OncoLog 2014年10月号◆局所進行腎癌に分子標的薬による術前化学療法はさまざまな面で有益な可能性

MDアンダーソン OncoLog 2014年10月号(Volume 59 / Number 10)

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局所進行腎癌に分子標的薬による術前化学療法がさまざまな面で有効な可能性

腎摘除術という決定的な治療法にも関わらず、局所進行腎癌患者の20~30%が再発し、長期生存の大きな妨げとなっている。再発を防ぎ、生存期間を延長させるため、泌尿器科の癌専門医らは分子標的療法を外科的治療に組み入れようとする研究を進めている。

転移性患者の生存期間は長くなっている

局所進行腎癌に対する新たな治療法は、転移癌を治療する上で得られた知見が基になっている。

従来の細胞障害性化学療法は腎癌には効果がないため、局所進行腎癌に対して推奨される治療は通常腎摘除術である。しかし転移性の腎癌の場合、外科手術はごく少数の選ばれた患者にしか適用されない。転移がみられた患者の大半は、標的療法が登場するほんの数年前まで選択肢がほとんどなかった。

標的療法では、腫瘍の血管新生を刺激したり、別の方法で腫瘍の増殖を促進したりする血管内皮成長因子受容体やチロシンキナーゼなどのタンパク質を阻害することで癌と戦う。

テキサス大学MDアンダーソンがんセンター泌尿器学科教授Christopher Wood医師はこう述べる。「分子標的薬が腎癌に使用されるようになって以来、転移が認められる多くの腎癌患者の生存期間は予想をはるかに上回り、全生存期間は2倍以上となりました。以前であれば生存期間の中央値は1年未満とされていたところ、今では何年も生存している人もいます」。

局所進行癌に対する標的療法

転移性腎癌患者に対する標的療法の結果が有望であったため、泌尿器科の癌専門医らは分子標的薬が非転移性癌患者の生存期間延長に対しても効果をあげるのではと考えた。非転移性の患者にとって、腎部分切除術または根治的腎摘出術という形での外科的切除は治癒の可能性をもたらすものであるが、手術後に再発し、生存期間が大幅に短縮してしまうこともある。

非転移性腎癌に対する分子標的薬の初期の試験では、術後補助療法(すなわち、摘出後)という形で、再発リスクの減少を目的としてその有効性を検討した。これらの試験の最終的な結論はまだ報告されていないが、試験を実施した研究者らは一つの合意に達している。すなわち、分子標的薬は手術後の投与に耐えうるものではないということである。特に長期投与の場合にはなおさらである。

Wood医師は言う。「患者の大半は、手術からの回復期での毒性作用に耐えられず、低用量へと変更するか、完全に薬を止めるかのいずれかとならざるを得なかったのです。それを免れた患者であっても、20~30%しかない再発リスクのために薬の毒性作用に耐え忍ぶことを快くは思っていませんでした」。

研究者らはこうした知見から、腫瘍が切除可能と考えられる患者を対象に術前化学療法(すなわち、手術前)という形で分子標的薬を試験することとなった。

こうした患者に対する術前化学療法には、いくつかの利点がある。まず微小転移の除去が挙げられる。これにより再発の危険性を減らし、生存期間の延長につながる可能性がある。次に原発腫瘍の縮小だが、手術方式を根治的腎摘除術から腎機能を温存する腎部分切除術へと、また開腹手術から低侵襲手術へと変更することが可能になるかもしれない。そして、切除不能の腫瘍が切除可能な腫瘍になる可能性がある。

術前化学療法のリスクの一つに、分子標的薬の毒性によって手術がより困難になるほどまでに患者が衰弱してしまう恐れがあるという点がある。加えて、分子標的薬の多くは血管新生阻害作用があるため、手術後の創傷治癒を妨げる恐れがある。これは分子標的療法と分子標的療法の間に「サンドイッチ方式」で手術を実施する場合、非常に大きな問題となる。

術前化学療法として実施した初期の複数の試験では、局所進行腎癌または転移性腎癌の患者に対して分子標的薬を投与し手術を施行した後、可能な限り速やかに分子標的薬を再開した。これら初期の試験の目的は、本治療の安全性および再発を防ぐという意味での有効性を確認することであった。

Wood医師は述べている。「こうした試験が示したのは、分子標的薬は概して術後化学療法よりも術前化学療法として用いたほうが忍容性がよいということです。また、術前治療に対する腫瘍の反応を見ることで、患者にとって手術が有益なものとなるか否かを調べるための良いバロメーターとなることも分かりました」。

分子標的療法を受けている間も腫瘍が増殖しているようであれば手術で治癒する可能性は低いと考えられ、腫瘍が安定、もっと言えば縮小しているようであれば手術によって治癒する可能性が高いと考えられる。

術前アキシチニブ療法で局所進行腫瘍が縮小

進行腎癌の術前標的化学療法の早期試験結果が有望であったが、試験の選択基準が広かったため、研究者が腫瘍の切除可能性または特定の腫瘍サブタイプや病期によって治療の有効性を評価できず、想定したほどの説得力はなかった。また、これらの試験の患者はさまざまな投与量で治療を受けたため、研究者は安全性を評価できたが、用量ごとの有効性データには制限があった。2010年に、MDアンダーソンのWood医師らは患者の選択基準および治療を標準化することによって、これらの制限に対処すべくデザインされた試験を開始した。

「術前分子標的療法に目新しさはなかったものの、本試験はその時点までに報告されていた試験とは異なっていました」と泌尿器科助教で本試験の初回報告の筆頭著者Jose Karam医師は述べた。初回報告は今年すでにEuropean Urology誌で発表されている。「本試験は、II期またはIII期の、生検で淡明細胞癌(腎細胞癌で最もよくみられる型)が確認された患者という非常に特定した患者群に焦点を当てた前向き試験でした」。

