新たな標的抗体薬エンホルツマブ ベドチンが進行尿路上皮がん患者の約半数に奏効

ASCOの見解

進行尿路上皮がんでは、プラチナベース化学療法とチェックポイント阻害薬による免疫療法後に進行した場合、米国食品医薬品局(FDA)承認薬には選択肢となる治療薬が存在しません。今回は小規模の第2相試験ですが、化学療法と免疫療法を行っても疾患が進行した患者に対して抗腫瘍作用が認められ、有望であることを実証できました。より大規模な試験でこの初期知見が確証されることを待ち望んでいます」と、米国臨床腫瘍学会(ASCO)専門委員であり、理学修士(MS)、米国内科学会マスター(MACP)、米国臨床腫瘍学会フェロー(FASCO)でもあるRobert Dreicer医師は述べた。

125人の患者を対象とした単群第2相試験において、局所進行または転移を有する尿路上皮がん患者の44%にenfortumab vedotin(EV)[エンフォルツマブ ベドチン]による奏効がみられた。エンフォルツマブ ベドチンは、尿路上皮がんの97%に検出されるタンパク質ネクチン-4を標的とする新たな薬剤である。患者らはプラチナ製剤による化学療法およびPD-1/PD-L1免疫チェックポイント阻害薬による治療歴があったが、それにもかかわらずがんが進行していた。

この研究については本日の記者会見で取り上げられることになっており、2019年ASCO年次総会でも発表される。

「今回の第2相試験では第1相試験に極めて近い結果となりましたが、これは臨床試験ではあまりないことです」と、当試験の筆頭著者であり、コネチカット州ニューヘイブンにあるイエールがんセンターの内科学(医学腫瘍学)および泌尿器学の教授であるDaniel P. Petrylak医師は述べた。「チェックポイント阻害薬が効かない患者を救える治療法が見い出されたことは大変喜ばしいことです」。

尿路上皮がんとしては、膀胱がん(90%)、尿道がん、尿管がん、腎盂がんなどがあり、その他いくつかの隣接臓器のがんも含まれる。尿路上皮がんの発症率は米国では男性の方が高い。米国内の2019年の膀胱がんの新規患者数は推定で80,470人(男性61,700人、女性18,770人)に上り、死亡者は17,670人(男性12,870人、女性4,800人)である。1

局所進行または転移を有する尿路上皮がんと診断された患者は通常、一次治療としてプラチナ製剤ベースの化学療法を受ける。疾患が進行した場合は、二次治療としてチェックポイント阻害薬による免疫療法を受ける。この免疫療法では免疫反応を調節することによりT細胞によるがん細胞への攻撃が促進される。尿路上皮がんに使用するチェックポイント阻害剤としては、ペムブロリズマブ(商品名キイトルーダ)、アテゾリズマブ(商品名テセントリク)、デュルバルマブ(商品名イミフィンジ)、ニボルマブ(商品名オプジーボ)、およびアベルマブ(商品名バベンチオ)の5つが承認されている。しかしながら、免疫チェックポイント阻害剤を投与された進行尿路上皮がん患者の75~80%でがんの進行がみられる。がんが免疫療法の実施後に進行した場合、承認された標準薬には選択肢となる治療薬は存在しない。

試験について

エンフォルツマブ ベドチンの第1相試験の結果、投与の安全性を裏付ける十分な証拠が得られた。2018年3月、FDAはエンフォルツマブ ベドチンを、局所進行または転移を有する尿路上皮がんを有し、チェックポイント阻害薬による治療中または治療後にがんが進行した患者に対する画期的治療薬に指定した。

研究者らは第2相試験に、プラチナベース化学療法または免疫チェックポイント阻害薬療法(あるいはその両方)の治療歴のある尿路上皮がん患者を2群に分けて登録した。第1群は両療法による治療歴のある患者、第2群はプラチナ製剤化学療法の治療歴がない患者とした。今回報告されるのは第1群の結果のみである。

第1群の登録患者の70%は男性で、年齢中央値は69歳であり、患者の35%は上部尿路にがんがあった。この部位にがんがみられるのは比較的まれである。局所進行または転移を有するがんに対して登録患者が過去に受けた全身治療数の中央値は3回であったが、本試験への登録前の少なくとも2週間は治療を受けていなかった。

主な知見 患者の44%にエンフォルツマブベドチンによる奏効がみられ、腫瘍が増大しなかったか、腫瘍が縮小した。そして、12%にがんの徴候が認められなくなり、完全奏効となった。全生存期間の中央値は11.7カ月であった。

チェックポイント阻害薬が奏効しなかったがん患者のうち41%にエンフォルツマブベドチンが奏効し、また、がんが肝臓に転移した患者の38%にエンフォルツマブベドチンが奏効した。

本試験の登録患者におけるエンフォルツマブベドチンの忍容性は良好であった。最もよくみられた副作用は、疲労感(50%)、脱毛症(49%)、および食欲減退(44%)などであった。

次の段階

現在、上に述べた知見の確認を目的として第3相試験を実施中である。本試験の第2群への患者登録は継続中であり、また、新たに進行尿路上皮がんと診断された患者に対してエンフォルツマブベドチンを投与する効果を検証する試験も進行中である。当試験では、エンフォルツマブベドチンおよびペムブロリズマブの併用、ならびにエンフォルツマブベドチンおよびプラチナ製剤ベースの化学療法の併用について研究している。

本研究はSeattle Genetics社およびAstellas Pharma社から資金提供を受けた。

試験の概要
研究対象: 進行尿路上皮がんにおけるネクチン-4を標的とする抗体薬物複合体の使用
試験の種類: 単群第2相試験
登録患者: 125人
治療内容: エンフォルツマブ ベドチン
主な知見: 患者の44%に奏効がみられ、12%が完全奏効となった。生存期間中央値は11.7カ月であった。
副次的知見: 過去にチェックポイント阻害剤が奏効しなかったがん患者のうち41%にエンフォルツマブベドチンが奏効し、また、がんが肝臓に転移した患者の38%にエンフォルツマブベドチンが奏効した。

1アメリカがん協会Webサイト:www.cancer.org/cancer/bladder-cancer/about/key-statistics.html

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翻訳担当者 角坂功

監修 峯野知子(薬学・分子薬化学/高崎健康福祉大学)

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原文掲載日 

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