一部の前立腺がんに定位放射線治療(SBRT)が標準治療の選択肢となる可能性
前立腺がんの放射線治療を受けている男性の一部は、通常最低20回の治療を要するところ、わずか5回の治療に短縮できることが大規模臨床試験結果で示された。
試験参加者の大半の前立腺がんは、治療後に再発するリスクが中程度であった。体幹部定位放射線治療(SBRT)と呼ばれる短縮治療を受けた男性は、4~8週間かけて行われる一般的な放射線療法を受けた男性と比べて、その後5年間のがん再発リスクが高くなかったことが研究で分かった。
この研究結果は10月16日にNew England Journal of Medicine誌に掲載された。
SBRTは、放射線を非常に正確に腫瘍に照射し、正常組織への照射を最小限に抑えるため、1回あたりの放射線量を大幅に高くすることができ、その結果、治療日数が大幅に短縮される。
試験参加者のうち、無作為にSBRTを受ける群に割り付けられた人たちは、標準放射線療法群に割り付けられた人たちと比較して、治療後2年間に何らかの排尿障害を発症するリスクが高かったが、時間の経過とともにこの差はなくなった。また、排尿障害、主に頻尿は薬物療法で十分にコントロールできると、本試験の代表研究者であるNicholas van As医師(英国ロイヤル・マースデン病院)は述べた。
「(これらの副作用は)短期間で治まるもので、ほとんどの男性の場合、副作用はなくなります」と彼は言う。
「今回のデータは、中等度リスク前立腺がんに対する標準治療としてのSBRT使用を支持するものです」と、本試験には関与していないNCIがん研究センター放射線腫瘍医Krishnan Patel医師は述べた。「しかし、それでもまだすべての人に適しているわけではないかもしれません」。
Patel医師の説明によれば、SBRTの対象とならないと思われるのは、前立腺が大きい患者や、すでに重大な排尿障害がある患者などであり、SBRTによってこれらの障害が悪化する可能性がある。さらに、低リスク前立腺がんの男性の多くは、放射線療法や手術ではなく、まず積極的監視療法を選択する可能性がある。
今回の研究結果は、米国で行われてきた前立腺がんに対する放射線療法の転換を支持するものだと、ヴァンダービルト・イングラムがんセンターの放射線腫瘍医Dakim Gaines医師(医学博士)は述べた。同医師は、この臨床試験には関与していない。
これまでの研究結果から、この2種類の治療スケジュールの一方が他方よりがん抑制において劣るということはないと示唆されている。そのため、Gaines医師の病院も含め、医療機関の放射線腫瘍医らは、低リスクおよび中リスクの前立腺がん患者の治療に長年SBRTを使用していると同医師は言う。「治療期間を約5.5週間から約1.5週間に短縮できるのは大変好都合です」。
SBRTも長期治療法も優れたがん抑制効果
ごく最近まで、前立腺がんの放射線療法は週5日、8週間またはそれ以上、合計約40回行われていた。
しかし、過去10年間の研究により、この治療は安全に短縮できることが示されており、20回行う治療の各回で通常よりわずかに線量の高い放射線を使用する戦略(低分割法という)が用いられている。
SBRTを使用することで治療回数をさらに20回から5回まで減らすことは、病院と患者の双方にとって利便性が高まるだけでなく、医療費を大幅に削減できる可能性があると、van As医師は言う。しかし、5日間のSBRT 治療が標準的な放射線治療よりもがん抑制において劣らないこと、また、許容できないほどの副作用を伴わないことを確認する必要があった。
PACE-Bと呼ばれる今回の試験は、主にSBRT機器メーカーのAccuray社がロイヤル・マースデンNHS財団トラストを通じて資金提供し、英国、アイルランド、カナダの病院から874人の参加者が登録された。参加者の約92%は中リスク前立腺がん、8%は低リスク前立腺がんであり、放射線療法に加えてホルモン療法を受けた人はいなかった。参加者の平均年齢は約70歳だった。
試験に参加した男性は、SBRTを受けるか、治療を受けたセンターで使用されている標準的な放射線療法(低分割照射(20セッション)または従来型(39セッション))を受けるかに無作為に割り当てられた。