チロシンキナーゼ阻害薬であるアキシチニブの投与を全患者で同一の用量およびスケジュールで開始した。12週間と治療期間が標準化されただけでなく、投与中止から手術実施までの時間も36時間で標準化された。この標準化アプローチによって、観察されたすべての効果が試験薬によるものであった可能性が高まった。

12週の治療期間は以前の試験結果に基づいて選択された。「過去の試験を検討し、その大半で投与期間がはるかに長く、分子標的薬に反応した患者のほとんどで、反応が投与後最初の60日~90日以内に生じたことに気づきました」とWood医師 は述べた。「データでは、最初の90日間に反応がみられなければ、その後もみられないことが歴然と示されていました」。

アキシチニブ試験の結果は素晴らしく、国際的に承認された統計基準による客観的奏効率が46%であり、すべての腫瘍がある程度の縮小率を示し、縮小率の中央値は28%であった。腫瘍径平均値は10.0 cmから6.9 cmに縮小した。治療期間中に疾患進行が認められた患者はいなかった。また、手術中または手術後に試験薬による合併症もみられなかった。

腫瘍縮小効果によって、術前アキシチニブで一部の患者の手術範囲を縮小することも本試験で示された。同試験の24人の患者のうち5人は、根治的腎摘除術ではなく腎部分切除術を受けることができ、根治的腎摘除術を受けた19人のうち5人は低侵襲の方法で手術を受けることができた。

「腫瘍縮小は客観的な指標であるため、アキシチニブ試験の評価項目として選択しました」とWood医師は述べた。しかし、彼はいくつかの疑問点が残っていると指摘した。「観察された大幅な腫瘍縮小はベネフィットがあるように思われますが、臨床的に意義があるでしょうか。腫瘍が28%縮小すると、腎部分切除術または腹腔鏡下腎摘除術が有意に増加するでしょうか。この結果が再発率の低下や、生存期間の延長につながるでしょうか。さらに臨床試験を実施しなければわかりません」。

「根治的腎摘除術から腎部分切除術への転換は患者にとっては意義のあることでしたが、どの患者の腫瘍も試験開始時に切除可能な状態でした」とKaram医師は述べた。「私たちは最終的には、当初は切除不能と考えられた腫瘍が、術前分子標的療法によって切除可能になることを思い描いています。多くの『切除不能な』病変を持つ多くの患者にとって見方が変わることになるでしょう」。

切除可能性と手術方法

手術方法の選択は、症例を評価する泌尿器科医の主観的な判断による。腎部分切除術の基準は医療機関によって、また、医療機関内の泌尿器科医によって異なる可能性がある。このばらつきによって、臨床試験結果の結論づけが複雑になる。「アキシチニブ試験は独立した放射線医のレビューアーがおり、各スキャン画像で腫瘍の大きさを記録したが、治療後の手術方法は泌尿器科医が決定した」とKaram氏は述べた。Wood医師とKaram医師らは、泌尿器科医が腎部分切除術に適した腎腫瘍を決定する基準の理解を深めるための試験を開始している。

Wood医師とKaram医師は他のセンターの研究者らにアキシチニブ試験のCT画像を独立して評価し、腎部分切除術が各腫瘍に適しているかどうかを示すよう依頼している。評価する泌尿器科医には患者情報および特性、画像検査の時期を知らせないようにした。Wood医師とKaram医師は臨床試験における手術方法を決定する、より客観的な基準を確立するために適用できる情報が得られることを希望している。

残された疑問点

Wood医師とKaram医師は局所進行性腎癌に対する術前療法を一般的な癌診療に適用するには時期尚早であると強調した。アキシチニブ試験では、術前分子標的療法は腫瘍サイズ縮小という点で安全かつ有効であると示されたが、試験は小規模であり、単一のがんセンターに限定されていた。多施設での大規模試験を実施しなければ、術前分子標的療法が無再発生存期間を延長するかどうかは確認できない。

局所進行性腎癌患者の術前分子標的療法の臨床試験は現在MDアンダーソンで実施されておらず、Wood医師とKaram医師らはこれらの患者の再発率と生存期間を検討したり、分子標的薬の併用または分子標的薬と免疫チェックポイント阻害剤の併用を検討するさらなる第2相試験を計画中である。これらの試験は、局所進行性腎癌の術前分子標的療法の役割を確定させるであろうと研究者らが期待する第3相試験につながるであろう。

分子標的治療の最も重要な疑問点のひとつは、どの患者がどの薬剤または薬剤の併用でベネフィットを得られるかの判定方法である。「アキシチニブ試験のような前向き試験の利点のひとつは、試験の中に治療期間およびフォローアップ期間を通じて患者の組織や液状検体を系統的に収集する戦略を組み込めたという点です」とKaram医師は述べた。Wood医師とKaram医師らおよびMDアンダーソンの癌個別化治療研究所の共同研究者らは、術前アキシチニブのベネフィットを得られる可能性の高い患者を特定し選別するために役に立つ分子バイオマーカーを特定するため、現在これらの検体を分析している。

「これは分子標的治療の極めて有望な点です。本試験で得られるデータは腎癌患者のより良い標的治療戦略のデザインに今後大いに役立つでしょう」とKaram医師は述べた。

For more information, contact Dr. Christopher Wood at 713-792-3250 or Dr. Jose Karam at 713-745-0374.

【キャプション】
CTスキャン画像は、術前化学療法として分子標的薬アキシチニブの投与前(左)と投与後12週における腎腫瘍(矢印)を示している。

— Kathryn L. Hale

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翻訳担当者 樋口 希、吉田加奈子

監修 榎本 裕(泌尿器科/三井記念病院)

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