スニチニブとソラフェニブ、腎臓がんの術後補助療法としての効果は見られず

米国国立がん研究所(NCI)NCIブログ~がん研究の動向~

スニチニブ(スーテント)およびソラフェニブ(ネクサバール)による術後補助療法は、腎細胞(腎)がん患者の無増悪生存を改善せず、重篤な副作用を引き起こす可能性があることが最近の臨床試験の結果で示された。

このランダム化二重盲検プラセボ対照試験の結果は、The Lancet誌3月8日号に発表された。

未解決問題に対する答え

スニチニブおよびソラフェニブは、どちらも腫瘍血管新生を促進するがん細胞のたんぱく質を標的としている。腫瘍血管新生とは、ある一定の大きさを超える腫瘍へと成長させるのに必要な新たな血管形成のことである。

筆頭著者でペンシルベニア大学AbramsonがんセンターのNaomi Haas医師は、「この2剤は非常に有用で、転移性腎細胞がん患者の疾患管理に非常に役に立ってきました。しかし、限局性疾患のためのアジュバント(術後補助)療法として使用することに利点があるかどうかについては、わかっていませんでした」と述べた。

この問題に対する答えとして、臨床試験医師らは、米国およびカナダ全土226の治療センターから1943人の患者を、スニチニブ、ソラフェニブ、もしくはプラセボを投与する群に54週間にわたって無作為に割り付けた。患者は全員、手術で切除可能であるものの、再発の危険性が高い腎細胞がんを有していた。試験の主要評価項目は無病生存期間とし、無作為化からがん再発、2つ目の原発がんの発現、あらゆる原因での死亡までの期間と定義された。

試験の最初の3年間では、スニチニブ群およびソラフェニブ群で手足症候群や高血圧などの副作用が予想よりも多く発生し、両群のほぼ半数の患者が早期に治療を中止するに至った。

そのため、研究員は試験プロトコルを変更し、両剤の治療開始時の投与量を減量し、治療初期の数サイクルで副作用がないか、軽度の副作用であった場合に全量まで増量することにした。投与量を変更したことで、スニチニブ群で34%、ソラフェニブ群で30%と両群で投与中止率が減少した。

追跡期間中央値の5.8年後、無病生存期間は3群すべてが同等であり、スニチニブ群で70カ月、ソラフェニブ群で73.4カ月、プラセボ群で79.6カ月であった。全生存も群間で違いはなかった。

標的がなければ利点はない?

「本試験の結果は、原発性腎細胞がんを切除した患者の術後補助療法における抗血管新生療法の使用に対して強く反対を主張するものである」と著者は記している。

「スニチニブおよびソラフェニブは、転移性腎細胞がん患者の治療として2000年代半ばに承認された。以来、多くの医師が、疾患の再発予防を期待して術後補助療法として同剤を使用してきた」とHaas医師は述べた。

「これらの結果は、病院で実施されてきたことに待ったをかけることになるだろう」とHaas医師は語った。

術後補助療法で効果がなかったことは、いわゆる微小転移と呼ばれる小さながんの集積が生き残るためには血管新生に依存していない可能性があることを示唆しており、このことは、より大きな転移性腫瘍とは異なっていると著者らは説明している。

「もしこれが正しければ、この試験でみられた高い副作用発生率の説明がつくかもしれない。これらの薬剤は、術後補助療法では攻撃する血管性標的がなかったため毒性が高かった可能性がある。標的以外のものに作用したことで、より多くの副作用が発生したのではないか」とHaas医師は語った。

この概念から、Haas医師のチームは、手術可能な腎細胞がん患者に対する術後補助療法における分子標的薬の使用について、新たな試験デザインを提案した。新たな試験デザインでは、医師は手術前、つまり選択的な標的である腫瘍組織が体内に残存しているときに薬剤を投与することになった(ネオアジュバント療法または術前化学療法と呼ばれる)。この試験デザインを使用した免疫チェックポイント阻害剤、ニボルマブの腎細胞がんに対する試験の計画が、現在進められている。

NCIがん研究センター泌尿器腫瘍科長のMarston Linehan医師は、「術後補助療法でのソラフェニブおよびスニチニブの使用は、腎細胞がん患者の生存にとって利点はないことがこの試験で明確に示された。これらの結果は、患者やその家族だけでなく医師にとっても明瞭で、進行腎がん患者のためのより効果的な治療方法を開発する努力を促すものである」と述べた。

この試験は望まれる結果を示さなかったが、患者ケアにとっては何よりも重要な情報であったと、著者らの意見は一致している。

「この試験では、ソラフェニブおよびスニチニブの術後補助療法における役割は確立されなかったが、プラセボ対照デザインにより、この2剤の不適切な使用によるコストと毒性作用を回避する決定的な答えが提供された」と著者らは結論づけた。

原文

翻訳担当者 白石里香

監修 榎本 裕(泌尿器科/三井記念病院)

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