免疫チェックポイント阻害剤が進行腎臓がん患者の生存期間を延長(CheckMate-025試験)

テキサス州立大学MDアンダーソンがんセンターの研究者らが主導した
CheckMate-025試験が、標準的治療のパラダイムシフトの前兆となる

MD アンダーソンがんセンター

免疫チェックポイント阻害剤が、現時点で治療選択肢が少ない患者集団である進行腎細胞がん患者の生存期間を延長させたことが初めて証明された。テキサス州立大学MDアンダーソンがんセンターの研究者らは、転移性腎がん患者に対する現行の標準的治療薬であるエベロリムス投与患者の全生存期間中央値が19.6カ月である一方、米国食品医薬品局(FDA)が承認した免疫療法薬であるニボルマブの投与患者では25.0カ月であることを示した。

New England Journal of Medicine誌電子版に発表され、第18回欧州がん学会(the European Cancer Congress;ECC)のプレジデンシャル・セッションで26日に発表されたCheckMate-025試験結果から、免疫チェックポイント阻害剤が進行腎細胞がん患者にとって有効な治療薬であり、かつ、標準的治療薬のパラダイムシフトを後押しするという根拠が明確に示されると著者らは述べた。

ニボルマブ(商品名:オプジーボ)は現在、転移性悪性黒色腫や進行非小細胞肺がんの治療薬として使用されている。CheckMate-025試験は、他のがん種に対する効果の可能性を確定させるために研究者らがどのようにして既承認の免疫療法薬を用いて試験を行うか、という実例である。

「免疫療法は腎臓がんに対して有効である可能性があると長い間信じられてきました。しかし現在に至るまで、このような有意な生存期間の延長が示されることはありませんでした。今、私たちには、他の治療法が無効となった患者に対する日常診療を変える現実的な機会が開けました」と試験責任医師であるPadmanee Sharma医学博士(泌尿生殖器内科腫瘍学・免疫学部門教授であり、MDアンダーソンがんセンターによるムーンショットプログラムの一部である免疫療法プラットフォームの科学部門長)は述べた。

「私たちはCheckMate-025試験などの臨床試験を通じて、腫瘍自体を標的にするのではなく、がんに対抗する患者の免疫系を標的とすることを学びつつあります。これは今後、新しい治療手段になります」。

このランダム化第3相臨床試験で、血管新生阻害剤による治療中に進行した腎細胞がん患者は、ニボルマブあるいはエベロリムスによる治療を受けた。全生存期間中央値は、ニボルマブ投与患者(25.0カ月)の方がエベロリムス投与患者(19.6カ月)よりも5.4カ月長かった。

CheckMate-025試験には、北米、ヨーロッパ、オーストラリア、南米、およびアジアにある24カ国の151医療施設から進行腎細胞がん患者821人が登録された。全ての患者は、がん発生における重要な要素である新たな血管の形成を阻害する血管新生阻害剤1~2種類による治療歴があった。治療期間中央値はニボルマブ投与患者で5.5カ月、エベロリムス投与患者で3.7カ月であった。

研究者らは全生存期間の延長を示しただけでなく、ニボルマブの使用による客観的奏効率(治療に反応する患者数)が改善することも示した。登録患者821人中、ニボルマブ群の25%が奏効したのに対し、エベロリムス群で奏効したのは5%であった。これらの患者のうち、部分奏効は、ニボルマブ投与患者の24%とエベロリムス投与患者の5%で認められた。完全奏効は、ニボルマブ投与患者の1%(4人)とエベロリムス投与患者の1%未満(2人)で認められた。

さらに奏効を示した患者で、効果は「持続する」とSharma氏は述べた。無増悪生存期間中央値は両群間で同等であったが(ニボルマブ投与患者で4.6 カ月、エベロリムス投与患者で4.4 カ月)、研究者が6カ月以降の無増悪生存期間(*監修 者注:6カ月時点で病勢進行のなかったサブグループにおける無増悪生存期間。NEJMによると、PFS4.6vs4.4か月で差がないが、その後の生存曲線が両群で離れていく。それを示すために、6カ月時点で病勢進行がなく生存していた患者(Ni群の35%とEv群の31%)でPFSを見るというad hoc解析を実施した)を調べたところ、ニボルマブ投与患者で15.6 カ月、エベロリムス投与患者で11.7カ月であった。ニボルマブで奏効した患者の44%とエベロリムスで奏効した患者の36%で、現在も持続する奏効が認められたニボルマブ群の31%とエベロリムス群の27%で、奏効が12カ月以上持続していた。(*監修 者注:NEJMによると、ニボルマブ群全体では奏効率25%で、奏効した25%の患者のなかで44%が現在も奏効を維持しており、31%が12カ月以上の奏効を維持した、ということ。)

