非筋層浸潤性膀胱がんにBCGの代替療法としてゲムシタビン+ドセタキセル併用が有効
米国国立がん研究所(NCI)がん研究ブログ
最も一般的な膀胱がんの治療に使われてきたBCGは、新型コロナウィルス感染症(COVID)の大流行が加速したサプライチェーン危機の遥か前から不足していた。BCGは長期にわたり、高リスクの非筋層浸潤性膀胱がん(NMIBC)の初回治療に用いられる主な薬剤であった。
しかし、継続的なBCG不足のため、医師は高リスクのNMIBC患者に対して他の治療法に頼らざるを得なくなっている。医師らが使用している代替薬剤の一つがゲムシタビンとドセタキセルという2つの化学療法薬の併用療法である。この程、アイオワ大学の研究者らは、この併用療法を受けた高リスクNMIBC患者を対象とした過去最大規模の研究の結果を発表した。
この報告によれば、膀胱腫瘍の摘出手術後、両薬剤による定期的な治療を受けた人の82%が、2年後もがんが再発することなく生存していた。また、この研究結果は、7月27日付のJournal of Urology誌に掲載された。
この研究に参加した100人以上の患者のうち、研究期間中に膀胱がんで死亡した患者はなく、膀胱に直接投与した薬剤による副作用も軽度のものが大部分であった。
本研究の研究責任者であるアイオワ大学ヘルスケア泌尿器科のVignesh Packiam医学博士は、「この化学療法薬の併用療法による結果は、BCGで治療した患者に通常見られるものと同様か、むしろ、やや優れていました」と述べた。「私たちは、他に有効な選択肢がない患者さんに、この治療法を提供できることを大変うれしく思っています」。
今回の研究結果により、化学療法薬の併用療法はBCGが使用できない場合の優れた選択肢であることが示された、と泌尿器腫瘍医らは広く合意している。
ノースウェスタン大学フェインバーグ医学院の泌尿器腫瘍医であるJoshua Meeks医学博士と付随論説の共著者らは、この研究結果について、「すべての患者はBCGの不足が転帰にどのような影響を与えるか知りたがっており、BCGが使用できない場合に泌尿器科医が患者と話し合う際、極めて有用になるだろう」と記している。
米国国立がん研究所・がん研究センター泌尿器腫瘍学部門のSandeep Gurram医学博士は、この知見を「非常に有望」であるとした。特に、Gurram博士は、この併用療法が最も懸念すべき高リスクNMIBC患者にも有効であると思われる点を指摘している。
しかし同時に、Gurram博士はこの研究には重要な制約があり、BCGの入手可能性にかかわらず、高リスクNMIBCの治療に関する最終結論ではないと注意を促している。例えば、今回の研究はBCGとゲムシタビン/ドセタキセル併用療法を直接比較した臨床試験ではなかった。
また、現在進行中および間もなく開始されるいくつかの臨床試験が、最も重要な未解決の問題に対処する一助となるはずだとGurram博士は指摘している。
BCGから化学療法薬の併用療法まで
非筋層浸潤性膀胱がんは、腫瘍が粘膜と呼ばれる膀胱の内面にのみ存在することから、このように呼ばれている。この粘膜の機能のひとつに、膀胱を包む平滑筋とその中の尿との間のバリアとしての機能がある。
膀胱がんの診断の約70%~75%はNMIBCで、そのうち約25%は筋層浸潤性膀胱がんに進行するリスクの高い腫瘍である。
腫瘍の大きさやその他の特徴から、生物学的に悪性度が高いと判断される場合に高リスクとされる。例えば、高リスクNMIBCのひとつに、腫瘍がパンケーキのような形状で粘膜に沿って広がる膀胱上皮内がんと呼ばれるものがある。Packiam博士によれば、これらの腫瘍は悪性度が高いばかりでなく、BCGによる治療に対して特に抵抗性があるという。また、再発した場合、より侵襲性が高くなることが多い。
高リスクNMIBCに対する一連の治療は、まずTURBTと呼ばれる外科手術によって膀胱腫瘍を摘出することから始まる。手術後は、残存するがん細胞を死滅させ、がんの再発リスクを低下させるために、術後補助療法と呼ばれる追加的な治療が行われる。
NMIBCの患者のほとんどでは、術後に追加治療を行わなければ、いずれがんが再発する確率が高い。したがって、術後補助療法の第一の目的は、できるだけ長く再発を防ぎ、さらに再発がんが膀胱に浸潤するのを防ぐことである、とPackiam博士は述べる。膀胱の筋壁に浸潤した腫瘍では、膀胱を完全に摘出する可能性も含め、より大規模な手術が必要となる。
何十年もの間、BCG(もともと結核ワクチンとして開発され、細菌を著しく弱毒化したもの)による術後補助療法は、高リスクのNMIBCにおける「進行と再発を防ぐためのゴールドスタンダードでした」と、Packiam博士は説明する。
しかし、2010年代初頭から、BCGを製造していた2社のうち1社が製造を中止したため、BCGの供給が不足し始めた。現在、米国で使用されるBCGを製造しているのはメルク社のみである。同社によれば、製造上の問題だけでなく、世界的な需要の増加により、BCGの安定供給が制限され続けているとのことである。
