米国では 2014年に233,000人を超える男性が前立腺癌と診断され、前立腺癌による死亡者は29,000 人を超えると推測されている。

参考文献: E3805(CHAARTED試験:ChemoHormonal Therapy Versus Androgen Ablation Randomized Trial for Extensive Disease in Prostate Cancer.)
本試験のプロトコールは、 http://clinicaltrials.gov/ct2/show/NCT00309985に掲載のASCO late breaking abstract  No.2で閲覧できます。

原文

翻訳担当者 石岡優子

監修 榎本 裕(泌尿器科/三井記念病院)

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