糖尿病治療薬が膀胱がんリスクの上昇と関連

英国医療サービス(NHS) 

「糖尿病治療薬のピオグリタゾンは膀胱がんのリスクを63%上昇させる」と英国デイリー・テレグラフ紙が報じた。

現実的には実際のリスクの増加は小さいものの、この結果は医師と患者の双方にとって処方決定の際に役立つ情報となる。ピオグリタゾンは細胞のインスリン感受性を上げる作用により2型糖尿病を改善する治療薬である。

過去の研究にはピオグリタゾンが膀胱がんの発生率と関連性があるとしているものもある。だが、それらの結果は決定的ではない。

新たな研究では、ピオグリタゾンを服用した145,806人に発生した事象を、他の経口糖尿病治療薬(インスリンを除く)を服用した患者と比較して14年間(2000年から2014年まで)観察した。

研究では、ピオグリタゾンを服用した患者は他の糖尿病治療薬を服用した患者に対して膀胱がんの診断率が63%高く、また服用期間が長いほどリスクが上昇するという結果となった。

留意すべき重要点としては、全体的な膀胱がんのリスクは低いということである。ピオグリタゾン服用者の膀胱がん発生数は10年間で10,000人あたり121人であり、他の治療薬を服用した患者では89人であった。

ピオグリタゾンに対して良好な反応を示す患者では、糖尿病コントロールの面で得られる利益はリスクを上回ると考えられる。

ピオグリタゾンを服用中の患者は処方通りに服用を続けるべきである。だが、少しでも懸念があれば主治医と話し合い、血尿や頻尿、排尿痛など何らかの症状があれば直ちに報告すべきである。

膀胱がんのリスクファクター

膀胱がんで最も重大なリスクファクターには次のものがある。

・喫煙歴
・工業用化学物質への曝露

下記のものを扱う業種では膀胱がんリスクの上昇と関連がある。

・染料
・繊維
・ゴム
・塗料
・プラスチック
・皮革

リスクファクターが1つ以上当てはまりピオグリタゾンを現在服用している場合は、治療を行っている医師に相談するとよい。

研究の出典

研究はカナダのモントリオール州にあるJewish General HospitalとMcGill Universityの研究者が行い、Canadian Institutes of Health Research(カナダ保健研究機構)が資金提供を行った。

研究は、オープンアクセスでピアレビューが行われるBritish Medical Journal (BMJ) に掲載され、オンライン上で自由に閲覧が可能である。

デイリー・メール紙とデイリー・テレグラフ紙は研究を概ね正確に伝えている。

デイリー・メール紙は、ピオグリタゾンが「新しくてよりよい糖尿病治療薬が他にあるにもかかわらず、安価だという理由で医師に好まれている」と主張した。だが、その主張の根拠について説明はなされていない。

この主張には支持するだけの確実な根拠がなく、極めて軽卒な記述であるといえるだろう。

ピオグリタゾンは、患者の血糖値が1種類の経口薬ではコントロールできない場合の追加薬として考えられている。膀胱がんだけでなく心血管系のリスクなど、想定されるリスクについて十分に考慮せずに使用されることはなく、また薬に対する患者の反応は入念にモニタリングされる。効果がなければ服用は中止される。

研究の種類

この研究は、2型糖尿病の治療薬であるピオグリタゾンが膀胱がんリスクの上昇と関連性があるかを調べることを目的とした、集団ベースのコホート研究である。過去に行われた観察研究と関連性はあるものの、研究者が言うように過去の研究は「議論の余地がある」。

コホート研究はさまざまな状況の大集団の間で発生した事象を比較するのに有用な研究である。コホート研究では、ある因子(ここではピオグリタゾン)が他の因子(膀胱がん)の明らかな原因になるという証明はできない。だが、当該の研究者がさまざまな追加研究を行うことで、職業など膀胱がんのリスク上昇に関わる可能性のある他の原因(交絡因子)を排除することができる。

研究内容

研究では2000年1月1日から2013年7月31日の間に初めて糖尿病治療薬の服用を開始した145,806人の患者記録を調べた。患者の追跡調査は2014年7月31日まで行われた。結果に影響する可能性のある因子を考慮して数値を調整したのち、ピオグリタゾンを服用した患者の膀胱がんの発生率と他の糖尿病治療薬を服用した患者の膀胱がんの発生率とを比較した。