一部の患者ではニボルマブ投与が終了した後でも、ニボルマブへの反応は持続していた。「免疫系には免疫記憶が存在しますので、治療が終了したあとでも、人体は長期にわたる反応を示し続けます。こうした患者は疾患が進行せずに通常の日常生活を送ることができることを意味します」。

最終的に、倦怠感や悪心などの治療関連有害事象はエベロリムスよりも少なく、ニボルマブにより生活の質は改善された。

CheckMate-025試験の早期終了‐FDAが画期的治療薬指定を承認

2015年7月、独立データモニタリング委員会(DMC)が実施した評価から、CheckMate-025試験が主要評価項目を満たし、ニボルマブ投与患者の全生存期間で延長が示されたと結論が下り、CheckMate-025試験は早期終了した。

ニボルマブは、免疫反応を制御し、免疫系によるがん細胞への攻撃を妨害することがあるPD-1というT細胞上の抑制性シグナル伝達を阻害する。ニボルマブは、他の治療法に反応しなかった転移性悪性黒色腫(メラノーマ)や化学療法の実施中または実施後に増悪した進行扁平非小細胞肺がんに対して承認されている。2015年9月16日、FDAはCheckMate-025試験結果に基づき、転移性腎細胞がんの潜在的適応に対してニボルマブの画期的治療薬指定を承認した。画期的治療薬指定は、できる限り早期に患者が新規の治療薬を受けることができるようにするため、重篤な疾患に対する臨床的利益の初期の報告に基づいて治療薬の開発と審査を促進することを目的としている。

「次の課題は、『奏効する患者の数をどのようにして増やすか?』と『どのようにして免疫チェックポイント阻害剤を初期治療に使用できるようにするか、すなわち、他の治療法が奏効しなかったときに使用するだけではなく、早期に使用するか?』ということです」とSharma氏は述べた。「私たちはこうした問題に答えるために併用療法を研究しています。また、こうした臨床試験が多くのがんに対する治療法を変えると確信します」。

文献によると、毎年世界中で338,000人が腎細胞がんと新たに診断される。腎細胞がんは成人で最も頻度が高い腎がんで、患者の約30%で診断時にがんが転移している。多くの分子標的薬が近年、進行腎細胞がんの治療薬として承認されており、その中には血管新生阻害剤5種とmTOR阻害剤2種(エベロリムスを含む;これらの薬剤は、細胞の成長、増殖、および生存などを調節するタンパク質を阻害する)は重要な第3相試験で利益を示している。

「これらの治療薬は腎細胞がん治療に関する展望を変えてきましたが、治療薬に対する耐性が生じると生存期間が短くなります」とSharma氏は述べた。「本研究で示された全生存期間の延長は、二次治療が必要な進行腎細胞がん患者に対する治療戦略の新たな基準を打ち立てます」。

Sharma氏は、MDアンダーソンがんセンター免疫療法プラットフォーム(免疫療法薬の単剤療法や併用療法に関する同センターが実施する臨床試験85件に免疫モニタリング法を提供している)の科学部門長である。プラットフォームの研究者は、どのような患者が免疫療法から利益を得るのかを理解し、有効な併用療法を評価し、そして免疫反応を阻害したり活性化したりする新規分子を特定するための研究を実施している。

同プラットフォームはMDアンダーソンがんセンターによるムーンショットプログラムの一部である。同プログラムは、科学的知見を役立て、かつ、予防、早期発見、および治療を通じてがん死亡を著しく減少させる可能性がある新規技術を開発することを目的としている。

翻訳担当者 渡邊岳

監修 榎本 裕(泌尿器科/三井記念病院)

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