スタチンが前立腺特異抗原レベルに影響する可能性

キャンサーコンサルタンツ
2008年11月

デューク大学の研究者らは、スタチンによる治療が前立腺特異抗原(PSA)レベルを低下させ、前立腺癌の診断に影響する可能性があると報告した。本研究の詳細は、Journal of the National Cancer Institute誌の2008年11月5日号に掲載された。[1]

コレステロール生成に関与する肝酵素であるHMG CoA還元酵素は、結腸直腸癌細胞株において過剰発現していることが知られている。スタチンはHMG CoA還元酵素を効果的に阻害し、アメリカの多くの成人によって服用されている。前立腺癌予防におけるスタチンの役割は、論議の的となっており、全く効果がないとする研究結果がある一方で、罹患率低下を示すものもある。

しかしながら、スタチンがPSAのレベルに影響すると示した研究の方が一貫性があり、診断面からも興味深い。ヒューストンのベイラー医科大学の研究者らは、スタチン治療は、中央値50歳の健常男性のPSAレベルを低下させると以前報告した(関連記事の最初の項目参照)。本試験は、高脂血症に対しスタチン治療を受けている15人の男性のPSAのレベルを経時的に測定し、脂質が正常でスタチン治療を受けていない85人の男性と比較したものである。ベースラインのPSAレベルは対照群よりもスタチン群のほうが高かった(1.37対1.21)。

試験の期間は9年間で、検査の間隔は平均15ヶ月であった。6回の受診後、スタチン群の平均PSAが0.80、対照群は1.68であった。スタチンの主要な効果は試験期間の最初の2年間に認められた。これらのデータを解析すると、PSAはスタチン群で42%低下、対照群で38%上昇したことになる。1,500人以上の男性を対象にした別の試験がこれらの所見を裏付けている。本試験は、スタチンが健常男性のPSAレベルを有意に低下させ、LDLが最も低下した男性においてはより顕著な低下が認められたとしている。

今回の試験は、1990年から2006年までにスタチン治療を受けた1,214人の男性を対象に実施された。全員がスタチン治療の開始前と開始後にPSA検査を受けた。スタチン治療によって低比重リポ蛋白(LDL)とPSAが比例して低下することが示された。LDL低下の中央値は28%であり、PSA低下の中央値は4%であった。本報告によると、LDLが10%低下するごとにPSAが1.64%低下したことになる。スタチン治療前は2.5以上だった男性のPSAレベルは17%低下した。

著者らは、PSAが高値の男性は、スタチン治療によってPSAのレベルを生検の閾値以下にまで低下させ、前立腺癌の診断に影響する可能性があると結論付けた。これらの著者は、この関係を明らかにするためにはさらに試験が必要だと示唆している。

コメント: これらは興味深い所見であり、PSAのレベルが低くてもスタチン治療を受けている男性は、前立腺の生検の適応となるかもしれない。

参考文献:
[1] Hamilton RJ, Goldberg KC, Platz EA, et al. The influence of statin medications on prostate-specific antigen levels. Journal of the National Cancer Institute. 2008;100:1511-1518.


 c1998- 2008CancerConsultants.comAll Rights Reserved.
These materials may discuss uses and dosages for therapeutic products that have not been approved by the United States Food and Drug Administration. All readers should verify all information and data before administering any drug, therapy or treatment discussed herein. Neither the editors nor the publisher accepts any responsibility for the accuracy of the information or consequences from the use or misuse of the information contained herein.
Cancer Consultants, Inc. and its affiliates have no association with Cancer Info Translation References and the content translated by Cancer Info Translation References has not been reviewed by Cancer Consultants, Inc.
本資料は米国食品医薬品局の承認を受けていない治療製品の使用と投薬について記載されていることがあります。全読者はここで論じられている薬物の投与、治療、処置を実施する前に、すべての情報とデータの確認をしてください。編集者、出版者のいずれも、情報の正確性および、ここにある情報の使用や誤使用による結果に関して一切の責任を負いません。
Cancer Consultants, Inc.およびその関連サイトは、『海外癌医療情報リファレンス』とは無関係であり、『海外癌医療情報リファレンス』によって翻訳された内容はCancer Consultants, Inc.による検閲はなされていません。

翻訳担当者 廣井初美

監修 榎本 裕(泌尿器科)

原文を見る

【免責事項】
当サイトの記事は情報提供を目的として掲載しています。
翻訳内容や治療を特定の人に推奨または保証するものではありません。
ボランティア翻訳ならびに自動翻訳による誤訳により発生した結果について一切責任はとれません。
ご自身の疾患に適用されるかどうかは必ず主治医にご相談ください。

前立腺がんに関連する記事

前立腺がんにおけるテストステロンの逆説的効果を解明する研究結果の画像

前立腺がんにおけるテストステロンの逆説的効果を解明する研究結果

デューク大学医学部デューク大学医療センター最近、前立腺がんの治療において矛盾した事実が明らかになった: テストステロンの産生を阻害することで、病気の初期段階では腫瘍の成長が止まり、一方...
一部の生化学的再発前立腺がんに、精密医薬品オラパリブがホルモン療法なしで有効な可能性の画像

一部の生化学的再発前立腺がんに、精密医薬品オラパリブがホルモン療法なしで有効な可能性

ジョンズホプキンス大学抗がん剤オラパリブ(販売名:リムパーザ)は、BRCA2などの遺伝子に変異を有する患者に対し、男性ホルモン療法を併用せずに、生化学的再発をきたした前立腺がんの治療に...
転移性前立腺がん試験、アンドロゲン受容体経路阻害薬の変更よりも放射性リガンド療法を支持の画像

転移性前立腺がん試験、アンドロゲン受容体経路阻害薬の変更よりも放射性リガンド療法を支持

第3相PSMAforeの追跡研究研究概要表題タキサン未投与の転移性去勢抵抗性前立腺がん患者における[177Lu]Lu-PSMA-617の有効性とARPI変更との比較:ラ...
転移性前立腺がんに生物学的製剤SV-102とデバイスの併用免疫療法SYNC-Tは有望の画像

転移性前立腺がんに生物学的製剤SV-102とデバイスの併用免疫療法SYNC-Tは有望

低温プローブを用いる治験的治療では、前立腺がん細胞の一部を死滅させ、腫瘍特異的ネオアンチゲン(※がん細胞特有の遺伝子変異などによって新たに生じた抗原)を放出させ免疫反応を促進する。...