また、ピオグリタゾンとロシグリタゾンの直接比較も行われた。ロシグリタゾンは2000年に登場した類似薬であるが、心臓発作と脳卒中のリスク上昇への懸念から2010年に販売中止となった。研究では、いずれかの薬で服用期間ないし総服用量に伴い膀胱がんの発生リスクが上昇するかを検討した。

他の因子を排除してピオグリタゾンの影響を調べるため、研究では数値について多くの感度分析を行った。分析内容には、服用開始前にすでに膀胱がんに罹患していたと思われる患者の計上を避けるために異なるカットオフ期間を用いたこと、処方を年4回以上受けた人のみを対象としたこと、膀胱に何らかの異常があった患者を除外したこと、などがある。また、膀胱がんリスクを関連しかねないさまざまな交絡因子(年齢、性別、喫煙歴の有無)を考慮して数値を調整した。

結果

追跡期間中、全体で622人が膀胱がんと診断された。

ピオグリタゾンを服用した患者は他の治療薬を服用した患者よりも発生率が高かった。ピオグリタゾンの服用期間が長いほど膀胱がんの発生率は高かった。

膀胱がんの発生リスクはピオグリタゾンを服用した患者で63%高かった(ハザード比 [HR] 1.63、95%信頼区間 [CI] 1.22~2.19)。膀胱がんの絶対リスクは低いまま変わらず、10年間でピオグリタゾンを服用した患者10,000人あたり121人、それに対し他の治療薬を服用した患者では89人であった。

研究対象の患者の多くは、4年から5年間追跡調査された。膀胱がんリスクはピオグリタゾン服用から2年以降でのみ有意に上昇した(HR1.78, 95% CI 1.21~2.64)。用量に関する明確な傾向はみられなかった。

結果に対して感度分析を行ったが有意な変化はみられなかった。

結果の解釈

研究者は、ピオグリタゾンの服用は「膀胱がんリスクの上昇と関連性がある」ことが数値から示され、またリスク上昇はピオグリタゾンに「特異的」と考えられると述べた。

また、がんの家族歴など対処しきれない因子からくるいくつかの交絡は排除できないものの、結果に対する分析からピオグリタゾンと膀胱がんリスクの上昇に対し「その他の交絡が関連する可能性は低いと思われる」と述べた。

結論

研究により、ピオグリタゾンは膀胱がんリスクの上昇と関連性があると考えられる。だが、全体的な膀胱がんの発生率は依然として非常に低い。こうした研究ではピオグリタゾンが膀胱がんリスクの上昇に関連する証明はできず、他の確定的な原因を見出すことも容易ではない。

過去に行われた研究ではすでにピオグリタゾンの服用で予想外に膀胱がんの発生率が高いことを示しているが、別の研究ではそうした関連性はみられないとしている。しかしながら、新たな研究で行われた規模と治療内容から結果は信頼できるものである。とはいえ、ピオグリタゾンがどのように膀胱がんを発生させるのかは不明である。薬剤におけるどの作用が特定のがんを引き起こすのかを調べるには、さらなる研究が必要となる。

医師はすでにピオグリタゾンで膀胱がんの「リスクが少し上昇」することを警告している。欧州の医薬品管理局(欧州医薬品局)は、膀胱がんを示唆する何らかの徴候がみられた患者に対してピオグリタゾンを使用しないこと、また服用開始前に膀胱がんのリスクを確認するよう忠告している。高齢者、喫煙、骨盤部への化学療法や放射線療法の治療歴といったリスクファクターがある患者には注意して使用するよう忠告されている。

ピオグリタゾンの処方を受けたすべての患者は、もし血糖コントロールが服用後3〜6カ月以内に改善しなければ中止する。しかしながら、十分に治療効果が認められる患者の場合、ピオグリタゾンで得られる利益がリスクを上回ると考えられる。

ピオグリタゾンを服用する場合は処方箋に従うべきである。もし膀胱がんとの関連について懸念がある場合、薬剤から得られる利益がリスクを上回るかを主治医と相談すること。血尿や排尿痛、急に尿意を感じるなど膀胱に関するどんな徴候や症状でも主治医に報告するべきである。

【キャプション】血尿は膀胱がんで最もよくみられる症状である。

翻訳担当者 渋谷 武道

監修 金田澄子(薬学/薬学博士)

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原文掲載日 

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