腫瘍内代謝シフトと腎癌の進行の関連:癌ゲノム・アトラスの研究者が、ゲノム変化と腫瘍活動性の関連を発見
べいこくこくりつ
原文掲載日 :2013年6月24日
NCIプレスリリース
癌ゲノム・アトラス(The Cancer Genome Atlas)研究ネットワークの試験責任医師らは、代謝過程における腫瘍細胞のエネルギー利用方法と、最も一般的な腎臓の癌である腎明細胞癌(ccRCC)の活動性との関連を解明した。本発見によれば、腎明細胞癌の腫瘍細胞内で正常な代謝が変化し、ある代謝経路から他の代謝経路にシフトしているという。「代謝シフト」と呼ばれるこの変化が、腫瘍のステージおよび重症度と相関している例もある。
また、腎明細胞癌における経路内の変異についてもわかっており、それが腫瘍の活動性を高めている可能性がある。総合すると、今回の発見により、どのように癌細胞が正常な代謝経路から別経路にシフトし、腫瘍細胞の増殖優位性を得るのかについて理解が深まると同様に、原疾患の機序および治療法の可能性についても新たな知見をもたらしてくれるかもしれない。一般的に、腎明細胞癌において腫瘍の増殖を促進させる代謝酵素が変化した場合、患者の転帰は悪化する。本研究はTCGAによる最新の研究で、腎癌のさまざまな分類を対象とした代謝シフトに関する過去のエビデンスを裏づけるものとなっている。
腎臓の断面図(左側)
研究データは、米国国立癌研究所(NCI)および米国国立ヒトゲノム研究所(NHGRI)の資金提供を受けた団体、TCGAによって生成されたものを用いた。NCIとNHGRIは、いずれも米国国立衛生研究所(NIH)の組織である。本研究結果は、2013年6月23日付Nature誌電子版で公表された。
「TCGAが腎腫瘍と患者の生存データとの相関を総合的に特徴づけたことで、現在、研究者らの間で予後マーカーを実証するために本知見を利用し、新規治療戦略を特定していく動きが出てきています」と、NIH所長Francis S. Collins 医学博士は述べる。
本研究では、450例近い腎明細胞腫瘍を調べ、同一患者の正常なサンプルと一致させた。癌細胞に発現している特定のタンパク質量を調べたところ、転帰悪化がみられる患者において、細胞代謝に必須となるタンパク質濃度(AMPK:AMP kinase)が低下し、また他のタンパク質濃度(acetyl-CoA carboxylase)が上昇していることが明らかになった。
「過去の研究で得られた他の癌種における特徴づけの知見は、こうした癌に対していかによい治療法をデザインするか、重要な手がかりになっています」と、NCI所長Harold Varmus医師は言う。「腎明細胞癌に関する新たなTCGA解析結果から、ある種の遺伝子における変異がどのように染色体構造を変化させ、臨床転帰に相関するような形で細胞代謝に影響を及ぼす酵素レベルの変化を生むのか、説明がつきます。これらの知見は、他の致命的な癌の治療法に関する新たな見解を活気づけてくれることでしょう」。
代謝シフトと腫瘍の活動性との関連に加えて、TCGA研究ネットワークの研究者らは、一部の例では、細胞代謝の制御を助けるPI3K細胞経路が変化することによって、代謝シフトが引き起こされている可能性があることを発見した。試験責任医師らは、腫瘍細胞内の多くのPI3K経路遺伝子およびその制御因子を観察し、タンパク質コード領域におけるDNA遺伝子変異や、遺伝子発現に影響を及ぼすその他の変化が認められた。そうしたPI3K経路またはその提携経路AKTおよびmTORにおける変化は、腫瘍サンプルの29%に認められた。AKTおよびmTORもまた、細胞代謝の制御にとって重要である。
これらの変化の影響は、PI3K/AKT/mTOR経路の重要性を示している。例えば、研究者らは腫瘍抑制遺伝子を活性化する因子の減少を発見した。腫瘍抑制遺伝子とは、腫瘍発達を阻害するタンパク質を産生する遺伝子である。同時に、PI3K経路阻害遺伝子を刺激するような因子を遮断する。こうした変化のいずれも、PI3K/AKT/mTOR経路の活性を促進する。結果として、この経路が阻害薬による治療上のターゲットになる可能性を示唆している。
「これらの知見は、何百という腫瘍を対象とした厳密な解析から得られた大規模で多次元なデータセットが、癌生物学の分野に新たな知見をもたらすためにどのように利用できるかを示しています」と、NHGRI所長Eric Green医学博士は述べている。「こうした種類のデータセット作成により、TCGAは、この種の癌の基礎的な理解を深めていっているのです」。
NCI泌尿器腫瘍科長であり、試験リーダーの一人であるW. Marston Linehan医師は、この結果からいくつか意味を見出している。「活動性の腫瘍における代謝シフトに関する本知見は、進行腎癌患者に対するいくつもの新しい治療アプローチの開発基盤となります」と述べた。
新規治療法が特に重要である理由は、進行腎癌は化学療法に対して抵抗性を示すことが多いからである。TCGAのデータから、腎癌において起こるさまざまで広範囲にわたる過程に関する洞察が得られ、異なる腫瘍経路がいかに交わるかという点も示されている。
「癌化における詳しい代謝シフトの役割の解明ということを通して、この疾患の分子解析することがすべての癌種の理解につながるという点で意義があります。」と、本プロジェクトのもう一人の試験責任医師であり、ヒューストンにあるベイラー医科大学ヒトゲノムシーケンシングセンターのRichard A. Gibbs医学博士は述べる。
NCIによれば、米国で2013年に腎明細胞癌と診断される人は65,000人近くになり、腎明細胞癌 による死亡例は13,000人を超えると推定されている。初期のステージにある腎細胞癌患者のうち、50%超は現行の治療で成功する。しかし、最も重度のステージである場合、ほぼすべての患者で予後は良くない。
現在までに、TCGA研究ネットワークは、データを生成し、多形性膠芽腫、卵巣漿液性腺癌、大腸腺癌、肺扁平上皮癌、浸潤性乳癌、急性骨髄性白血病および子宮内膜癌に関する解析を公表した。TCGAが生成したデータは、TCGA Data PortalおよびCGHubにて無料で利用可能である。
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参照文献:The Cancer Genome Atlas Network. Integrative analysis of genomic and molecular alterations in clear cell renal cell carcinoma. Nature. Online June 23, 2013. In print July 4, 2013. doi:10.1038/nature12222.
The TCGA Research Networkは国内の数十の医療機関から150人以上の研究者が参加している。研究者の一覧は、http://cancergenome.nih.gov/abouttcga/overview を参照ください。Quick Facts, Q&A, graphics, glossary, a brief guide to genomics and a media library of available imagesを含むTCGAの詳細は、http://cancergenome.nih.gov をご覧ください。
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