追跡期間の中央値はわずか6年強であったが、両治療群の男性の約95%ががんの再発なく生存しており、SBRTは従来の放射線療法と比べて劣っていないことが実証された。
腸管障害や性的不全に関しては、両群間で差は認められなかった。治療後5年で、腸管障害を報告した男性は両群とも1%未満であった。米国の病院ではSBRT中に直腸領域へ損傷を引き起こさないように直腸スペーサーと呼ばれる保護器具を使用するため、この数字は米国の男性ではさらに低くなる可能性が高いとGaines医師は説明した。
両群の参加者の約10%が胃腸障害を報告し、約4分の1がある程度の勃起不全を報告した。
5年間の追跡期間中、SBRT群の男性のうち27%、標準放射線療法群の男性のうち18%が排尿障害を報告した。ただし、この差は主に治療直後にみられたものである。SBRT群で多くみられた排尿障害は2年後には解消し、研究終了時に刺激感や排尿切迫感を報告した男性の人数は両群で同様であった。
さらなる研究が進行中、さらなる訓練が必要
NCIの資金提供を受け、現在進行中のNRG GU005と呼ばれる臨床試験では、中リスク前立腺がんに対するSBRTと低分割放射線療法を比較しており、副作用に関する初期結果は来年に出る見込みであるとPatel医師は述べた。
Patel医師は、どちらの試験も高リスク前立腺がんの男性には適用されないと付け加えた。現在進行中のもう1つの試験であるPACE-Cでは、再発リスクが高い男性を対象に、SBRT+ホルモン療法併用と標準低分割照射+ホルモン療法併用を比較しているが、今のところ結果は発表されていない。
未解答のもう1つの疑問は、PACE-B試験で再発リスクが最も低かった男性の一部は治療を延期できた可能性があるかどうかである。
「研究に参加した男性のほとんどは治療が必要であったと思います。しかし、積極的監視療法を受けることができた人もいたでしょう。積極的監視療法は試験開始当時、それほど広く受け入れられていませんでした」とvan As医師は述べた。
今後のもう 1つの課題は、PACE-B試験で実施されたようなSBRTをどこでも受けられるようにすることであろう。van As医師の説明によれば、試験に参加した治療センターの一部ではサイバーナイフ(CyberKnife)装置など、SBRT専用に設計された高度専門放射線機器が使用されていたが、SBRTは現在の放射線治療機器の大半でも実施可能とのことである。
Gaines医師が所属するセンターでは、SBRTを行うために標準的線形加速器 (LINAC) を使用していると、同医師は説明した。「当センターにはサイバーナイフはありませんが、何年もこの方法で [安全に] 治療してきました」と同医師は語った。
しかし、SBRTをより多くの人が受けられるようにするためには、「医師の訓練、物理学者の訓練、放射線科医の訓練が必要になるでしょう」とも言う。
Gaines医師は、米国の病院の中には、このタイプのSBRTを行うための訓練をまだ受けていないところもあるが、その場合でも男性患者は、長い放射線治療スケジュールでは治療の質が劣ると感じるべきではないと述べた。「それは不便かもしれませんが、がん抑制という点では同程度に良好です」と同氏は述べた。
- 監修 山﨑知子(頭頸部・甲状腺・歯科/埼玉医科大学国際医療センター 頭頸部 腫瘍科)
- 記事担当者 山田登志子
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- 原文掲載日 2024/11/21
【この記事は、米国国立がん研究所 (NCI)の了承を得て翻訳を掲載していますが、NCIが翻訳の内容を保証するものではありません。NCI はいかなる翻訳をもサポートしていません。“The National Cancer Institute (NCI) does not endorse this translation and no endorsement by NCI should be inferred.”】
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