尿路上皮がん―2016年11-12月号
MDアンダーソン OncoLog 2016年11-12月号(Volume 61 / Issue 11-12)
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尿路上皮がん
サブタイプで化学療法感受性を予測
遺伝子発現プロファイリングによる尿路上皮がんの分類によって、シスプラチンベースのネオアジュバント化学療法が奏効する可能性の高い患者を予測できることが MDアンダーソンがんセンターの研究により示された。これらの結果は、治療困難な筋層浸潤膀胱がんも含め、尿路上皮がんの治療へ向けてより一層個別化されたアプローチへの道を開くものと思われる。
この研究は泌尿生殖器腫瘍内科准教授Arlene Siefker-Radtke医師によって主導された。「何十年もの間、膀胱がんはあたかもひとつの疾患であるかのように治療されてきました。しかもつい最近まで、ある治療が奏効しそうな患者を予測する技術も持っていなかった。しかし、遺伝子発現プロファイリングを用いることで、異なる膀胱がんの生物学を理解するようになってきましたし、ある治療法がどのがんに効くのかを、予測できるようになってきたのです」。
膀胱がんのサブタイプ
近年、がんゲノムアトラス、MDアンダーソンがんセンター他、複数の研究グループは尿路上皮がんが遺伝子発現プロファイリングにより basal、regular luminal、p53-likeの3つのサブタイプに分類できることを示してきた。p53-likeはluminalサブタイプの中の独立したサブセットである。basalタイプの腫瘍は幹細胞に似た外観を有し急速に増殖する。regular luminalタイプの腫瘍は膀胱のumbrella cellと共通した特徴を有しgene set enrichment analysis(GSEA)で見るとFGFR3(線維芽細胞増殖因子受容体 fibroblast growth factor receptor 3)をコードする遺伝子に変異が多く、増殖速度は中程度である。 p53-likeタイプの腫瘍は luminalタイプの約半数を占め、 野生型p53に類似した遺伝子発現特性、間質線維芽細胞への浸潤、ゆっくりとした増殖速度といった特徴をもっている。
Siefker-Radtke医師と共同研究者のアンダーソンがんセンター泌尿器科准教授Woonyoung Choi博士、泌尿器科前教授であり現ジョンズ・ホプキンス大学Greenberg Bladder Cancer InstituteディレクターのDavid McConkey博士は、これら3つのサブタイプがネオアジュバント化学療法の予後を予測できるかを調査することにした。具体的には、MDアンダーソンで実施された第2相臨床試験でベバシズマブ併用高用量 MVAC 療法(メトトレキサート、ビンブラスチン、ドキソルビシンシスプラチン)によるネオアジュバント治療後に膀胱全摘除を行った筋層浸潤がん、あるいは他のハイリスク尿路上皮がんの患者から得た腫瘍検体を調べた。シスプラチンベースのネオアジュバント化学療法は筋層浸潤尿路上皮がん患者の多くに行われるが、そのうち効果を示すのはわずか30%~40%である。つまり、どの患者にこの治療方法が効くのか前もって予測できれば、がん専門医による治療のオーダーメイドの手助けになると考えられる。
第2相臨床試験に参加した患者のうち38例で遺伝子発現プロファイリングに適した膀胱がん組織検体が得られた。そのうち、basalタイプが16例、regular luminalタイプが11例、p53-likeタイプが16例であった。症例数は少ないものの、basalタイプの患者は、regular luminalやp53-likeタイプよりも明らかに高い5年生存率を示した(それぞれ91%、73%、36%; P = 0.015)。また、basalタイプの患者は、臨床試験登録時の年齢やリンパ管浸潤の有無などを含む多変量解析においても有意に生存率が高い傾向にあった。さらに興味深い事に、p53-likeタイプ16例中9例に2年以内の骨転移が認められたが他のサブタイプでは認められなかった。
これらの結果は尿路上皮がんのサブタイプが治療決定の目安になりうることを示している。basalタイプの腫瘍は進行性の性質を有するが、 MVACに反応するので、シスプラチンベースのネオアジュバント療法の良い対象となるであろう。一方、p53-likeタイプでは半数以上の患者に骨転移が認められることから、最初に外科的治療を行うべきであり、間質や骨を標的とした薬剤によるアジュバント療法を選択するのが良いかもしれない。
