ポリメラーゼ阻害薬タラゾパリブが転移性前立腺がんの無増悪生存を改善
米国臨床腫瘍学会(ASCO)
ASCOの見解
「早期前立腺がんの発見と治療には大きな進歩がありましたが、新たに診断された転移性ホルモン抵抗性前立腺がんの治療については、過去10年間、新しい治療薬がなかったことが問題でした。しかし、TALAPRO-2試験で良好な結果が得られたことにより、進行した前立腺がんの治療に、間もなく大きな前進が見られそうです」と、ASCOの泌尿器がん専門家でASCOフェローのSumanta Pal医師は語る。
TALAPRO-2と呼ばれる 第3相臨床試験から、転移性去勢抵抗性前立腺がん(mCRPC)患者に対して、ポリメラーゼ阻害薬とアンドロゲン受容体阻害薬の併用療法が、相同組換え修復経路の状態に関係なく、現在の標準治療と比較して無増悪生存期間(PFS)を有意に改善することがわかった。相同組換え修復には、DNAの二本鎖切断やDNA鎖間の架橋を修復する経路が含まれる。
本試験は、2023年2月16日~18日にカリフォルニア州サンフランシスコで開催される2023年米国臨床腫瘍学会(ASCO)泌尿生殖器がんシンポジウムで発表される予定である。
試験の要旨
試験の焦点:ポリメラーゼ阻害薬による転移性ホルモン抵抗性前立腺がん(mCRPC)の治療
試験の種類:第3相国際共同ランダム化比較試験
試験の対象者:米国、カナダ、欧州、南米、アジア太平洋地域など25カ国から参加した36歳から91歳(中央値71歳)の転移性ホルモン抵抗性前立腺がん(mCRPC)の男性805人
試験のプロトコル:一次治療としてのtalazoparib[タラゾパリブ]+エンザルタミド(イクスタンジ)の有効性を判定するために、プラセボ+エンザルタミドと比較して解析
試験結果:
- 前立腺の画像診断に基づく無増悪生存期間(PFS)は、プラセボ+エンザルタミドと比較して、タラゾパリブ+エンザルタミドで37%良好であった。
- 相同組換え修復に異常がある(欠損)患者では、プラセボ+エンザルタミド群よりもタラゾパリブ+エンザルタミド群のほうが、画像診断に基づく無増悪生存期間(PFS)が54%良好であった。相同組換え修復とは、DNAの二本鎖切断やDNA鎖間の架橋の修復を促すDNA修復経路である。
- 相同組換え修復に異常がない(非欠損)または相同組換え修復の状態が不明である患者では、プラセボ+エンザルタミド群よりもタラゾパリブ+エンザルタミド群のほうが、画像に基づくPFSが30%良好であった。腫瘍組織検査に基づく相同組換え修復非欠損腫瘍では、無増悪生存期間(PFS)が34%良好であった。
転移性ホルモン抵抗性前立腺がん(mCRPC)は、内科治療または外科治療によってテストステロン値を低下させたにもかかわらず、前立腺以外の部位に転移が認められた疾患である。前立腺がん患者の約10%~20%が、診断から5~7年以内にmCRCPへと移行する[i]。2023年には、米国で288,300人が新たに前立腺がんと診断され、34,700人が前立腺がんにより死亡すると推定される。多くの患者は限局期または局所がんの段階で診断され、5年相対生存率は100%に近いものの、転移性がんと診断された患者では32%まで低下する[ii]。
ユタ大学ハンツマンがん研究所の医学部教授兼泌尿器腫瘍プログラムの責任者であり、本試験の筆頭筆者でASCOフェローのNeeraj Agarwal医師は、「この併用療法によってがんの進行が遅くなっただけでなく、対照群と比較してPSA(前立腺特異抗原)検査値の上昇と化学療法が必要になる時期も大幅に遅くなりました」と述べ、「進行した前立腺がんには痛み、骨折、苦しみ、そして死を伴う可能性があるので、これは重要なことです。現在の標準的な治療法はほぼ10年前に承認されたものであり、この段階での新規薬剤に対してはまだ大きな満たされていないニーズがあります」
試験について
本試験には2種類の薬剤が使用された。タラゾパリブは、乳がん治療薬として2018年に米国食品医薬品局(FDA)によって承認されたPARP阻害薬(ポリADP-リボースポリメラーゼという酵素の活性を抑える阻害薬)であり、DNA損傷の修復を補助し、それによってがん細胞の増殖を抑え、がん細胞死を増加させる。タラゾパリブは、前立腺がんの治療には、まだFDAの承認を得ていない。エンザルタミドは、アンドロゲン受容体の活性を阻害する。アンドロゲン受容体の活性を阻害しないと、前立腺がんが進行する可能性がある。
この試験でタラゾパリブとエンザルタミドの併用が採用されたのは、過去10年間に、PARPとアンドロゲン受容体の相互作用が進行した前立腺がんの細胞増殖を促す可能性を示唆する前臨床試験のエビデンスが増えてきたためである。タラゾパリブは入手可能なPARP阻害薬の中で最も強力であると考えられており、エンザルタミドはその高い有効性とアンドロゲン受容体を直接阻害することに基づいて選択された。
本試験では、症状が軽度または観察されない転移性前立腺がん患者805人を、タラゾパリブ 1錠0.5 mgを毎日投与する群とプラセボを毎日投与する群に無作為に割り付けた。また、全患者にエンザルタミド1 錠160 mgを毎日投与した。研究者らは、患者の腫瘍組織を調べ、前立腺がんの相同組換え修復の状態を判定した。前立腺がん患者の約20%~25%に、相同組換え修復遺伝子の異常が1つ以上検出される。
主な結果
前立腺の画像診断に基づく無増悪生存期間(PFS)中央値は、タラゾパリブ+エンザルタミド群のほうが、プラセボ+エンザルタミド群よりも37%良好であった。このPFSは、この種の前立腺がんを対象としたこれまでのランダム化比較試験で観察された期間の中でも最長と思われる。解析時点の結果では、重要な副次評価項目である全生存期間に改善傾向が認められたが、データはまだ成熟していない。
相同組換え修復欠損患者では、プラセボ+エンザルタミド群と比較して、タラゾパリブ+エンザルタミド群のほうが、画像診断によるPFSが54%良好であった。相同組換え修復非欠損腫瘍または修復状態が不明な腫瘍では、画像診断に基づくPFSが30%改善し、腫瘍組織検査に基づく分類ではPFSが34%改善した。
懸念される副作用が、タラゾパリブ+エンザルタミド群の71.9%、プラセボ+エンザルタミド群の40.6%に認められた。最も多い副作用は、タラゾパリブ+エンザルタミド群では貧血と特定の血球数低下であり、プラセボ群では高血圧、貧血、倦怠感であった。副作用によりタラゾパリブを中止した患者は19.1%であったのに対し、プラセボ群では12.2%であった。全般的な健康状態やQOLが低下するまでの期間の中央値は、タラゾパリブ+エンザルタミド群のほうがプラセボ+エンザルタミド群よりも有意に長かった(それぞれ30.8カ月、25.0カ月)。
次のステップ
タラゾパリブは、相同組換え修復欠損の転移性去勢感受性の前立腺がん患者を含む別の試験で検討されている。
本試験はファイザー社から資金提供を受け、アステラス製薬からエンザルタミドの提供を受けた。
- 監訳 榎本 裕 (泌尿器科/三井記念病院)
- 翻訳担当者 ギボンズ 京子
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- 原文掲載日 2023年2月16日
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