腎臓がんに術後ペムブロリズマブが初の全生存期間改善をもたらす
免疫療法薬ペムブロリズマブ(キイトルーダ)は瞬く間に、最も広く使用されているがん治療薬のひとつとなった。大規模臨床試験の最新結果によると、同薬剤は今度は、腎臓がん、特に腎臓がんで最も多い病型である淡明細胞型腎細胞がんにおける重要な治療法となった。
この試験の参加者は全員、早期腎臓がんで、手術で腫瘍を取り除くことができたが、がんが再発するリスクも高かった。そこで、手術を受けた後、ペムブロリズマブを最長1年間投与する群と、プラセボを投与し定期的なモニタリングを行う群に無作為に割り付けられた。
4月17日付のNew England Journal of Medicine誌に発表された結果によると、術後補助療法開始後4年経過した時点で、ペムブロリズマブを投与された患者の約91%が生存していたのに対し、プラセボを投与された患者では86%であった。全体として、ペムブロリズマブを投与された人々は、その期間中に死亡するリスクが40%近く低かった。
この結果で、腎臓がんの術後補助(アジュバント)治療に延命効果があることが初めて示された。
KEYNOTE-564と呼ばれるこの試験の以前の結果に基づき、米国食品医薬品局(FDA)は2021年に腎臓がんの術後補助療法としてペムブロリズマブを承認した。同試験は承認時点においては、がんが再発せずに生きられる期間の改善を示すに足る期間しか継続していなかった。
スローンケタリング記念がんセンターのMartin Voss医師とRobert Motzer医師は、この最新知見に付随する論説の中で、「承認されたものの、多くのがん専門医はペムブロリズマブを高リスク患者の術後補助療法としては日常的に使用していなかった」と説明した。
その代わりに、この治療薬がどれほどの全生存期間の延長につながるかどうかが明らかになるのをがん専門医らは待っていたとVoss医師とMosser医師は書いている。その疑問の答えが出た今、 患者の日常ケアに 「期待される効果」は、「誇張しすぎることはない」と続ける。
しかし、治療法の変化はそれほどではないと予測する専門家もいる。「完全なパラダイムシフトにはならないだろう」と、腎臓がん治療を専門とするMark Ball医師(NCIがん研究センター)は言う。
その理由の一つとして、最新の知見から、多くの患者が手術だけでも経過が非常に良好であることが示されているとBall医師は述べた。重篤な副作用を起こすこともある高価な薬剤を、承認基準を満たす患者全員に投与することは、明らかに「過剰治療」になるとBall医師は続けた。
研究の観点から言えば、次のステップは明らかである。「私たちは、再発のリスクが特に高い患者を見極められるようにならなければいけません」。
全生存期間に関する疑問への答えを探して
早期腎臓がん患者の多くは手術で治癒する。しかし、最大50%の人でがんが再発し、その多くは特定の高リスクの特徴を持つがんである。その特徴とは、腫瘍に最も近いリンパ節にがんが存在すること、あるいは肉腫様特徴と呼ばれる腫瘍細胞が存在すること、などである。
術後補助療法は、手術で治療可能な多くの早期がんに用いられる。手術で取り逃がしたがん細胞や、手術前にすでに腫瘍から脱出していたがん細胞を死滅させることで、がんが再発する可能性を減らす、一種の保険の役割を果たす。
これまで腎臓がんに対する術後補助療法は、2017年にFDAがこの用法について承認した分子標的治療薬スニチニブ(スーテント)のみであった。
この承認は、スニチニブの術後補助療法が無病生存期間を改善したという1件の臨床試験に基づいている。しかし、この改善は重篤な副作用を伴うものであり、この治療法に延命効果があるというエビデンスはない、とBall医師は説明した。
その結果、「スニチニブが処方されることはまったくない」とBall医師は述べた。
早期腎臓がん患者の延命につながることが証明されている術後補助療法がないため、多くの患者は手術後に定期的なモニタリング(観察)を受けるだけである。
そのため、がん専門医らが長期間経過後に確かめたいと特に熱望していたことは、KEYNOTE-564試験で示されたペムブロリズマブによる無再発生存効果が、全生存期間の延長につながるかどうかであった。
2年、3年、4年経過時の生存改善
KEYNOTE-564試験は、ペムブロリズマブの製造元であるMerck社が資金提供し、約1,000人が参加した。全員が手術後にがんが再発するリスクが高かった。ペムブロリズマブ投与群に割り付けられた参加者は、最長1年間、3週間毎にペムブロリズマブ投与を受けた。
ペムブロリズマブ投与群では、4年経過時点だけでなく、本試験で測定されたすべての時点において、より多くの人が生存していた。
また、ペムブロリズマブ投与群では、がんが再発することなく、より長く生存し続けた。4年後、ペムブロリズマブ群の65%が再発を認めなかったのに対し、プラセボ群では57%であった。
術後補助療法開始後の期間 | ペムブロリズマブ群の生存者 | プラセボ群の生存者 |
2年 | 96% | 94% |
3年 | 94% | 89.5% |
4年 | 91% | 86% |
この結果は「臨床的に有意な生存期間の改善」であると、本試験の治験責任医師であるToni Choueiri医師(ボストン、ダナファーバーがん研究所)は、1月に開催された2024年米国臨床腫瘍学会(ASCO)泌尿生殖器がんシンポジウムで発表した。
予想されたように、ペムブロリズマブ投与群では、疲労や発疹などペムブロリズマブ投与群によくみられる治療関連の副作用がより多くみられたとChoueiri医師は指摘した。
全体として、ペムブロリズマブ群の約20%に重篤な副作用が認められ、21%が副作用のために早期に治療を中止した(プラセボ群では2%)。
早期腎臓がんの治療に大転換?
より多くの早期腎細胞がん患者が術後にペムブロリズマブを投与されるべきだと、腎がん治療を専門とするPedro Barata医師(クリーブランド、シードマンがんセンター)はASCO泌尿生殖器がんシンポジウムで述べた。
Barata医師によると、腎臓がんの場合、再発リスクモデルを用いた評価でがん再発リスクが特に高い患者に対して、ペムブロリズマブによる術後補助療法を推奨することが多いとのことである。
ほとんどの患者は、治療による副作用は軽度であるが、「一部の患者では重大な副作用が伴い」、その副作用を管理するための治療薬にも副作用があるとBarata医師は述べる。
そのため、がん専門医らは生存期間の改善見込みと副作用に伴う影響とを見比べて話し合う必要がある、とBarata医師は続けた。
「QOL、患者の好み、状況によっては薬剤の入手可能性まで考慮しなければなりません。しかし、私はペムブロリズマブの術後補助療法に今は軍配が上がると主張します」。
Ball医師も同意見である。しかし、ペムブロリズマブが標準治療である他のがんとは異なり、この薬剤が最も奏効しやすい患者を特定するための腫瘍組織や血液マーカー(バイオマーカー)がない。
したがって、当分の間、がん専門医は十分に確立されたリスク因子を頼りに、患者に対する意思決定と治療法の推奨を行うべきであると同氏は述べた。
- 監訳 野長瀬祥兼(腫瘍内科/市立岸和田市民病院)
- 翻訳担当者 山田登志子
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- 原文掲載日 2024/05/21
【この記事は、米国国立がん研究所 (NCI)の了承を得て翻訳を掲載していますが、NCIが翻訳の内容を保証するものではありません。NCI はいかなる翻訳をもサポートしていません。“The National Cancer Institute (NCI) does not endorse this translation and no endorsement by NCI should be inferred.”】
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