このような尿路上皮がんサブタイプの予測能は、過去の臨床試験でMVACによる治療を受けた別の49人の遺伝子発現解析と予後解析によって裏付けられた。その結果によると、basalがん患者は予後良好の傾向があり、5年全生存率はそれぞれbasalタイプが77%、regular luminalタイプが56%、p53-likeタイプが56%であった(P = 0.02)。
進行中の臨床試験
現在、尿路上皮がんのサブタイプにより分子標的抗がん薬に対する反応性を予測できるかについて、試験が行われている。 Siefker-Radtke医師はこの課題に取り組む2つの臨床試験を主導している。いずれも化学療法もしくは免疫療法あるいは両方による治療歴のある転移性あるいは切除不能な尿路上皮がん患者を対象に行われている。
そのうちのひとつの臨床試験(No. 2015-0112)は、線維芽細胞増殖因子受容体3(FGFR3)に変異のある尿路上皮がん患者を対象とした、 2つの異なる用量によるpan-FGFRチロシンキナーゼ阻害薬の安全性と有効性の試験である。これは尿路上皮がんを対象とした FGFR3阻害薬の複数のグローバル試験のうちのひとつである。 regular luminalと p53-like luminal膀胱がんではかなり高率に FGFR3変異が起こっている。
もう一方の臨床試験(No. 2014-0661)は、転移性または切除不能尿路上皮がん患者を対象に、ゲムシタビンとドキソルビシンにプロテアソーム阻害剤のixazomibを併用して投与した試験である。前臨床試験ではixazomibが化学療法に対する膀胱がん細胞の感受性を高めた。Siefker-Radtke医師らは、この試験に登録された患者の遺伝子発現プロファイリングを実施し、尿路上皮がんのどのサブタイプがixazomibに対しより高い感受性を示すのか調べる予定である。Ixazomibが血管新生を阻害するのではないかというデータもあり、増殖性の高いbasalタイプの尿路上皮がんは他のサブタイプよりもより高い効果を示すかもしれない。
今後に向けて
現在、尿路上皮がんの遺伝子発現プロファイリングは尿路上皮がん患者の標準的ケアではない。Siefker-Radtke医師、 McConkey医師 、 Choi医師は、複数の企業と協力して、化学療法と分子標的薬に対する反応性の予測能についてさらに研究を続けている。また、彼らは、臨床試験に参加するもっと多くの尿路上皮がん患者に対し遺伝子発現プロファイリングが行われることを期待している。背景となる腫瘍生物学から得た知見により、特定のタイプの腫瘍を標的とした治療法、あるいはその組み合わせを合理的に開発することができるようになるのである。「膀胱がんはひとつの疾患ではありません。これからは患者ひとりひとりに合わせた、より個別化された治療に向かっていくでしょう」と Siefker-Radtke医師は述べた。
For more information, contact Dr. Arlene Siefker-Radtke at 713-792-2830. Further reading McConkey DJ, Choi W, Shen Y, et al. A prognostic gene expression signature in the molecular classification of chemotherapy-naïve urothelial cancer is predictive of clinical outcomes from neoadjuvant chemotherapy: a phase 2 trial of dose-dense methotrexate, vinblastine, doxorubicin, and cisplatin with bevacizumab in urothelial cancer. Eur Urol. 2016;69: 855–862.
—– STEPHANIE DEMING
【画像キャプション訳】
臨床試験において、ハイリスクの尿路上皮がん患者に膀胱全摘除術前ネオアジュバント化学療法とベバシズマブの併用療法を行った。生存期間解析では、basal サブタイプの腫瘍をもつ患者が他のサブタイプの腫瘍患者よりも明らかに生存期間が長かった(P = 0.015)。
Eur Urol. 2016;69:855–862より引用
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