昨年、同社はBCGの新しい製造施設を建設し、生産量を3倍にすることが可能になると発表した。しかし、BCGの供給は少なくとも数年は回復しないと見られている。
Packiam博士によると、BCG不足の間、代わりに最も一般的に行われたのは、化学療法薬の単剤療法であった。しかし、この治療は高リスクのNMIBCに対する有効性が低いことが示されていた。
化学療法薬の併用療法は、BCGによる治療後にがんが再発した高リスクのNMIBC患者に対して有効であることが示されており、初回治療(ファーストライン)として化学療法薬の併用療法を研究することは理にかなっていた、とGurram博士は言う。
有望な無再発生存率
アイオワ大学の研究チームのもう一人のメンバーであるMichael O’Donnell博士は、BCG不足が始まって間もなく、高リスクのNMIBCに対してゲムシタビンとドセタキセルの併用療法を初めて行った。
今回の研究では、研究者らの病院で化学療法薬の併用による術後補助療法を受けた患者のデータを過去にさかのぼって分析した。データ分析の対象となったのは、BCG不足が始まってから約1年後の2013年5月から2021年4月までに治療を受けた患者であった。
本研究ではまず、週1回、6週間にわたって両薬剤を一種類ずつカテーテルで膀胱に直接投与した(導入療法)。その後、重篤な副作用やがんの再発がなければ、月に1回、最長で2年間、両薬剤を投与した(維持療法)。解析対象は107人で、追跡期間の中央値は15カ月であった。
2年後の時点で80%以上の患者ががんの再発なく生存していることに加え、膀胱の摘出術を受けなければならなくなった患者は1人のみであった。最も一般的な副作用は、頻尿と、頻回な切迫尿意であった。
しかし、Packiam博士はこの研究にいくつかの制約があることを認めている。例としては、後ろ向き研究であること、すべての患者が同じ病院で治療を受けたこと、研究対象のほぼすべての患者が白人であること、などが挙げられる。
これらのことにより、米国のより大きな人口への本研究結果の適用が制限される可能性がある。「確かにより多様な集団における、より大規模な研究が必要です」と、Packiam博士は述べつつも、BCGの不足により、医師も患者も他の治療薬を使うしかない状況であった、と続けた。
「アイオワ州は、BCG不足の深刻な影響を受けています。ここでは、ほとんど手に入らないので、われわれは実際、この併用療法に頼るようになったのです」と、Packiam博士は述べている。
より決定的な答えが目前に
この研究の最も重要な成果の一つは、ゲムシタビン/ドセタキセル併用療法が膀胱上皮内がんを含むすべての高リスク膀胱がん患者に対して有効であったことである、とGurram博士は述べている。
この研究には、「BCGに耐性を持つことが多い高リスクの腫瘍を持つ患者が多く含まれており、それでも非常に良好な無再発生存率を得ています」と、Gurram博士は言う。
とはいえ、異なる人種や民族的背景を持つ人々において、この併用療法がどのように作用するかを評価することは重要であろう。
「後ろ向き研究ではうまくいっていても、地域社会では異なる結果になったケースを何度も見てきました」とGurram医師は述べる。
また、維持療法を受けるために毎月病院に通う必要があることは、この治療レジメンの難しい点であるとPackiam博士は指摘している。特に農村部や交通の便の悪い地域に住む患者において顕著にあてはまる。
「患者にとっては実際に移動の負担が増えますから」と、Packiam博士は言う。
この点に関しては、Meeks博士と彼の同僚が、どの程度の期間維持療法が必要であるかについて考察している。BCGによる治療と同様、時間が経つと多くの患者は治療を止めてしまう。そのため、「ゲムシタビンとドセタキセルの投与を6カ月、12カ月、24カ月のいずれの期間行う必要があるかを判断することが重要である」と、Meeks博士らは記している。
一方、Gurram博士によれば、研究者らは高リスクNMIBCに対する既存の治療法および可能性のある新規治療法をより注意深く検討しているという。
例えば、まだ開始はしていないが、BCGまたはドセタキセル/ゲムシタビン併用療法のいずれかに患者を無作為に割り当てる大規模臨床試験がNCIの支援を受けて計画されている。また、高リスクのNMIBC患者を対象に、BCGと免疫療法薬の併用を検証する一連の臨床試験も進行中である。
Gurram医師は、新しい治療法によるNMIBCの治療の全面的な改善に期待すると述べるとともに、「しかし、正直なところ、古い化学療法を再検討することが有望な結果をもたらすのは、大変嬉しいことです」とも述べている。
監訳:榎本 裕(泌尿器科/三井記念病院)
翻訳担当者 高橋多恵
原文掲載日
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