個別化がんワクチンNeoVaxはステージIIIおよびIVの腎臓がんに有望

ダナファーバーがん研究所の研究者らは、ステージIIIまたはIVの淡明細胞型腎細胞がん(腎臓がんの一種)の治療を受けている臨床試験の患者9人全員が、個別化がんワクチン投与開始後に抗がん免疫反応を示したと発表した。ワクチンは腫瘍摘出手術後に投与され、身体の免疫系を訓練して残存する腫瘍細胞を認識し排除するように設計されている。データカットオフの時点(中央値34.7カ月)、患者全員がんを発症していない。

本日、この第1相試験の結果がNature誌に報告された。

共同主任研究者で共同統括著者であるToni Choueiri医師(ダナファーバーがん研究所ランク泌尿生殖器がんセンター長)は、次のように語った。「私たちは、腎臓がん患者9人全員に良好な反応を示したこの結果に非常に興奮しています」。

共同統括著者であり、本臨床試験に用いる個別化がんワクチン作成に用いたNeoVaxワクチン技術を開発したCatherine Wu医師(ダナファーバーの幹細胞移植・細胞治療部門のチーフ、ブロード研究所のメンバー)は、次のように述べた。「本研究は、我々のNeoVaxチーム、マサチューセッツ工科大学(MIT)とハーバード大学のブロード研究所の同僚、そしてダナファーバーのランク泌尿生殖器がんセンターの同僚との緊密なパートナーシップの成果です。これら研究結果の発表に感激しています」。

ダナファーバーがんワクチンセンター長のPatrick Ott医学博士、およびダナファーバーがんワクチンセンター免疫学者のDerin Keskin博士も共同統括著者である。筆頭著者は、元ダナファーバーおよびハーバード大学医学部で現イェール大学がんセンターおよびイェール大学医学部の腫瘍内科医および研究医であるDavid A. Braun医学博士である。

ステージIIIまたはIVの淡明細胞型腎細胞がん患者に対する標準治療は、手術で腫瘍を摘出することである。術後は、免疫チェックポイント阻害薬であるペムブロリズマブによる免疫療法を行うことがある。ペムブロリズマブは免疫反応を誘導し、がんの再発リスクを低減させる。しかし、患者の約3分の2は再発する可能性があり、治療の選択肢は限られている。

Choueiri医師は次のように述べた。「ステージIIIまたはIVの腎臓がん患者は再発リスクが高い。そのリスクを低減させる手段は完全ではないため、私たちはさらなる手段を探求し続けます」。

今回、医師主導治験では、ステージIIIまたはIVの淡明細胞型腎細胞がん患者9人に対し、Choueiri医師とBraun医学博士が術後に個別化がんワクチンを投与した。5人の患者はワクチンとともにイピリムマブも投与された。

投与されたワクチンは、手術中に摘出された腫瘍組織を手がかりに、各患者のがんを認識するように個別化される。研究チームは、腫瘍細胞から正常細胞と区別する分子的特徴を抽出する。これらの特徴はネオアンチゲン(新抗原)と呼ばれ、がんには存在するが体内の他の細胞には存在しない変異タンパク質の小さな断片である。

研究チームは予測アルゴリズムを用い、免疫反応を引き起こす可能性に基づいて、どのネオアンチゲンをワクチンに含めるかを決定する。その後ワクチンは製造され、初回投与と2回のブースター接種を繰り返して患者に投与される。

Braun医学博士は、次のように語った。「本アプローチは、腎臓がんにおけるワクチンの試みとは一線を画しています。私たちは、がんに独特であり身体のいずれの正常部位とも異なっている標的を選択するので、免疫系を極めて特異的な方法でがんに対して効果的に「誘導」することができるのです。さらに、がんのどの特異的標的が免疫の攻撃を最も受けやすいかを学び、このアプローチによって免疫系にがんを認識させて長期間持続する免疫応答が生成可能であることを実証しました。本研究は、腎臓がんにおけるネオアンチゲン・ワクチンの開発の基礎になると信じています」。

ワクチン注射部位の局所反応を経験した患者やインフルエンザのような症状を経験した患者もいたが、重度の副作用は報告されていない。

「このワクチンが標的とするネオアンチゲンは、オンターゲット(本来の標的)の有効性を改善し、オフターゲット(本来の標的とは異なる標的)の免疫毒性を低下させることを目的として、免疫応答をがん細胞に向けて誘導することができます」と、Choueiri医師は語る。

研究チームがこの研究を開始した8年前は、このアプローチが腎臓がんに有効かどうかは明らかではなかった。メラノーマでは効果があることが示されていたが、メラノーマは変異が多く、したがってネオアンチゲンも多くなる可能性がある。

しかし、腎臓がんは変異が少ない疾患であり、ワクチンを製造するうえでその標的も少ない。研究者たちにとって、この初期段階の研究から、ワクチンが腫瘍に対する免疫反応にどのような影響を及ぼすかについて、できる限り多くのことを学ぶことが重要であった。

一連の解析により、ワクチンが3週間以内に免疫応答を誘導すること、ワクチン誘導T細胞の数が平均166倍増殖すること、これらのT細胞が最大3年間、高レベルで体内に留まることを研究チームは発見した。さらにin vitro研究では、ワクチンによって誘導されたT細胞は患者自身の腫瘍細胞に対して活性を示した。

Ott医学博士は次のように述べた。「ワクチンに関連した新しいT細胞クローンが迅速、実質的、かつ持続的に増殖することが観察されました。これらの結果は、変異負荷の低い腫瘍には免疫原性が高い個別化ネオアンチゲン・ワクチンを作成する実行可能性を支持するものであり、勇気づけられるものです。しかし、このアプローチの臨床的有効性を完全に理解するためには、より大規模な研究が必要となります」。

ワクチンの有効性を確認し、その可能性を最大限に追求するためには、より多くの患者を対象とした臨床試験が必要である。現在進行中の国際多施設無作為化試験(NCT06307431)では、同様のネオアンチゲンを標的とした個別化がんワクチンを免疫療法のペムブロリズマブと併用投与する。Choueiri医師は、その科学諮問委員会の共同議長を務めている。

  • 監訳 榎本 裕(泌尿器科/三井記念病院)
  • 記事担当者 平 千鶴
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  • 原文掲載日 2025/02/5

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